日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG44] 岩石・鉱物・資源

2021年6月6日(日) 17:15 〜 18:30 Ch.15

コンビーナ:門馬 綱一(独立行政法人国立科学博物館)、西原 遊(愛媛大学地球深部ダイナミクス研究センター)、野崎 達生(国立研究開発法人 海洋研究開発機構 海洋機能利用部門 海底資源センター)、土谷 信高(岩手大学教育学部地学教室)

17:15 〜 18:30

[SCG44-P01] 北上山地,遠野複合深成岩体の貫入・定置プロセス:ジルコンのU-Pb年代・Ti濃度同時分析とHf同位体分析からの制約

*小北 康弘1、三戸 和紗2、石橋 梢3、坂田 周平4、大野 剛5、鈴木 哲士3、横山 立憲1、鏡味 沙耶1、長田 充弘1、湯口 貴史2 (1.日本原子力研究開発機構東濃地科学センター、2.山形大学 理学部、3.山形大学大学院 理工学研究科、4.東京大学 地震研究所、5.学習院大学 理学部)

キーワード:ジルコン、U-Pb年代、Ti濃度、Hf同位体、遠野複合深成岩体

はじめに

北上山地南部に位置する遠野複合深成岩体(以下,遠野岩体)は,中心部にアダカイト質岩からなる中心部相と,それを取り囲む非アダカイト質岩(カルクアルカリ花崗岩)の主岩相及び周辺部相から構成される [1,2].遠野岩体のジルコンU-Pb年代として,中心部相では117.5 ± 2.4 Ma,主岩相では118.9 ± 2.6 Ma及び118.0 ± 1.2 Maが報告されており,これらは北上山地の白亜紀火成活動において最末期にあたる [3,4].遠野岩体のような累帯深成岩体の形成プロセスを明らかにすることで,北上山地における白亜紀火成活動の変遷に制約を与えることが可能である.各岩相間の貫入関係は,野外観察 [5]や全岩のNd,Sr同位体組成 [6]から推定されているが,U-Pb年代など各岩相が定置・固化した時を示すと考えられる年代値に,温度や起源マグマの情報を関連付けて議論した例はこれまでにない.深成岩体に産出するジルコンに着目すると,U-Pb年代測定を行うことでジルコンの結晶化年代を,Ti濃度定量を行うことで結晶化温度 [7]をそれぞれ推定可能であるため,それらの情報に基づいて岩体内の岩相ごとの温度-時間履歴の復元が可能となる [8].また,ジルコンのHf同位体分析を行うことで,マグマの起源に関する議論が可能である [4].本研究では,遠野岩体の各岩相の貫入・定置年代とその時の温度条件を明らかにし,岩相ごとの温度-時間履歴に制約を与えることを目的として,遠野岩体の3岩相それぞれに含まれるジルコンを対象にU-Pb同位体分析とTi濃度定量分析を実施し,ジルコンの結晶化年代と結晶化温度を推定した.さらに,ジルコンのHf同位体組成から,各岩相の起源マグマに関する議論も行う.

試料・手法

ジルコン結晶の内部組織を観察するため,遠野岩体の3岩相それぞれの岩石からジルコンを分離し,山形大学設置の走査型電子顕微鏡を用いて,ジルコンのカソードルミネッセンス(以下,CL)像による組織観察を行った.その観察結果に基づいて,レーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析法(以下,LA-ICP-MS)により,U-Pb同位体及びTi濃度の同時分析を学習院大学で実施した [9].また,LA-ICP-MSにより,Hf同位体分析を日本原子力研究開発機構東濃地科学センターで実施している.

結果・議論

ジルコンU-Pb年代の分布幅は,3岩相でオーバーラップする(Table 1).各岩相とも,CL観察から判断したジルコンのコアとリムでU-Pb年代に有意差は認められない.U-Pb年代の加重平均値は,中心部相,主岩相及び周辺部相でそれぞれ125.6 ± 2.0 Ma(9粒子,23点),116.9 ± 2.1 Ma(12粒子,32点),及び133.8 ± 2.7 Ma(1粒子,10点)である(Table 1).本研究で得た中心部相の加重平均値は既報 [3]よりも古い年代を示し,主岩相のそれは既報 [3,4]と有意差は認められない.

ジルコン中のTi濃度は,中心部相で1.96 ± 0.28 ppmから4.74 ± 0.44 ppm(9粒子,23点),主岩相で4.07 ± 0.42 ppmから13.61 ± 0.96 ppm(12粒子,32点),周辺部相で6.65 ± 0.59 ppmから8.81 ± 0.71 ppm(1粒子,10点)の濃度範囲を有する(Table 1).Ti濃度もU-Pb年代と同様に,コアとリムでの有意差は認められない.得られたTi濃度から,Titanium-in-zircon地質温度計 [10]を用いて結晶化温度を導出した(SiO2活動度は1.0,TiO2活動度は1.0を仮定).その結果は,中心部相で613 ± 38 ℃から680 ± 39 ℃,主岩相で668 ± 39 ℃から775 ± 43 ℃,周辺部相で709 ± 40 ℃から734 ±41 ℃のジルコンの結晶化温度に対応する.これらの温度は,花崗岩質マグマのソリダスに近いため,各岩相で得られたジルコンの年代値や温度は,それぞれの岩相における定置年代やマグマ溜り内の温度を反映する.今後は,分析数を増やし,Hf同位体分析の結果を踏まえることで,各岩相の貫入・定置プロセスのさらなる検討を行う.

謝辞

本研究は,経済産業省資源エネルギー庁委託事業「令和2年度高レベル放射性廃棄物等の地層処分に関する技術開発事業(地質環境長期安定性評価技術高度化開発)」の成果の一部である.

文献

[1] Tsuchiya and Kanisawa, 1994, J. Geophysical Research, 99, 205 – 220. [2] 御子柴・蟹澤, 2008, 地球科学, 62, 183 – 201. [3] 土谷ほか, 2015, 岩石鉱物科学, 44, 69 – 90. [4] Osozawa et al., 2019, J. Asian Earth Sci., 184, e103968. [5] 西村ほか, 1999, 地質学論集, 53, 177 – 188. [6] Tsuchiya et al., 2007, J. Volcanology and Geothermal Reseach, 167, 134 – 159. [7] Watson et al., 2006, Contribution to Mineralogy and Petrology, 151, 413 - 433. [8] Yuguchi et al., 2016, J. Mineralogical and Petrological Sci., 111, 9 – 34. [9] Yuguchi et al., 2020, Lithos, 372 – 373, e105682. [10] Ferry and Watson, 2007, Contribution to Mineralogy and Petrology, 154, 429 – 437.