日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG45] 海洋底地球科学

2021年6月5日(土) 09:00 〜 10:30 Ch.19 (Zoom会場19)

コンビーナ:沖野 郷子(東京大学大気海洋研究所)、座長:木戸 ゆかり(国立研究開発法人海洋研究開発機構)、山口 飛鳥(東京大学大気海洋研究所)

09:30 〜 09:45

[SCG45-03] 南極海サウスシェットランド海溝における堆積作用

*山口 飛鳥1 (1.東京大学大気海洋研究所)

キーワード:南極海、サウスシェットランド海溝、白鳳丸

沈み込む海洋プレート上および海溝に堆積した物質は、プレート境界断層の力学挙動や沈み込み帯の物質収支に大きな影響を与える。海溝域における堆積物の種類とその分布は、掘削により南海トラフ・日本海溝・カスケード・コスタリカ・バルバドス・ヒクランギ・スマトラなど多くの沈み込み帯で明らかにされてきた。一方で南極・北極とその周辺の海溝においては、陸源砕屑物に加えて漂流岩屑(Iceberg-Rafted Debris; IBRD)や珪藻の存在が予想されるものの、どのような堆積物が卓越しているかは明らかでない。そこで本研究では南極サウスシェットランド海溝(South Shetland Trench)から採取された表層堆積物の解析を行い、極域の海溝における堆積作用の実態を明らかにすることを目指す。
南極半島の西側に位置するサウスシェットランド海溝はフェニックスプレート(の残骸)と南極プレートの境界をなす。南極半島とサウスシェットランド諸島の間に位置するBransfield Straitでは背弧拡大が生じているが、前弧域での地震活動は低調である。2019年12月から2020年1月にかけて行われた白鳳丸KH-19-6航海では南極海および大西洋の9地点においてピストンコアラーによる採泥を行い、このうち、サウスシェットランド海溝周辺で、PC02, PC03, PC04, PC05の4本のコアを採取した。コアの採取場所はそれぞれ、PC02・PC04は海溝底、PC03は海溝陸側斜面、PC05は海溝海側斜面である。コアは高知コアセンターにおいてX-CT分析ののちに半裁し、MSCL分析・岩相記載とITRAXによる元素分析を行った。
海溝底で得られたPC02, PC04はいずれも、細粒砂を基底とするタービダイト層が繰り返し、PC02では少なくとも28枚、PC04では少なくとも10枚のタービダイト層が確認された。タービダイト層の砂層の間をなす泥層は、下部が茶褐色、上部がオリーブ灰色を呈し、それぞれタービダイト泥と半遠洋性泥に対応すると考えられる。ITRAX分析の結果、砂層はCa, Srに富むことが判明したが、泥層の上部と下部で顕著な化学組成の差は認められなかった。半遠洋性泥中の全有機炭素の14C年代はコア最下部で19076-18826 cal BP , コア最上部で9684-9531 cal BPであり、半遠洋性泥の平均堆積速度は約0.4 m/ky, タービダイトの平均堆積間隔は約300年と見積もられる。PC03は淘汰の悪い亜角礫を含み、ダイアミクトンまたはチャネル堆積物であると考えられる。PC05は青灰色を呈する泥中にブロック状の極細粒砂~シルトが乱雑に分布し、スランプ堆積物と考えられる。いずれのコアも泥中にはIBRDはほとんど産出しなかった。
4本のコアの検討の結果、予察的ではあるが、サウスシェットランド海溝では海側と陸側の双方から重力流により堆積物が流入していることが示唆された。一方、海溝底にIBRDはほとんど産出せず、これは南極周極流の影響で海氷が南極半島から東側に漂流することを反映していると考えられる。