日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG45] 海洋底地球科学

2021年6月5日(土) 10:45 〜 12:15 Ch.19 (Zoom会場19)

コンビーナ:沖野 郷子(東京大学大気海洋研究所)、座長:新井 隆太(国立研究開発法人海洋研究開発機構)、藤井 昌和(国立極地研究所 / 総合研究大学院大学)

11:30 〜 11:45

[SCG45-10] 琉球海溝における海底地殻変動観測2014年〜2020年

*長屋 暁大1、生田 領野2、中村 衛3、安藤 雅孝4 (1.静岡大学理学部地球科学科、2.静岡大学理学部、3.琉球大学理学部、4.静岡大学防災総合センター)

キーワード:八重山津波、琉球海溝、GNSS/音響観測、海底地殻変動、プレート間カップリング

琉球海溝最南端、八重山諸島の前弧海盆において2014年10月から2020年9月にかけて行われた、6年間のGNSS/音響観測の結果を発表する。

八重山諸島の南側では、琉球海溝に沿ってフィリピン海プレートがユーラシアプレートの下に約8cm/yrの速度で沈み込んでいる。八重山諸島の背後では沖縄トラフが約4-5cm/yrで背弧拡大しており、その結果八重山諸島とフィリピン海プレートとの収束速度は約12-13cm/yrと速い。八重山諸島の下の琉球海溝は、背弧拡大を生じる伸張場のプレート境界で、プレート間の固着が弱く巨大な地震を起こさないと考えられてきた(Scholz and Campos, 2012, JGR)。しかし、宮古島、石垣島には古くから津波の伝承が残されており、また1771年4月24日に発生した八重山地震ではこれらの島に巨大な津波が襲来したことが知られている(Nakamura, 2009, GRL)。

Nakamura (2009, GRL)では、Nakata and Kawana (1995)の波高データを元に津波の数値シミュレーションを行い,八重山地震を琉球海溝で発生したMw8.0の津波地震であると推定した。また,石垣島における津波堆積物のトレンチ調査からは、八重山地震が激しい地震動を伴った巨大地震であったこと、また1771年とほぼ同規模の津波が過去 2000年間に約600年間隔で4回起きていたことが推定されている(Ando et al., 2018, Tectonophysics)。 Nakamura (2009, GRL)で推定された震源域周辺におけるプレート境界の固着の有無を推定するため、2014年10月に静岡大学及び琉球大学によって、波照間島南沖約40kmの水深約3300mの前弧域に海底局が投入された。本研究では、2014年10月から2020年9月にかけて計7回行われた観測データから、6年間の海底局の移動を推定した。

海底局の位置推定は、キネマティックGPSデータ、船の姿勢データ、音波の走時データ、XCTDデータを使用して、Ikuta et al. (2008, JGR)の手法を用いて行った。キネマティックGPSデータの解析には、7回中6回のキャンペーンでNASA/GSFCで開発された長基線解析ソフトウェアIT(Interferometry Trajectory)を使用したが、ITによる解析結果で天文潮位とGPSアンテナの高さ変化とのズレが大きかった2014年のキャンペーンのみ、RTKLIB(Takasu,2006)を用いてキネマティックGPSの再解析を行った。海底局位置推定に際しては、音速構造が時間的に滑らかに変化し、全観測期間において3つの海底局の幾何形状が変化しないとする仮定を導入し、罰則付き最小二乗法により全キャンペーンの海底局の座標値を同時に推定した。

推定された全キャンペーンの海底局位置から平均速度ベクトルを算出すると、ユーラシアプレート(揚子江プレート)に対して南向き64.2±11.2mm/yr,東向き25.8±9.8mm/yr, 沈降24.8±8.0mm/yrと推定された。求められた速度での各キャンペーンでの予測値と実際の海底局位置の残差のrmsは、南北54.3mm、東西47.8mm、上下39.0mmであった。RTKLIBによる2014年のGNSSデータの再解析前にはこれらはそれぞれ61.0mm, 66.4mm, 40.7mmであったので、2014年のGNSSデータの改善が解析結果に影響したことがわかる。

本発表では上記の結果に基づき、琉球海溝最南端でのプレート間固着の有無について議論する。