日本地球惑星科学連合2021年大会

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[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG47] 地殻表層の変動・発達と地球年代学/熱年代学の応用

2021年6月4日(金) 10:45 〜 12:15 Ch.23 (Zoom会場23)

コンビーナ:長谷部 徳子(金沢大学環日本海域環境研究センター)、末岡 茂(日本原子力研究開発機構)、堤 浩之(同志社大学理工学部環境システム学科)、田上 高広(京都大学大学院理学研究科)、座長:末岡 茂(日本原子力研究開発機構)

10:45 〜 11:15

[SCG47-01] 宇宙線生成核種による年代測定手法を活用したチベット高原北東縁における変動地形学的研究の紹介

★招待講演

*白濱 吉起1 (1.国立研究開発法人産業技術総合研究所地質調査総合センター活断層火山研究部門活断層評価研究グループ)

キーワード:変動地形学、活断層、宇宙線生成核種、表面照射年代、チベット高原

チベット高原はインドプレートとユーラシアプレートの衝突により隆起し,現在もその領域を側方へ拡大させている.高原北東縁では,衝突の影響によってAltyn Tagh Fault やKunlun Fault,Haiyuan Faultといった長大な左横ずれ断層やその周辺に多数の逆断層が形成されている.こうした断層の活動開始時期や変位速度を明らかにすることは,チベット高原北東縁の発達過程を明らかにする上で重要である.本地域は寒冷かつ乾燥した気候のため,侵食速度が小さく,古い地形面の保存が非常によい地域である.しかし,1990年代までは,適した年代測定手法がなく,定量的な分析が困難な地域であった.1990年代に宇宙線生成核種(in situ Terrestrial Cosmogenic Nuclide: TCN)を用いた表面照射年代測定手法が開発され,手法として確立すると,本地域の変動地形研究に広く活用されはじめた.本手法は活断層の平均変位速度の推定などの定量的な解析を可能とし,チベット高原におけるテクトニクスの研究には欠かせない手法となっている.本発表では,筆者が実施したKumkol盆地と共和盆地における研究を中心に,本地域におけるTCNの活用事例を紹介する.
Kumkol盆地はAltyn Tagh FaultとKunlun Faultの合流点付近に位置する盆地で,盆地内には多くの逆断層や褶曲で構成された長波長(〜40km)の複背斜構造が存在する.複背斜構造はPitileke Riverの形成した扇状地や段丘面を著しく変形させており,それらの解析により変位速度などのデータが得られることが期待された.これらの地形面に対して変動地形解析を行うとともに,TCNを用いた表面照射年代測定による編年を行った結果,扇状地及び段丘面は大きく分けて6段に分類され,最も古い扇状地面の離水年代が252 ± 24 kaと推定された.得られた年代値と解析結果から複背斜構造全体の隆起速度が約1.0 mm/yr,短縮速度が2.5-3.2 mm/yrと求められ,チベット高原とQaidam盆地の間の短縮変形の一部を吸収していることがわかった.
共和盆地はチベット高原北東縁に位置しており,北側のQinghai Nan Shanと南側のHeka Shanにはさまれた平均標高3200 mの盆地である.共和盆地はかつて黄河が運搬した厚さ500 m以上の堆積物で埋積されたが,その後黄河は下刻に転じ,下刻に伴って多数の段丘が形成された.本地域では,堆積物中のTCN蓄積量を分析することにより,盆地の埋積過程を明らかにすることを試みた.試料は黄河が盆地堆積物を下刻して形成した谷壁を利用し,盆地堆積物の頂面から谷底まで,深度およそ50mごとに9点の試料を採取した.採取した試料中の10Beと26Alの蓄積量比を測定し,宇宙線が遮蔽されてからの期間(埋没年代)を推定した結果,一部の試料を除き,深い深度の試料ほど古い埋没年代を示す系統的な値が得られた.埋没年代と採取深度は,ほぼ直線上にプロットされ,5-8Ma以降の堆積速度が約70 mm/kyrと求められた.これは中新世後期以降の共和盆地ではほぼ定常的な堆積が生じていたことを示唆している.