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[SCG47-P01] 複数時間スケールの削剥速度データに基づいた日本列島の山地発達段階の分類
キーワード:山地発達、削剥、ダム堆砂量、宇宙線生成核種法、熱年代学
本研究では,山地の発達段階(Ohmori, 1978, Bull. Dept. Geogr. Univ. Tokyo)に着目することで,101~107年の複数時間スケールの削剥速度データに基づいた,日本列島の山地の分類を試行した.島弧変動帯に属する日本列島では,成因や地質,気候などの違いを反映して,多種多様な規模や形態の山地が分布している.このような山地の特長を系統的に理解し,地球科学的な意味を付与するための一手段として,共通する性質に着目して,山地を分類するという方法が挙げられる.古典的な分類法には,例えば,山地の成因に基づいた分類(貝塚・鎮西,1986,「日本の山」;小疇,2007,「山を読む」)や,山地の形態的特徴に基づいた分類(山田,1999,地学雑;米倉ほか,2001,「日本の地形1総説」)が知られている.しかし,前者には,成因が不明瞭な山地や,複合的な要因でできた山地の取り扱いの点で問題がある.後者は,分類の基準は前者より明確であるが,形態的特徴と地球科学的特徴との関係が必ずしも明らかでない点に課題が残されている.一方,より最近の取り組みとして,山地の発達段階(Ohmori, 1978)に着目した分類が試みられている(安江ほか,2011,JAEA-Res.;浅森ほか,2012,JAEA-Res.).すなわち,山地の成長とともに,隆起速度と削剥速度が動的平衡状態に収束していくことを利用して,削剥速度と隆起速度の比から山地の発達段階を推測し,発達段階に応じて分類する方法である.この方法は,分類基準が明確かつ定量的で,地球科学的な意味付けが自明なのが利点である.しかし,削剥が卓越する山地地域では,隆起量の指標となる地形や地層等の発達や保存が乏しいこともあり,隆起速度を正確に推定することは簡単ではない.特に隆起速度が遅い山地では,わずかな推定誤差により,削剥速度と隆起速度の比が大きく増減し,発達段階の認定精度が悪化する.そこで本研究では,削剥速度の時間変化パターンを基に発達段階を認定することで,分類法の信頼性向上を試みた.削剥速度の推定に用いた手法(及び対象時間スケール)は,ダムの堆砂量(数10年以内),宇宙線生成核種法(102~104年程度),熱年代学的手法(106~107年程度)の3種類である.ダムの堆砂量と宇宙線生成核種法は日浦ほか(投稿中)を,熱年代学的手法はSueoka & Tagami (2019, Isl. Arc)のデータを基にした.全国の14山地について,これらのデータから削剥速度の時間変化を調べたところ,以下で述べる4パターンに分類することができた(なお以下では,削剥速度が1~10mm/yrをA級,0.1~1mm/yrをB級,0.01~0.1mm/yrをC級と表現する).1つ目は,数百万年前以降,A級の削剥速度を維持する山地である.日本アルプスの飛騨山脈,木曽山脈,赤石山脈といった3000m級の山地が該当し,鮮新世から第四紀の急速な隆起・削剥により,隆起と削剥が動的平衡に達した「極相期」(吉川,1984,地理評)に入っていると考えられる.2つ目は,数百万年前まではB級以下だが,それ以降にA級に加速する山地である.近畿三角帯の逆断層地塊や東北背弧の飯豊・朝日山地など,1000m級~2000m級の山地が該当する.1つ目のグループより隆起が遅いため,いまだに隆起と削剥が動的平衡に達していない「成長期」の後半にあたる山地と考えられる.3つ目は,一貫してC~B級の山地である.北上山地,阿武隈山地,吉備高原など,地形的にも明瞭な隆起準平原が広く分布している山地が該当し,削剥がほとんど進行しておらず「成長期」の前半に該当すると判断できる.4つ目は,数百万年前以前はA級だが,それ以降にB級に減速する山地である.日高山脈のような中新世に活発に隆起して,その後減速した山地が該当する.山地の発達段階では,隆起が停止し高度が低下する「減衰期」にあたる可能性がある.今後は,1)山地の適用事例の増加,2)各山地の削剥速度データの充実,3)光ルミネッセンス(OSL)熱年代(小形・末岡,印刷中,Radioisotopes)による104~105年スケールの削剥速度データの取得,などを通じて分類手法の精度向上と妥当性の検証を進めていく予定である.
【謝辞】
本報告は経済産業省資源エネルギー庁委託事業「平成30-31年度高レベル放射性廃棄物等の地層処分に関する技術開発事業(地質環境長期安定性評価技術高度化開発)」の成果の一部である.
【謝辞】
本報告は経済産業省資源エネルギー庁委託事業「平成30-31年度高レベル放射性廃棄物等の地層処分に関する技術開発事業(地質環境長期安定性評価技術高度化開発)」の成果の一部である.