日本地球惑星科学連合2021年大会

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[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG47] 地殻表層の変動・発達と地球年代学/熱年代学の応用

2021年6月4日(金) 17:15 〜 18:30 Ch.16

コンビーナ:長谷部 徳子(金沢大学環日本海域環境研究センター)、末岡 茂(日本原子力研究開発機構)、堤 浩之(同志社大学理工学部環境システム学科)、田上 高広(京都大学大学院理学研究科)

17:15 〜 18:30

[SCG47-P03] (U-Th)/He熱年代学に基づく谷川岳地域の隆起・削剥史の推定

*南 沙樹1、末岡 茂2、KOHN Barry3、福田 将眞2、梶田 侑弥1、小北 康弘2、田上 高広1 (1.京都大学大学院理学研究科、2.日本原子力研究開発機構、3.メルボルン大学)


花崗岩は一般的に地下数km~数十kmで形成されるため,数Maの若い花崗岩が露出している地域では,極めて速い隆起・削剥が起きていると考えられる.これらの若い花崗岩体の分布は,世界的にはプレート収束境界に集中している(Harayama, 1992).日本国内では,北アルプスの飛騨山脈や南部フォッサマグナの丹沢山地から,ジルコンU-Pb年代で数Maより若い花崗岩が報告されている(Tani et al., 2010; Ito et al., 2013).また,花崗岩のフィッション・トラック(FT)法,(U-Th)/He法などの閉鎖温度の低い熱年代学的手法の結果からも,これらの地域で極めて速い隆起・削剥が起きている可能性がある(Ito and Tanaka, 1999; Yamada and Harayama, 1999; 山田, 1999; Yamada and Tagami; 2008).

本研究の対象地域である谷川岳周辺では,黒雲母K-Ar年代(佐藤,2016)や全岩Rb-Sr法(大平,1999)らの年代学的な研究により,花崗閃緑岩体(谷川岳岩体;佐藤,2016)が中新世~鮮新世に形成されたと推定されてきた.しかし,黒雲母K-Ar年代の閉鎖温度は花崗岩の形成温度より約300℃低いことや,全岩Rb-Sr年代値は一点しかない上に誤差が大きいことから正確な形成年代は得られていない.最近では,南ほか(2021,FT研究会)により,谷川岳周辺において4地点のジルコンU-Pb年代が得られた.谷川岳花崗閃緑岩の西側岩体では3.19±0.15 Maおよび,3.32±0.15 Ma,東側岩体では3.95±0.14 MaのU-Pb年代が得られた(いずれも誤差は2σ).また白亜紀みなかみ花崗閃緑岩からは,109.3±3.2 Maの年代が得られた.これらの研究により,谷川岳地域の花崗岩体の形成年代が高精度で推定された.一方,その後の隆起・削剥による山地形成過程やそのメカニズムについては,谷川岳花崗閃緑岩は大平ほか(1999)により3.3-2.9 MaのZFT年代と1地点で2.4 MaのAFT年代が報告されているものの,1地点での上昇速度の推定にとどまっているため,議論は不十分である.

本研究では,アパタイトおよびジルコンの(U-Th)/He年代測定(それぞれAHe法,ZHe法)を適用し,谷川岳地域の隆起・削剥史を検討した.AHe法およびZHe法の閉鎖温度は,それぞれ60℃と180℃であり,一般的に用いられる熱年代学の手法では最も低い部類に属する(例えば,Ault et al., 2019).一般的な地温勾配(30℃/km)を仮定すればこれらの温度はそれぞれ深度2kmと6kmに相当するため,これらの手法は地殻の6km,2km以浅の隆起・削剥履歴の推定に有効である.

本研究では,6地点のAHe年代とZHe年代を得た(各年代値は95%信頼区間を持つ加重平均年代).谷川岳花崗閃緑岩の西側岩体では,2.6-1.4 MaのZHe年代および,2.5-1.3 MaのAHe年代が得られた.東側岩体では,3.1-2.7 MaのZHe年代および3.3-2.0 MaのAHe年代が得られた.また白亜紀みなかみ花崗閃緑岩では,2.4±0.2 MaのAHe年代および,単粒子年代には大きなばらつきがあるが,参考年代値として30.4±0.9(1σ) Ma のZHe年代が得られた.これらの結果はジルコンU-Pb法,ZHe年代およびAHe年代の閉鎖温度の関係を考えると,整合的な結果である.谷川岳花崗閃緑岩では,既報値のジルコンU-Pb年代3地点と今回得られた結果を比較すると,どの地点でも年代値に2σで有意な差があるため,貫入による初期冷却の可能性は低いと考えられる.白亜紀みなかみ花崗岩体は,ZHe法の参考年代値を考えると約180℃以上では徐冷傾向を示すが,AHe年代が谷川岳花崗閃緑岩と一致することから,3-2 Ma頃にまとめて急激な削剥を被った可能性がある.また,これらの冷却年代と閉鎖温度に基づいた温度-時間プロットによれば,谷川岳花崗閃緑岩では,西側岩体の1地点はほかの西側岩体や東側岩体の採取地点に比べて徐冷されたこと,2地点において平均削剥速度は約3Maを境に変化したことなどが示唆される.

今後の展望としては,熱史を高精度に制約可能なFT法に基づく熱史逆解析と,測定地点数の増加,また定置深度の推定を目的としたAl-in-Hb圧力計を適用し,より詳細な山地全体の隆起・削剥史の推定を試みる予定である.