15:00 〜 15:15
[SCG49-06] 地震波異方性からみた東北地方の地殻・最上部マントル構造
★招待講演
キーワード:地震波異方性、東北地方、トモグラフィー、テクトニクス
1.はじめに
地震波速度の方向依存性を総称して「地震波異方性」という.地震波異方性は,応力場や運動場,構造の幾何学的特徴を反映することが,岩石学や鉱物物性の実験的研究,シミュレーション研究などから示されており,沈み込み帯の構造を理解するのに有用な指標となる.
本発表では,東北地方を対象にした地震波異方性トモグラフィー解析結果のうち,地殻および最上部マントルの構造に注目してその特徴を紹介する.また,これらの地震波異方性の解釈を通して,背景にある変動やテクトニクスについて考えたい.なお,本解析に基づく太平洋スラブとマントルウェッジの構造およびダイナミクスに関する検討は,Ishise et al. (2018 GRL)を参照されたい.
2.地震波異方性トモグラフィー
本研究では,①方位異方性および②鉛直異方性を考慮した2種類のトモグラフィー解析を実施した(Ishise et al., 2018).①の解析からは,地震波が速く伝わる方位が得られ,②の解析からは,水平面方向に伝播する波と鉛直方向に伝播する波の速さが比較できる指標が得られる.①,②ともに,3Dの異方性分布が3Dの等方性不均質構造とともに得られる.なお,解析には,NIEDによるP波読み取り値を使用した.
3.東北地方の地震波異方性構造の特徴と解釈
トモグラフィー解析で得られた東北地方下の上部地殻・下部地殻・マントルウェッジの異方性構造の主な特徴と解釈を記す.
上部地殻(深さ0,10㎞)
方位異方性: 深さ10 kmでは,北上山地では北北西—南南東〜南北の異方性が卓越し,それ以西の地域では北西―南東方向とそれに直交するような異方性が混在している.深さ0 kmでは,南北に速い異方性領域と東西に速い異方性領域が混在する.南北に速い異方性領域は,発震機構が南北方向の圧縮軸で特徴付けられる北上高地と南北方向の走向をもつ主要な活断層周辺に集中して見られる.一般に,上部地殻の異方性は広域応力場で説明されるが,本研究で得られた異方性は,広域応力場というよりは地域的な応力場や断層周辺に発達する特徴的な構造に起因していると解釈される.
鉛直異方性: 深さ10 kmにおいて,太平洋岸地域でVPH<VPV,前弧側地域でVPH>VPV,背弧側地域と日本海沿岸部でVPH<VPVの鉛直異方性が見られる.深さ0 kmでは,太平洋岸地域と日本海岸地域のVPH<VPVは分解能の問題から明らかではないが,陸域におけるパターンは深さ10 kmと同様である.上部地殻には,前弧側と背弧側に分けられる大規模構造が存在することが示唆される.
下部地殻(深さ25 km)
方位異方性: 陸域下において,東西系(西北西-東南東~東西)の異方性が広く分布する.この方向は,太平洋プレートのオホーツクプレートに対する相対運動の方向とほぼ一致しており,太平洋プレートの沈み込みによって生じた下部地殻における塑性変形や流れ場を反映しているのかもしれない.
一方,太平洋と日本海の沿岸域には,南北に速い異方性領域が海岸線に沿って帯状に存在している.これらの場所に南北方向の変形場や流れ場が存在するとは考えにくいので,南北に走向を持つような発達した面(層)構造の存在が示唆される.
加えて,東北地方の中央部を北西から南東方向に横切るように北西—南東方向の異方性帯が見られる.本庄—仙台構造線とほぼ一致しており,その深部構造の特徴を反映しているのかもしれない.
鉛直異方性: 南北方向の方位異方性が見られた三陸海岸沿いと福島県の沿岸地域において,顕著なVPH>VPVが示されている.鉛直異方性の特徴から,上で指摘した面構造の傾斜は緩やかであると考えられる.一方,陸域下では,所々に強いVPH<VPVが見られ,全体としてVPH<VPV の傾向が見られる.このことから,東北地方下の下部マントルは水平成層構造ではないことが示唆される.
マントルウェッジ(深さ40 km以深)
方位異方性: 東西系の異方性が陸域下に広く分布する.その方向は東北地方下の太平洋スラブの最大傾斜方向とほぼ一致している(スラブ等深度線の走向と直行).マントル異方性は,現在の流れ場によるマントル鉱物の結晶格子の選択的配向に起因すると考えられるので,東北日本下のマントルウェッジには,プレート形状を反映した流れ場(変形場)が形成されていると推定される.
鉛直異方性: 陸域下では,VPH(水平面内を伝播する平均P波速度)<VPV(鉛直方向に伝播するP波速度)の傾向が見られる.小規模対流 (Honda & Yoshida, 2005) による鉛直流の存在が示唆される.また,異方性の強さには強弱が見られ,火山の分布と対応しているようにも見えるが明らかではない.
4.おわりに
本研究では,上部地殻・下部地殻・マントルウェッジの異方性の特徴を示し,これらを個々に解釈した.次の段階として,東北地方の異方性構造の包括的な解釈を目指す.
地震波速度の方向依存性を総称して「地震波異方性」という.地震波異方性は,応力場や運動場,構造の幾何学的特徴を反映することが,岩石学や鉱物物性の実験的研究,シミュレーション研究などから示されており,沈み込み帯の構造を理解するのに有用な指標となる.
本発表では,東北地方を対象にした地震波異方性トモグラフィー解析結果のうち,地殻および最上部マントルの構造に注目してその特徴を紹介する.また,これらの地震波異方性の解釈を通して,背景にある変動やテクトニクスについて考えたい.なお,本解析に基づく太平洋スラブとマントルウェッジの構造およびダイナミクスに関する検討は,Ishise et al. (2018 GRL)を参照されたい.
2.地震波異方性トモグラフィー
本研究では,①方位異方性および②鉛直異方性を考慮した2種類のトモグラフィー解析を実施した(Ishise et al., 2018).①の解析からは,地震波が速く伝わる方位が得られ,②の解析からは,水平面方向に伝播する波と鉛直方向に伝播する波の速さが比較できる指標が得られる.①,②ともに,3Dの異方性分布が3Dの等方性不均質構造とともに得られる.なお,解析には,NIEDによるP波読み取り値を使用した.
3.東北地方の地震波異方性構造の特徴と解釈
トモグラフィー解析で得られた東北地方下の上部地殻・下部地殻・マントルウェッジの異方性構造の主な特徴と解釈を記す.
上部地殻(深さ0,10㎞)
方位異方性: 深さ10 kmでは,北上山地では北北西—南南東〜南北の異方性が卓越し,それ以西の地域では北西―南東方向とそれに直交するような異方性が混在している.深さ0 kmでは,南北に速い異方性領域と東西に速い異方性領域が混在する.南北に速い異方性領域は,発震機構が南北方向の圧縮軸で特徴付けられる北上高地と南北方向の走向をもつ主要な活断層周辺に集中して見られる.一般に,上部地殻の異方性は広域応力場で説明されるが,本研究で得られた異方性は,広域応力場というよりは地域的な応力場や断層周辺に発達する特徴的な構造に起因していると解釈される.
鉛直異方性: 深さ10 kmにおいて,太平洋岸地域でVPH<VPV,前弧側地域でVPH>VPV,背弧側地域と日本海沿岸部でVPH<VPVの鉛直異方性が見られる.深さ0 kmでは,太平洋岸地域と日本海岸地域のVPH<VPVは分解能の問題から明らかではないが,陸域におけるパターンは深さ10 kmと同様である.上部地殻には,前弧側と背弧側に分けられる大規模構造が存在することが示唆される.
下部地殻(深さ25 km)
方位異方性: 陸域下において,東西系(西北西-東南東~東西)の異方性が広く分布する.この方向は,太平洋プレートのオホーツクプレートに対する相対運動の方向とほぼ一致しており,太平洋プレートの沈み込みによって生じた下部地殻における塑性変形や流れ場を反映しているのかもしれない.
一方,太平洋と日本海の沿岸域には,南北に速い異方性領域が海岸線に沿って帯状に存在している.これらの場所に南北方向の変形場や流れ場が存在するとは考えにくいので,南北に走向を持つような発達した面(層)構造の存在が示唆される.
加えて,東北地方の中央部を北西から南東方向に横切るように北西—南東方向の異方性帯が見られる.本庄—仙台構造線とほぼ一致しており,その深部構造の特徴を反映しているのかもしれない.
鉛直異方性: 南北方向の方位異方性が見られた三陸海岸沿いと福島県の沿岸地域において,顕著なVPH>VPVが示されている.鉛直異方性の特徴から,上で指摘した面構造の傾斜は緩やかであると考えられる.一方,陸域下では,所々に強いVPH<VPVが見られ,全体としてVPH<VPV の傾向が見られる.このことから,東北地方下の下部マントルは水平成層構造ではないことが示唆される.
マントルウェッジ(深さ40 km以深)
方位異方性: 東西系の異方性が陸域下に広く分布する.その方向は東北地方下の太平洋スラブの最大傾斜方向とほぼ一致している(スラブ等深度線の走向と直行).マントル異方性は,現在の流れ場によるマントル鉱物の結晶格子の選択的配向に起因すると考えられるので,東北日本下のマントルウェッジには,プレート形状を反映した流れ場(変形場)が形成されていると推定される.
鉛直異方性: 陸域下では,VPH(水平面内を伝播する平均P波速度)<VPV(鉛直方向に伝播するP波速度)の傾向が見られる.小規模対流 (Honda & Yoshida, 2005) による鉛直流の存在が示唆される.また,異方性の強さには強弱が見られ,火山の分布と対応しているようにも見えるが明らかではない.
4.おわりに
本研究では,上部地殻・下部地殻・マントルウェッジの異方性の特徴を示し,これらを個々に解釈した.次の段階として,東北地方の異方性構造の包括的な解釈を目指す.