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[SCG49-12] 本州弧地殻の温度構造:地震波トモグラフィーからの推定
キーワード:温度構造、本州弧
島弧地殻の温度構造を定量的に解明することは、島弧地殻の変形や地殻内地震の分布を理解するうえで重要である。地震波トモグラフィーを温度構造として解釈するために、地殻深部を構成する深成岩類・変成岩類とその構成鉱物の弾性波速度の特性を理解する必要がある。これまでの地殻深部相当の高温高圧下で実施した岩石鉱物の弾性波速度測定によれば、P波速度(Vp)とS波速度(Vs)は明確な負の温度依存性を示す一方、Vp/Vs比は地殻深部相当の高温範囲ではほぼ一定であり温度依存性が極めて小さいことが明らかにされている。Vp/Vs比は岩石・鉱物の種類に大きく依存する特徴があるので、任意の深さの地震波トモグラフィーから特定のVp/Vs比の領域のP波速度とS波速度を抽出することによって、P波速度パータベーションまたはS波速度パータベーションを温度差として解釈することが可能である。本研究では、防災科学技術研究所の三次元地震波トモグラフィー(Matsubara et al.,2019)を用いて、任意のVp / Vs範囲のP波速度とS波速度を抽出した。さらに、実験的に決定されたP波速度とS波速度の温度依存性を参照しながら、抽出された速度構造を温度構造として変換した。本研究で推定された温度構造の特徴の例を以下に説明する。東北本州弧の深さ20 kmの地震波トモグラフィーから、任意の苦鉄質岩の分布域の速度データを抽出するために一定のVp/Vsの領域の速度データを抽出(温度成分を抽出)した。温度構造を推定する上で、岩石学で推定された温度構造を参考に、解析域の深さ20 kmの温度を最高685℃と仮定した。男鹿半島の一ノ目潟に産する下部地殻由来の苦鉄質捕獲岩のP波速度とS波速度の温度依存性を参照しながら、速度低下率を仮定し、温度分布を推定した。例えば、北緯39.75-40°では、奥羽脊梁山脈の下部地殻が最も高温であると推定され、北上低地帯と八郎潟に向かって東西に温度が低下していることも読み取れる。特に日本海東縁周辺の中新世リフト活動部では温度が低い特徴が読み取れた。これらの特徴は東北本州弧では一般的であるが、当然ながら例外もある。詳細な温度構造ならびに本州弧全般については講演で説明する。