日本地球惑星科学連合2021年大会

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[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG49] 島弧の構造・進化・変形とプレート沈み込み作用

2021年6月4日(金) 17:15 〜 18:30 Ch.17

コンビーナ:石川 正弘(横浜国立大学大学院環境情報研究院)、篠原 雅尚(東京大学地震研究所)、松原 誠(防災科学技術研究所)、石山 達也(東京大学地震研究所)

17:15 〜 18:30

[SCG49-P01] 鳥海山、西鳥海カルデラ内噴出物をもたらしたマグマ供給系

久次米 晃輔2、*伴 雅雄1、林 信太郎3、大場 司4、佐藤 初洋2 (1.山形大学理学部、2.山形大学大学院理工学研究科、3.秋田大学大学院教育学研究科、4.秋田大学大学院国際資源学研究科)

キーワード:鳥海山、マグマ供給系、普通角閃石

はじめに:鳥海火山は東北日本背弧側に位置する活火山で、約60万年活動を続けている成層火山である。活動は3ステージに分けられ、ステージ2に西鳥海火山がステージ3に東鳥海火山が形成された。西鳥海カルデラは西鳥海火山形成中に山頂付近に形成された北西に開く馬蹄形カルデラで、カルデラ内活動は完新世まで活動が続いた。本研究では、西鳥海カルデラ内噴出物の層序に沿った試料について岩石学的研究を進め、噴出物をもたらしたマグマ供給系を解明した。特に、中部地殻レベルでの主要結晶層のひとつが角閃石であり、それらが深部マフィックマグマの上昇中にマグマポケットを形成するなどして生成されていた可能性が高いことなどを報告する。

層序:西鳥海カルデラ内の噴出物は下位から、中ノ沢下部溶岩類、扇子森溶岩ドーム、中ノ沢上部溶岩類、鳥ノ海スコリア(降下スコリア)、鍋森湿原アグルチネート、その上位の鍋森山溶岩ドーム、前鍋森山溶岩ドーム、万助道溶岩に分類できる。鍋森山溶岩ドーム、前鍋森山溶岩ドーム、万助道溶岩、の新旧関係は不明である。噴出物の総体積は約0.8 km3である。

岩石:岩石は暗灰色~灰色の溶岩または黒色のスコリアからなる。斜長石、単斜輝石、直方輝石、かんらん石、角閃石斑晶は全ての噴出物に含まれる。鳥ノ海スコリア・中ノ沢上部溶岩類・扇子森溶岩ドームは、かんらん石斑晶に、また、鍋森山溶岩ドーム・前鍋森山溶岩ドーム・万助道溶岩は角閃石斑晶に富む。ディクチタキシチック組織を示す苦鉄質包有物がほとんどの溶岩に認められ、またスコリアの一部のものは縞状組織を示す。苦鉄質包有物は、かんらん石と角閃石斑晶を含むもの(タイプA)と含まないもの(タイプB)がある。

全岩化学組成:母岩はハーカー図上で大局的に一連のトレンドを描き、高カリウム、カルクアルカリ系列に属する。SiO2量は、中ノ沢下部溶岩類は57-59%、扇子森溶岩ドーム・鳥ノ海スコリア・中ノ沢上部溶岩類は54-57%、鍋森湿原アグルチネートは57-60%、鍋森山溶岩ドーム・前鍋森山溶岩ドーム・万助道溶岩は59-61%である。詳しく見ると、中ノ沢下部溶岩類と扇子森溶岩ドームからなるトレンド(トレンドL)と中ノ沢上部溶岩類・鳥ノ海スコリア・鍋森湿原アグルチネートからなるトレンド(トレンドU)が認識できる。K2O, Rb, Sr, MgO, Cr, Ni図でLはUより低め、FeO, TiO2, V図ではその逆の傾向がある。鍋森山・前鍋森山両溶岩ドーム・万助道溶岩は元素によってトレンドL、Uの延長上のどちらの近くに乗るか異なる。苦鉄質包有物のタイプAは、母岩と同様の系列に属す一方で、タイプBは中間カリウム、ソレアイト系列に属す。タイプAは母岩全体の示すトレンドの苦鉄質側延長上に乗る。タイプBは母岩とは異なるトレンドを示す。

鉱物化学組成:苦鉄質鉱物の化学分析を行った。コア組成で見ると、どの噴出物にも低Mg単斜輝石(Mg#=71-74)と直方輝石(Mg#=64-67)及び高Fo(~85)かんらん石が常に、中~高Mg単斜輝石(Mg#~85)と直方輝石(Mg#~73程度)が稀に認められる。低Mg#の外縁部近くには~30µm幅の高Mg帯(Mg#= ~83)が認められる場合が多い。角閃石はマグネシオホルンブレンド、パーガシティックホルンブレンド、パーガサイト組成を持つものが認められた。前者は中ノ沢下部溶岩類と扇子森溶岩ドーム以外のユニットに、後者は全ユニットに認められた。輝石温度計を低Mg輝石コア組成に適用すると、850℃程度の値が得られた。角閃石温度圧力計を用いると、マグネシオホルンブレンド、パーガシティックホルンブレンド、パーガサイトについて、約840-860℃及び1.2-1.5kb、940-960℃前後及び2.7-3.3kb、約1000℃及び4.5-6.0kbの晶出温度圧力が各々得られた。マグネシオホルンブレンドは中ノ沢下部溶岩類と扇子森溶岩ドーム以外のユニットに含まれる。パーガシティックホルンブレンドは多くのユニットに含まれるが、鳥ノ海スコリア・中ノ沢上部溶岩類に含まれるものは小さい。パーガサイトは、鍋森湿原アグルチネートのうちSiO2量に富むものと、鍋森山溶岩ドーム・前鍋森山溶岩ドーム・万助道溶岩及扇子森溶岩ドームに含まれる。

マグマ供給系:角閃石の圧力から、浅部のマグマ溜りは地下約4-5kmに位置していたと考えられる。ここで低Mg量の輝石とマグネシオホルンブレンドが結晶化していた。そこに苦鉄質マグマが注入し、噴火に至ったと考えられる。注入したマグマは約20km以深で高Foかんらん石を晶出していたもので、上昇途中の複数の深度でマグマポケットなどを形成してパーガサイトやパーガシティックホルンブレンドを晶出した。鳥ノ海スコリア・中ノ沢上部溶岩類の時には上昇速度が速かったためか、パーガサイトは十分に成長しなかった。なお、全岩組成のトレンドが中ノ沢下部溶岩類と扇子森溶岩ドームとそれ以降では異なるため、活動していた浅部マグマと深部マグマの両方の組成が変化した可能性がある。