09:45 〜 10:00
[SCG50-04] 測地・地形・地質の統合的アプローチによるひずみ集中帯における地殻の変形の可視化:南九州せん断帯における事例
★招待講演
キーワード:ひずみ集中帯、GNSS観測、リニアメント、多重逆解法、南九州
変動帯に位置する日本列島には、多数の活断層が分布しているが、それらの大半は、数百万年前~50万年前には現行の活動を開始していることが知られている(道家ほか, 2012, 活断層研究)しかしながら、最近になって活動を開始した活断層は、未成熟で地形的特徴に乏しく、既存の調査からは検出できていない可能性がある。
一方、1990年代以降に全国的に整備されたGNSS観測網による観測結果に基づき、日本列島の複数地域において、大きなせん断ひずみ速度が計算されるひずみ集中帯の存在が指摘されている(Sagiya et al., 2000, PAGEOPH; Nishimura and Takada, 2017, EPSなど)。このようなひずみ集中帯は、今は未成熟でも今後発達する可能性のある断層が伏在している有力な地域であると言える。
筆者らは、地下に伏在する断層などの活構造を検出し、それによる破壊や変形の影響を把握する手法の構築を目的として、鹿児島県の南九州せん断帯を対象としたGNSS稠密観測、地形判読、および地質調査を組み合わせた検討を進めてきた。九州南部では、既往の測地学的研究においても、東西トレンドで左ずれの運動センスを示すひずみ集中帯の存在が指摘されている(Nishimura and Hashimoto, 2006, Tectonophysics; Wallace et al., 2009, Geology)。筆者らが2016年3月より4年余りにわたって実施してきたGNSS稠密観測においても、同せん断帯で地表より約8 kmの深さで固着が、それ以深で約10 mm/yrの左横ずれセンスの定常すべりが生じていることが示された。
地形判読は、南九州全体を対象として実施した。当該地域には、活断層は出水断層帯などわずかしか知られておらず(地震本部:九州地域の活断層の長期評価)、それらの位置もGNSS稠密観測から推定されるひずみ集中帯の分布とは必ずしも調和的でない。本研究では、変動地形が認められないものの地形的な直線性のあるランクの低いリニアメントまで判読した。その結果、GNSS稠密観測から認識されるひずみ集中帯の近傍で、かつ1997年の鹿児島県北西部地震(鹿児島大学理学部, 1997, 地震予知連絡会会報)の東西性の余震域を含む地域において、東西方向のリニアメントの分布密度が高い領域が認められた(後藤ほか, JAEA-Research 2020-013)。
続いて、リニアメント密度が高い領域を中心とした約20 km四方の範囲において、地質調査を実施した。当該地域には、条線を伴う小断層は多数認められるものの、断層ガウジやカタクレーサイトを伴う破砕帯は極めて少なく、それらがリニアメントに沿って連続して分布する傾向も認められなかった。そこで、以下に示す2つの方法により、小断層データから推定される応力場が、左ずれのひずみ集中帯と調和的となる範囲を調べた。
最初に、地質調査地域周辺において2002年6月~2015年12月までに発生したマグニチュード1.9以上3.5未満の地震の詳細な震源決定を行ったうえで、個々の地震のメカニズム解を用いた応力インバージョン解析(Michael, 1987, JGR)により、最適応力を計算した。計算された最適応力は、左ずれのひずみ集中帯と調和的な北東-南西圧縮、北西-南東引張の横ずれ型を示す(原子力機構, 2018, 地質環境長期安定性評価確証技術開発報告書)。この最適応力を現在の応力と見なし、それが各小断層に作用した時の、断層面にかかる最大せん断応力の方向を計算した。求められた最大せん断応力の方向と小断層の実際のすべり方向との角度差(ミスフィット角)は、現在の応力で小断層が変位した場合、小さく見積もられることになるので、ミスフィット角が30°以下となった小断層(適合小断層と呼ぶ)の分布を調べた。その結果、鹿児島県北西部地震の東西性の余震域、および東西方向のリニアメントの密集部にほぼ重なるように、適合小断層が卓越する傾向が認められた。さらに、それより約4 km北に位置する領域においても、適合小断層が相対的に卓越する領域が東西トレンドで分布する様子が見られた。
次に、南北幅1.85 km(緯度にして1分)の東西方向の範囲ごとに小断層をグルーピングして応力逆解析(Yamaji, 2000, JSG;佐藤ほか, 2017, 地質雑)を適用し、応力解を調べた。その結果、やはり鹿児島県北西部地震の東西性の余震域かつ東西方向のリニアメントの密集部に位置する範囲において、左ずれのひずみ集中帯と調和的な北西-南東引張の横ずれ~正断層型の応力解となった。それより約4 km北の、前述の適合小断層が卓越する領域についても、一部で北東-南西圧縮の横ずれ型の応力解が認められたが、それ以外の範囲では、左ずれのひずみ集中帯で説明できる応力解は認められなかった。
以上の結果からは、左ずれのひずみ集中帯に伴う地殻の変形は、GNSS観測から推定されるひずみ集中帯の範囲内で漸移的に進行しているのではなく、(おそらく複数箇所で)局所的に進行している可能性がある。
なお、本報告は経済産業省資源エネルギー庁委託事業「平成30~令和2年度高レベル放射性廃棄物等の地層処分に関する技術開発事業(地質環境長期安定性評価技術高度化開発)」の成果の一部である。
一方、1990年代以降に全国的に整備されたGNSS観測網による観測結果に基づき、日本列島の複数地域において、大きなせん断ひずみ速度が計算されるひずみ集中帯の存在が指摘されている(Sagiya et al., 2000, PAGEOPH; Nishimura and Takada, 2017, EPSなど)。このようなひずみ集中帯は、今は未成熟でも今後発達する可能性のある断層が伏在している有力な地域であると言える。
筆者らは、地下に伏在する断層などの活構造を検出し、それによる破壊や変形の影響を把握する手法の構築を目的として、鹿児島県の南九州せん断帯を対象としたGNSS稠密観測、地形判読、および地質調査を組み合わせた検討を進めてきた。九州南部では、既往の測地学的研究においても、東西トレンドで左ずれの運動センスを示すひずみ集中帯の存在が指摘されている(Nishimura and Hashimoto, 2006, Tectonophysics; Wallace et al., 2009, Geology)。筆者らが2016年3月より4年余りにわたって実施してきたGNSS稠密観測においても、同せん断帯で地表より約8 kmの深さで固着が、それ以深で約10 mm/yrの左横ずれセンスの定常すべりが生じていることが示された。
地形判読は、南九州全体を対象として実施した。当該地域には、活断層は出水断層帯などわずかしか知られておらず(地震本部:九州地域の活断層の長期評価)、それらの位置もGNSS稠密観測から推定されるひずみ集中帯の分布とは必ずしも調和的でない。本研究では、変動地形が認められないものの地形的な直線性のあるランクの低いリニアメントまで判読した。その結果、GNSS稠密観測から認識されるひずみ集中帯の近傍で、かつ1997年の鹿児島県北西部地震(鹿児島大学理学部, 1997, 地震予知連絡会会報)の東西性の余震域を含む地域において、東西方向のリニアメントの分布密度が高い領域が認められた(後藤ほか, JAEA-Research 2020-013)。
続いて、リニアメント密度が高い領域を中心とした約20 km四方の範囲において、地質調査を実施した。当該地域には、条線を伴う小断層は多数認められるものの、断層ガウジやカタクレーサイトを伴う破砕帯は極めて少なく、それらがリニアメントに沿って連続して分布する傾向も認められなかった。そこで、以下に示す2つの方法により、小断層データから推定される応力場が、左ずれのひずみ集中帯と調和的となる範囲を調べた。
最初に、地質調査地域周辺において2002年6月~2015年12月までに発生したマグニチュード1.9以上3.5未満の地震の詳細な震源決定を行ったうえで、個々の地震のメカニズム解を用いた応力インバージョン解析(Michael, 1987, JGR)により、最適応力を計算した。計算された最適応力は、左ずれのひずみ集中帯と調和的な北東-南西圧縮、北西-南東引張の横ずれ型を示す(原子力機構, 2018, 地質環境長期安定性評価確証技術開発報告書)。この最適応力を現在の応力と見なし、それが各小断層に作用した時の、断層面にかかる最大せん断応力の方向を計算した。求められた最大せん断応力の方向と小断層の実際のすべり方向との角度差(ミスフィット角)は、現在の応力で小断層が変位した場合、小さく見積もられることになるので、ミスフィット角が30°以下となった小断層(適合小断層と呼ぶ)の分布を調べた。その結果、鹿児島県北西部地震の東西性の余震域、および東西方向のリニアメントの密集部にほぼ重なるように、適合小断層が卓越する傾向が認められた。さらに、それより約4 km北に位置する領域においても、適合小断層が相対的に卓越する領域が東西トレンドで分布する様子が見られた。
次に、南北幅1.85 km(緯度にして1分)の東西方向の範囲ごとに小断層をグルーピングして応力逆解析(Yamaji, 2000, JSG;佐藤ほか, 2017, 地質雑)を適用し、応力解を調べた。その結果、やはり鹿児島県北西部地震の東西性の余震域かつ東西方向のリニアメントの密集部に位置する範囲において、左ずれのひずみ集中帯と調和的な北西-南東引張の横ずれ~正断層型の応力解となった。それより約4 km北の、前述の適合小断層が卓越する領域についても、一部で北東-南西圧縮の横ずれ型の応力解が認められたが、それ以外の範囲では、左ずれのひずみ集中帯で説明できる応力解は認められなかった。
以上の結果からは、左ずれのひずみ集中帯に伴う地殻の変形は、GNSS観測から推定されるひずみ集中帯の範囲内で漸移的に進行しているのではなく、(おそらく複数箇所で)局所的に進行している可能性がある。
なお、本報告は経済産業省資源エネルギー庁委託事業「平成30~令和2年度高レベル放射性廃棄物等の地層処分に関する技術開発事業(地質環境長期安定性評価技術高度化開発)」の成果の一部である。