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[SCG50-06] 2008年岩手宮城内陸地震の余効変動における地殻内不均質構造の影響
キーワード:内陸地震、粘弾性、InSAR、余効変動、地殻不均質
活火山である栗駒山東麓において,2008年に岩手宮城内陸地震(Mj 7.2)が発生した.この地震は,西落ちと東落ち2つの断層が運動するなど,複雑な地殻変動によって特徴づけられる (e.g., Takada et al., 2009, Abe et al., 2013).また,地震後に顕著な余効変動が発生したことが主にGNSS観測から明らかになっている(e.g., Ohzono et al., 2012).しかし,InSAR解析による余効変動解析は十分になされておらず,結果の物理的な説明も提示されていない.この地域には様々な空間スケールの不均質構造が存在するため,その役割を理解する上で空間分解能の高いInSARは重要である.
本研究では,まず,ALOSが撮像したデータを用いて余効変動のInSAR解析を行い,震源域近傍において地震後に発生した局所的な変位場を精査した.地震後約2年間に下降軌道から撮像した一連のSAR画像を用いてSBAS法(Berardino et al., 2002)によるInSAR時系列解析を行った結果,(1)西落ち断層の下盤側(東側)における衛星視線方向(LOS)の伸張,(2) 東落ち断層の上盤側(東側)におけるLOS短縮,(3)栗駒山西方におけるLOS短縮,の3つが時間とともに累積していることを発見した.(1)と(2)は西落ちおよび東落ちの断層面上における余効すべりの寄与が大きいと考えられる.一方,(3)は地震後の2年間で10 cm以上に達する明瞭なシグナルであり,栗駒山西方にレオロジーの不均質性があることを示す.興味深いことに,このシグナルが得られた領域は2011年東北地方太平洋沖地震によって局所的な沈降が誘発された領域と一致し,周囲に比べて地殻熱流量が高いことが知られている (Takada and Fukushima, 2013).
余効変動におけるこのような地殻内不均質構造の影響を物理的に理解するために,断層すべり,粘性流動,およびそれらの相互作用を考慮した数値計算プログラムUnicycle (Barbot et al., 2017; Moore et al., 2017)を用いて岩手宮城内陸地震に関する物理モデルを構築した.地震時のすべり分布はIinuma et al.(2009)を用いた.断層面上のすべりは,すべりと状態に依存する摩擦則 (Dietrich, 1979; Ruina, 1983)に従うものとした.また,媒質の浅部20kmを弾性体,それ以深をMaxwell粘弾性体でモデル化した上で,栗駒山西方の弾性体内(深さ8-20 km)に局所的な粘弾性領域を設定し,深部に比べて粘性率を1/3に設定した.数値計算の結果,西落ち断層面上において地震時破壊域の浅部と深部の双方の延長で余効すべりが時間とともに進展し,深部延長が局所的な低粘性領域に到達すると体積的な粘性流動が引き起こされた.この流動は栗駒山西方の隆起運動を大きく促進し,InSAR解析で検出されたLOS短縮の累積量だけでなく時系列曲線をも良く説明した.西落ち断層近傍で検出されたLOSの時系列変化についても説明に成功した.以上より,局所的な地殻内不均質構造は断層すべりとの相互作用によって大きな余効変動を引き起こし得ることを示した.また,東北沖地震時の局所的な沈降(Takada and Fukushima, 2013)と本研究の結果を統合的に解釈すると,栗駒山西方の浅部には弾性定数の不均質,深部には粘性率の不均質が存在することが明らかになった.東落ち断層では地震時すべりと余効すべりの領域が重複している.本発表では,これを再現するために初期応力に対する依存性について調べた結果にも触れる.
本研究では,まず,ALOSが撮像したデータを用いて余効変動のInSAR解析を行い,震源域近傍において地震後に発生した局所的な変位場を精査した.地震後約2年間に下降軌道から撮像した一連のSAR画像を用いてSBAS法(Berardino et al., 2002)によるInSAR時系列解析を行った結果,(1)西落ち断層の下盤側(東側)における衛星視線方向(LOS)の伸張,(2) 東落ち断層の上盤側(東側)におけるLOS短縮,(3)栗駒山西方におけるLOS短縮,の3つが時間とともに累積していることを発見した.(1)と(2)は西落ちおよび東落ちの断層面上における余効すべりの寄与が大きいと考えられる.一方,(3)は地震後の2年間で10 cm以上に達する明瞭なシグナルであり,栗駒山西方にレオロジーの不均質性があることを示す.興味深いことに,このシグナルが得られた領域は2011年東北地方太平洋沖地震によって局所的な沈降が誘発された領域と一致し,周囲に比べて地殻熱流量が高いことが知られている (Takada and Fukushima, 2013).
余効変動におけるこのような地殻内不均質構造の影響を物理的に理解するために,断層すべり,粘性流動,およびそれらの相互作用を考慮した数値計算プログラムUnicycle (Barbot et al., 2017; Moore et al., 2017)を用いて岩手宮城内陸地震に関する物理モデルを構築した.地震時のすべり分布はIinuma et al.(2009)を用いた.断層面上のすべりは,すべりと状態に依存する摩擦則 (Dietrich, 1979; Ruina, 1983)に従うものとした.また,媒質の浅部20kmを弾性体,それ以深をMaxwell粘弾性体でモデル化した上で,栗駒山西方の弾性体内(深さ8-20 km)に局所的な粘弾性領域を設定し,深部に比べて粘性率を1/3に設定した.数値計算の結果,西落ち断層面上において地震時破壊域の浅部と深部の双方の延長で余効すべりが時間とともに進展し,深部延長が局所的な低粘性領域に到達すると体積的な粘性流動が引き起こされた.この流動は栗駒山西方の隆起運動を大きく促進し,InSAR解析で検出されたLOS短縮の累積量だけでなく時系列曲線をも良く説明した.西落ち断層近傍で検出されたLOSの時系列変化についても説明に成功した.以上より,局所的な地殻内不均質構造は断層すべりとの相互作用によって大きな余効変動を引き起こし得ることを示した.また,東北沖地震時の局所的な沈降(Takada and Fukushima, 2013)と本研究の結果を統合的に解釈すると,栗駒山西方の浅部には弾性定数の不均質,深部には粘性率の不均質が存在することが明らかになった.東落ち断層では地震時すべりと余効すべりの領域が重複している.本発表では,これを再現するために初期応力に対する依存性について調べた結果にも触れる.