10:45 〜 11:00
[SCG50-07] 沖縄県与那国島の正断層の構造・物質発達過程
キーワード:沖縄トラフ、断層コア、ダメージゾーン、ビトリナイト反射率、粘土鉱物、八重山層群
日本の最西端に位置する沖縄県与那国島には,北東–南西,北西–南東,および東西走向の正断層群が発達しており,上部更新統の琉球層群からなる地形面を変位させている(坂井ほか, 1978; 活断層研究会, 1991).与那国島を含む南西諸島の西端部は,琉球海溝, 沖縄トラフ,台湾の衝突帯といった大規模な地質構造に囲まれているが,島内の断層群との関係性については定性的な解釈が行われているのみである.著者らは,これらの断層群がいつどのようにして形成されたのかを明らかにするため,断層が大規模に露出する島東部のサンニヌ台において, 断層帯の構造・物質科学的特徴と周囲の中新統八重山層群の熱構造を調べた.
サンニヌ台の断層は,東北東–西南西走向で北に約60°で傾斜しており,上盤は主に琉球層群(酸素同位体ステージ7相当の段丘面に分布する石灰岩),下盤は八重山層群(約20 Maの砂岩泥岩互層)からなる.また,琉球層群と八重山層群の不整合面に鉛直隔離約70 mの北落ち(正断層)変位を与えており,明確な第四紀断層である.断層コアは幅約3 mの断層ガウジ・断層角礫帯を有し,八重山層群側には幅約40 mのダメージゾーンが形成されている.ダメージゾーン内部には方解石脈を伴う複数のカタクレーサイト帯が認められ,その近傍では剪断面密度が局所的に上昇する.断層ガウジ帯とカタクレーサイト帯の産状や空間分布から,カタクレーサイトが広範囲に認められる断層帯を古期の変形(ステージ 1), 断層ガウジ・断層角礫を伴う断層帯を新期の変形(ステージ 2)に区分した. ステージ 1 とステージ 2 の断層コアの構造は, それぞれmultiple fault core と single fault core(Mitchell and Faulkner, 2009)に相当し,ステージ 1 からステージ 2にかけて変形が局所化したことを示す.また,ビトリナイト反射率測定に基づく熱構造解析の結果,上盤の最高被熱温度は約130°C, 下盤は約180°Cであり,約50°Cの温度差が認められた.断層帯を挟んだ琉球層群の垂直隔離は約70 mであるため,この温度差を琉球層群堆積以降の変位だけで説明することはできない.一方で琉球層群堆積前から正断層運動があったと考えると大きな温度差を生じうるが,地温勾配50°C /km を仮定しても1000 mの垂直隔離が必要であり,垂直隔離が八重山層群の全層厚(約700 m,兼子, 2007)を超えるという不都合が生じる.そのため, 正断層運動が琉球層群堆積前から生じていたことに加え, 50°C /km を超える高地温勾配が過去に存在したという2つの要素が,上盤と下盤の大きな温度差を生み出したと考えられる.このことは,断層ガウジ中に含まれる高温型粘土鉱物(緑泥石やイライト)の存在からも示唆される.また,ステージ 2 の断層コア中にはスメクタイトを含む粘土鉱物類が多く含まれており,熱水変質鉱物の生成に伴って幅の広いカタクレーサイト帯(multiple fault core)から断層ガウジ帯(single fault core)へと変形が局所化していったことが示唆される.
引用文献
兼子 (2007), 地質ニュース, 633, 22-30.
活断層研究会 (1991), 新編日本の活断層. 東京大学出版会, 437p.
Mitchell and Faulkner (2009), Journal of Structural Geology, v. 31, no. 8, 802-816.
坂井ほか (1978), 琉球列島の地質学研究, 3, 61-79.
サンニヌ台の断層は,東北東–西南西走向で北に約60°で傾斜しており,上盤は主に琉球層群(酸素同位体ステージ7相当の段丘面に分布する石灰岩),下盤は八重山層群(約20 Maの砂岩泥岩互層)からなる.また,琉球層群と八重山層群の不整合面に鉛直隔離約70 mの北落ち(正断層)変位を与えており,明確な第四紀断層である.断層コアは幅約3 mの断層ガウジ・断層角礫帯を有し,八重山層群側には幅約40 mのダメージゾーンが形成されている.ダメージゾーン内部には方解石脈を伴う複数のカタクレーサイト帯が認められ,その近傍では剪断面密度が局所的に上昇する.断層ガウジ帯とカタクレーサイト帯の産状や空間分布から,カタクレーサイトが広範囲に認められる断層帯を古期の変形(ステージ 1), 断層ガウジ・断層角礫を伴う断層帯を新期の変形(ステージ 2)に区分した. ステージ 1 とステージ 2 の断層コアの構造は, それぞれmultiple fault core と single fault core(Mitchell and Faulkner, 2009)に相当し,ステージ 1 からステージ 2にかけて変形が局所化したことを示す.また,ビトリナイト反射率測定に基づく熱構造解析の結果,上盤の最高被熱温度は約130°C, 下盤は約180°Cであり,約50°Cの温度差が認められた.断層帯を挟んだ琉球層群の垂直隔離は約70 mであるため,この温度差を琉球層群堆積以降の変位だけで説明することはできない.一方で琉球層群堆積前から正断層運動があったと考えると大きな温度差を生じうるが,地温勾配50°C /km を仮定しても1000 mの垂直隔離が必要であり,垂直隔離が八重山層群の全層厚(約700 m,兼子, 2007)を超えるという不都合が生じる.そのため, 正断層運動が琉球層群堆積前から生じていたことに加え, 50°C /km を超える高地温勾配が過去に存在したという2つの要素が,上盤と下盤の大きな温度差を生み出したと考えられる.このことは,断層ガウジ中に含まれる高温型粘土鉱物(緑泥石やイライト)の存在からも示唆される.また,ステージ 2 の断層コア中にはスメクタイトを含む粘土鉱物類が多く含まれており,熱水変質鉱物の生成に伴って幅の広いカタクレーサイト帯(multiple fault core)から断層ガウジ帯(single fault core)へと変形が局所化していったことが示唆される.
引用文献
兼子 (2007), 地質ニュース, 633, 22-30.
活断層研究会 (1991), 新編日本の活断層. 東京大学出版会, 437p.
Mitchell and Faulkner (2009), Journal of Structural Geology, v. 31, no. 8, 802-816.
坂井ほか (1978), 琉球列島の地質学研究, 3, 61-79.