13:45 〜 14:00
[SCG50-13] 内陸応力場の時空間パターン:発震機構解とプレート間固着を用いた新手法から明らかになった特徴とそのテクトニックな意味
★招待講演
キーワード:内陸応力場、時空間パターン、発震機構解、プレート間固着、テクトニクス
近畿地方では、ほとんどの被害地震が南海トラフ沿いの大地震前後(概ね発生前50年から発生後10年)の間に発生していることが良く知られている(宇津 1974; Hori & Oike 1996)。また、2011年東北地方太平洋沖地震に際しても、その発生前後で内陸の地震活動が大きく変化したことが報告されている(Hirose et al., 2011)。このような観測事実は、内陸地震がプレート境界の固着の状態に反応して発生していると解釈することができる。もしこの解釈が一般的に成り立つのであれば、日常的に発生している小地震も含めて検討することで、内陸の応力状態及び内陸地震の発生評価に繋がる情報を引き出すことができる。
今西・野田(日本地震学会2020年度秋季学術大会)は、内陸で発生している小地震の発震機構解がプレート境界の固着により作られる応力場に調和的かどうかを判定し、内陸応力場の状態を調べる方法を提案した。この方法の基本的な概念は以下の通りである。
(1)応力場は、背景応力にプレート固着による応力蓄積が加わったものと記述する。
(2)地殻内には様々な姿勢の既存断層があり、それらの多くが応力の臨界状態にある。
(3)背景応力に調和的な断層でも破壊は生じるが、プレート固着に起因する応力(応力変化)に調和的な断層が優先的に破壊する。
プレート固着に起因する応力場に調和的に地震が発生する場合、ミスフィット角(仮定した応力場から計算されるすべり角と断層面のすべり角との角度差)は小さい値と取ることが期待され、また逆の場合は大きい値を取ることが期待される。従って、ミスフィット角の時空間平均を取ることで、プレート固着の影響に対する内陸応力場の時空間パターンを可視化することができる。
手始めに、この手法を西南日本に適用した。発震機構解は気象庁一元化カタログとJUNECカタログ(Ishibe et al, 2004)を統合し、35年間に及ぶカタログを用意した。すべり欠損モデルについては、2005年~2011年のGNSSデータを用いて推定されたNoda et al. (2018)のモデルを使用した。全ての地震についてミスフィット角を計算した後、空間方向に0.25°間隔のメッシュを設定し、メッシュ毎に1年間の移動平均を取ることで、時空間分布を推定した。得られた結果を見ると、ミスフィット角はかなり大きく時空間変動することがわかった。2016年熊本地震をはじめマグニチュード6を超える地震は、ミスフィット角が小さいレベルの時期に発生する傾向が見られた。これは、内陸地震がプレート固着に反応して発生している観測事実と調和的である。一方、中国地域は他地域に比べるとミスフィット角が高いレベルで変動する。この原因として、この地域の応力場が山陰歪み集中帯(Nishimura and Takada, 2017)による応力載荷で支配されているためと予想される。その他の興味深い特徴として、領域によっては数年の周期性を持つ変動が確認できる点があげられる。このような周期性を持つ応力変化は、近畿北部における原位置応力の繰り返し測定からも報告されている(田中ほか, 1998)。本研究の手法はプレート固着との対応関係を見ているため、この周期性はプレート境界の状態変化に起因しているとみなせる。一つの可能性としてゆっくりすべりによる応力変化の影響が考えられる。
以上のように、この手法により従来見いだすことができなかった内陸応力場の時空間パターンが検出できるため、沈み込み過程と島弧応力場、内陸地震発生機構の解明にも繋がることが期待できる。当日は東北地方に適用した結果についても紹介し、2011年東北地方太平洋沖地震前後における内陸応力場の特徴を報告する予定である。
今西・野田(日本地震学会2020年度秋季学術大会)は、内陸で発生している小地震の発震機構解がプレート境界の固着により作られる応力場に調和的かどうかを判定し、内陸応力場の状態を調べる方法を提案した。この方法の基本的な概念は以下の通りである。
(1)応力場は、背景応力にプレート固着による応力蓄積が加わったものと記述する。
(2)地殻内には様々な姿勢の既存断層があり、それらの多くが応力の臨界状態にある。
(3)背景応力に調和的な断層でも破壊は生じるが、プレート固着に起因する応力(応力変化)に調和的な断層が優先的に破壊する。
プレート固着に起因する応力場に調和的に地震が発生する場合、ミスフィット角(仮定した応力場から計算されるすべり角と断層面のすべり角との角度差)は小さい値と取ることが期待され、また逆の場合は大きい値を取ることが期待される。従って、ミスフィット角の時空間平均を取ることで、プレート固着の影響に対する内陸応力場の時空間パターンを可視化することができる。
手始めに、この手法を西南日本に適用した。発震機構解は気象庁一元化カタログとJUNECカタログ(Ishibe et al, 2004)を統合し、35年間に及ぶカタログを用意した。すべり欠損モデルについては、2005年~2011年のGNSSデータを用いて推定されたNoda et al. (2018)のモデルを使用した。全ての地震についてミスフィット角を計算した後、空間方向に0.25°間隔のメッシュを設定し、メッシュ毎に1年間の移動平均を取ることで、時空間分布を推定した。得られた結果を見ると、ミスフィット角はかなり大きく時空間変動することがわかった。2016年熊本地震をはじめマグニチュード6を超える地震は、ミスフィット角が小さいレベルの時期に発生する傾向が見られた。これは、内陸地震がプレート固着に反応して発生している観測事実と調和的である。一方、中国地域は他地域に比べるとミスフィット角が高いレベルで変動する。この原因として、この地域の応力場が山陰歪み集中帯(Nishimura and Takada, 2017)による応力載荷で支配されているためと予想される。その他の興味深い特徴として、領域によっては数年の周期性を持つ変動が確認できる点があげられる。このような周期性を持つ応力変化は、近畿北部における原位置応力の繰り返し測定からも報告されている(田中ほか, 1998)。本研究の手法はプレート固着との対応関係を見ているため、この周期性はプレート境界の状態変化に起因しているとみなせる。一つの可能性としてゆっくりすべりによる応力変化の影響が考えられる。
以上のように、この手法により従来見いだすことができなかった内陸応力場の時空間パターンが検出できるため、沈み込み過程と島弧応力場、内陸地震発生機構の解明にも繋がることが期待できる。当日は東北地方に適用した結果についても紹介し、2011年東北地方太平洋沖地震前後における内陸応力場の特徴を報告する予定である。