14:45 〜 15:00
[SCG50-17] 歪みエネルギー評価による地震発生メカニズムの理解
★招待講演
キーワード:歪みエネルギー、地震活動、連動破壊
断層運動によって,地殻に蓄えられている歪みエネルギーが解放される (Savage 1969).解放されたエネルギーの一部は断層で散逸し,残りが地震波エネルギーとして震源から放出される (Kostrov 1974; Rudnick & Freund 1981).断層運動に伴うこのエネルギーの移動は不可逆である.本発表では,地震に伴うエネルギーの移動・収支を利用した地震活動や破壊連動性を評価する手法を紹介する.
(i) 歪みエネルギーの増加と地震活動の活発化
地殻内の歪みが地震を引き起こす原因であるため,歪みエネルギーが増加すれば,地震活動が活発化するだろう.プレート間固着(back slip)や大地震(slip)によって変化する地殻内の剪断歪みエネルギーを評価する手法を開発した.この手法によって,南海トラフのプレート間固着に起因する西南日本内陸部の剪断歪みエネルギー変化を評価した.東西圧縮・南北引張の応力場である内陸部では,プレート間固着が引き起こす南北圧縮応力によって,多くの領域では剪断歪みエネルギーが減少する.しかし,固着の不均質な分布によって剪断歪みエネルギーが増加する領域も現れる.剪断歪みエネルギーが増加している領域では,地震活動が活発になる傾向がみられる (Saito et al. 2018 JGR; Noda et al. GRL 2020).
(ii) 地震発生に必要な最小応力
地殻から解放される歪みエネルギーが,断層上で散逸するエネルギーと地震波エネルギーに変化するので,地震が発生するためには,歪みエネルギーが地震波エネルギーよりも大きい必要がある (Terakawa et al. 2018; Noda et al. 2020 GRL).また,媒質全体の歪みエネルギー変化は,断層面の初期応力,応力降下量,すべり量を使って表すことができる.これらの関係から,断層運動を実現する初期応力の最低値を,地震モーメント,応力降下量,波動エネルギーを使って表す (Saito and Noda 2020 GJI).弾性波動論では,地震波は初期応力に依存しないが(Aki and Richards 2002など),エネルギー保存則を利用することで,初期応力の下限値を地震波解析から推定可能な応力降下量や波動エネルギーを使って拘束することができる (例 Yoshida et al. 2020 JGR).
(iii)エネルギーバランスを利用した巨大地震の連動性評価
さらに,すべりー応力関係として単純なすべり弱化則を仮定すれば,エネルギー保存則を,available energy,破壊エネルギー,地震波エネルギーの関係で表すことができる(Kanamori & Rivera 2006など).この関係を使えば,地震波解析等でavailable energyと地震波エネルギーを推定することで,破壊エネルギーを間接的に推定できる (Abecrombie and Rice 2005など).推定されている破壊エネルギーは地震規模とともに増大していくことが知られている.
この場合,available energyが破壊エネルギーより大きいことが地震発生の必要条件となる.これを利用し,南海トラフ巨大地震を例に連動破壊が起こる条件を考える(Noda et al. 2020 EGU).すべり欠損速度分布から応力蓄積速度を計算し,応力蓄積速度の速い室戸沖,紀伊水道沖,熊野灘,遠州灘のピークをアスペリティと呼ぶ.各アスペリティを含む破壊セグメントの連動組み合わせから,10通りの破壊シナリオを作成し,available energyを見積もった.応力蓄積速度が時間変化しない場合,available energyは,すべり量と応力降下量の積に比例するため,蓄積期間の2乗で増加する.一方,破壊エネルギーの増加率は,availableエネルギーの増加率より小さいことが経験的に知られている.蓄積期間が短く,available energyが破壊エネルギーより小さい破壊シナリオは実現しない.しかし,時間の経過とともにavailable energyが増大することで,やがては複数のセグメントが連動する大地震の破壊シナリオも実現可能になる.様々な連動破壊シナリオに対して,破壊が実現するために必要な最低応力蓄積期間を見積もることができる.
本発表では,地震時のエネルギー変化とその保存則に注目したが,地震サイクルの中でのエネルギー変化を考えることも重要である.南海トラフのように巨大地震の発生履歴がある程度分かっている場合は,歴史地震データを考慮にいれたエネルギー収支の評価が,将来どのような巨大地震が起こりうるかの予測に重要である(野田・齊藤 2021JpGU本大会).
(i) 歪みエネルギーの増加と地震活動の活発化
地殻内の歪みが地震を引き起こす原因であるため,歪みエネルギーが増加すれば,地震活動が活発化するだろう.プレート間固着(back slip)や大地震(slip)によって変化する地殻内の剪断歪みエネルギーを評価する手法を開発した.この手法によって,南海トラフのプレート間固着に起因する西南日本内陸部の剪断歪みエネルギー変化を評価した.東西圧縮・南北引張の応力場である内陸部では,プレート間固着が引き起こす南北圧縮応力によって,多くの領域では剪断歪みエネルギーが減少する.しかし,固着の不均質な分布によって剪断歪みエネルギーが増加する領域も現れる.剪断歪みエネルギーが増加している領域では,地震活動が活発になる傾向がみられる (Saito et al. 2018 JGR; Noda et al. GRL 2020).
(ii) 地震発生に必要な最小応力
地殻から解放される歪みエネルギーが,断層上で散逸するエネルギーと地震波エネルギーに変化するので,地震が発生するためには,歪みエネルギーが地震波エネルギーよりも大きい必要がある (Terakawa et al. 2018; Noda et al. 2020 GRL).また,媒質全体の歪みエネルギー変化は,断層面の初期応力,応力降下量,すべり量を使って表すことができる.これらの関係から,断層運動を実現する初期応力の最低値を,地震モーメント,応力降下量,波動エネルギーを使って表す (Saito and Noda 2020 GJI).弾性波動論では,地震波は初期応力に依存しないが(Aki and Richards 2002など),エネルギー保存則を利用することで,初期応力の下限値を地震波解析から推定可能な応力降下量や波動エネルギーを使って拘束することができる (例 Yoshida et al. 2020 JGR).
(iii)エネルギーバランスを利用した巨大地震の連動性評価
さらに,すべりー応力関係として単純なすべり弱化則を仮定すれば,エネルギー保存則を,available energy,破壊エネルギー,地震波エネルギーの関係で表すことができる(Kanamori & Rivera 2006など).この関係を使えば,地震波解析等でavailable energyと地震波エネルギーを推定することで,破壊エネルギーを間接的に推定できる (Abecrombie and Rice 2005など).推定されている破壊エネルギーは地震規模とともに増大していくことが知られている.
この場合,available energyが破壊エネルギーより大きいことが地震発生の必要条件となる.これを利用し,南海トラフ巨大地震を例に連動破壊が起こる条件を考える(Noda et al. 2020 EGU).すべり欠損速度分布から応力蓄積速度を計算し,応力蓄積速度の速い室戸沖,紀伊水道沖,熊野灘,遠州灘のピークをアスペリティと呼ぶ.各アスペリティを含む破壊セグメントの連動組み合わせから,10通りの破壊シナリオを作成し,available energyを見積もった.応力蓄積速度が時間変化しない場合,available energyは,すべり量と応力降下量の積に比例するため,蓄積期間の2乗で増加する.一方,破壊エネルギーの増加率は,availableエネルギーの増加率より小さいことが経験的に知られている.蓄積期間が短く,available energyが破壊エネルギーより小さい破壊シナリオは実現しない.しかし,時間の経過とともにavailable energyが増大することで,やがては複数のセグメントが連動する大地震の破壊シナリオも実現可能になる.様々な連動破壊シナリオに対して,破壊が実現するために必要な最低応力蓄積期間を見積もることができる.
本発表では,地震時のエネルギー変化とその保存則に注目したが,地震サイクルの中でのエネルギー変化を考えることも重要である.南海トラフのように巨大地震の発生履歴がある程度分かっている場合は,歴史地震データを考慮にいれたエネルギー収支の評価が,将来どのような巨大地震が起こりうるかの予測に重要である(野田・齊藤 2021JpGU本大会).