日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG50] 変動帯ダイナミクス

2021年6月3日(木) 17:15 〜 18:30 Ch.15

コンビーナ:深畑 幸俊(京都大学防災研究所)、岩森 光(東京大学・地震研究所)、大橋 聖和(山口大学大学院創成科学研究科)

17:15 〜 18:30

[SCG50-P02] 山脈の標高変化量に基づく3Ma以降日本列島に加わった東西圧縮力の大きさの推定及び力源の考察

*篠島 僚平1、深畑 幸俊1 (1.京都大学防災研究所附属 地震予知研究センター)

キーワード:日本列島、東西圧縮、第四紀、テクトニクス、リソスフェア物体力、重力ポテンシャルエネルギー

日本列島はおよそ3Ma以降急激な東西短縮とそれに伴う山脈の隆起が生じてきた。高橋(2006)は、フィリピン海プレートの運動方向が北北西から北西方向に変化した事による三重会合点~日本海溝の西進が日本列島の3Ma以降の東西短縮の原因であるという仮説を提唱した。その仮説は様々な状況証拠と整合的である一方、力学的に定量的な検証がほとんど行われていない。

そこで本研究では3Ma以降に日本列島に加えられた東西圧縮力の大きさやその分布の推定を試みた。それを元に高橋(2006)による仮説が力学的に無理が無いかを検証し、さらに日本列島の東西圧縮の大元の力源に関する考察を行う。

山脈を隆起させる水平短縮力と山脈の標高増加に伴う重力起因の引張力とはおおよそ釣り合うと指摘されている(e.g, Molnar and Lyon-Caen, 1988)。よって、山脈の標高増加量から、加わった水平圧縮力の大きさを見積もる事が出来る。そこで本研究では、木曽・赤石・飛騨・越後・奥羽の5つの山脈の3Ma以降の標高変化量から、その期間日本列島に新たに加わった東西圧縮力、及びその南北方向の分布の推定を行った。

その結果、木曽~赤石~飛騨山脈では走行方向200kmに渡り平均2×1012 [N/m]、越後~奥羽山脈では走行方向300kmに渡り平均0.4×1012 [N/m]、計5.2×1017[N]の東西圧縮力が3Ma以降に日本列島に加わったと推定された。

 もし日本列島の東西短縮がフィリピン海プレートの運動方向の変化に起因する三重会合点~日本海溝の西進によるならば、ここで推定された東西圧縮力はフィリピン海プレートの運動方向を変化させた力の大きさと整合的になるはずである。フィリピン海プレートの運動方向の変化の原因として有力なのは、5~8Maに開始したとされるフィリピン海溝からの沈み込みに伴う西向きのslab-pullの発生であり、その大きさは3×1018 [N]と推定されている(Seno, 2000)。Slab-pullのおよそ9割はslab粘性抵抗力とつり合い、その残りが地上のプレートに伝わると推定されている(Forsyth and Uyeda, 1975)。よって、かなり大雑把な見積もりではあるが、本研究で推定された東西圧縮力5.2×1017[N]とおおよそ整合的である。こ結果は、日本列島の東西短縮がフィリピン海プレートの運動方向の変化による三重会合点~日本海溝の西進に伴うという仮説によって力学的にも無理なく説明できる事を示している。また、推定された東西圧縮力の分布を見ると中部日本付近が最大で、東北日本では小さい。これは三重会合点付近から最も大きな東西圧縮力が与えられている事を示唆しており、その仮説と整合的である。



Forsyth, D. and Uyeda, S. (1975), Geophys. J. Int., 43(1), 163-200.

Molnar, P. and Lyon-Caen, H. (1988), Geol. Soc. Am. Special Paper, 218.

高橋 雅紀 (2006), 地学雑誌, 114, 116–123.

Takahashi, M. (2017), Bull. Geol. Surv. Japan, 68(4), 155–161.

Seno, T. (2000), J. Geol. Soc. Phillip., 55, 105–107.