17:15 〜 18:30
[SCG50-P04] 南九州せん断帯におけるGNSS観測(第5報)
キーワード:南九州せん断帯、左横ずれ断層、GNSS稠密観測、2016年熊本地震、余効変動
南九州には、北緯32°付近を東西に横断する左横ずれのせん断帯(南九州せん断帯)が存在する。同領域では、10-7/yr超のせん断ひずみ速度分布がGNSS速度場より示され(Wallace et al., 2009; Nishimura et al., 2018)、M 6前後の左横ずれ型のメカニズムをもついくつかの地震(1997年鹿児島県北西部地震など)が発生しているものの、せん断ひずみ速度の集中域や上記の地震に対応した明瞭な活断層は認められていない。そこで、地形的に不明瞭な活断層を検出するための技術開発を目的として、同領域の地殻変動をより詳細に推定するため、10点のGNSS稠密観測網を構築し2016年3月より観測を開始した。そして、2016年熊本地震の影響を補正した2019年11月中旬までのデータから、同せん断帯では、地表より約22 kmの深さにおいて固着、それ以深で約13 mm/yrの定常すべりが生じていることを示した(渡部ほか, 2020)。一方、近年のGNSS速度場を用いたブロック断層モデルでは、同領域でのすべり速度の推定値が7~8 mm/yr程度である点(例えば、Kimura et al., 2019)や、平均的な地殻の厚さと比べて固着域の深さが多少深めに推定された点など、再考の余地が残った。そこで、本研究では、さらに一年間のデータ追加を行い、これまで考慮してこなかった2016年熊本地震の余効すべり、プレートの沈み込み、豊後水道のスロースリップなどの変動を解析に導入し、改めて同せん断帯での固着域の深さやすべり速度などについて検討した。
GNSS観測は、同せん断帯を境に南北約40 kmの範囲に位置する建物の屋上にて2周波の受信機を用いて30秒間隔でデータ収録を行った。GNSSデータの解析は、Bernese GNSS software (ver.5.2)を使用し、同観測網周辺の四つのGEONET観測点を基準にIGSの精密暦などを用いて、2016年4月19日~2020年11月30日の日座標値を推定した。また、九州地方・四国地方西部・中国地方西部の約200点のGEONET F3解を用いて共通誤差成分を除去し、2016年熊本地震の余効変動(粘弾性緩和・余効すべり)による変動、桜島・霧島山での火山変動、豊後水道のスローイベントによる変動、プレートの沈み込みによる変動、年周・半年周変動などの除去を経て、アムールプレートに対する変位速度を抽出した。
せん断帯での地殻変動には、Savage and Burford (1973)の半無限弾性体中の鉛直横ずれ断層運動モデルを適用した。ここでは、同せん断帯の仮中心(32°N、130.5°E)から南北に約90 km、東西に約25 kmの領域に含まれるGNSS観測点の水平変位速度を用い、非線形最小二乗フィッティングにより固着域の深さ・すべり速度・せん断帯変形中心位置の推定を行った。なお、同せん断帯の走向は、渡部ほか(2020)を参照し、N104.8°Eとした。しかし、従来通りせん断帯内に一つの変形中心が存在するとした場合、固着域の深さの推定値が平均的な地殻の厚さを超える結果しか得られなかった。そこで、同せん断帯内に二つの変形中心が存在するとし、改めて推定をした結果、同せん断帯の仮中心より北へ13.83±6.75 kmの位置に一つ目の変形中心が求まり、その固着域の深さは8.13±11.26 km、すべり速度は10.06±4.13 mm/yrという結果が、そして、仮中心より南へ40.98±7.23 kmの位置に二つ目の変形中心が求まり、その固着域の深さは5.23±13.36 km、すべり速度は6.43±4.24 mm/yrという結果が得られた。一つ目の変形中心に関するすべり速度は、GNSS速度場を用いたブロック断層モデルの結果と調和的で、固着域の深さは1997年鹿児島県北西部地震の震源の深さとも近い値となった。また、二つ目の変形中心は、測地学的にはこれまで知られておらず、我々のGNSS稠密観測により初めて明らかにされたと考えられる。それに関連し、地震学的には、東西走向の高角な左横ずれの地震列が鹿児島市付近から甑島南端部をかすめて西方沖へ延びる領域に存在し(角田・後藤, 2002)、走向や左横ずれの運動などが測地学的観測事実と一致する。また、これらの地震列は二つ目の変形中心下の定常すべりによって生じたものと推測され、南北幅約180 kmの領域内に東西方向のせん断変形の変形中心が少なくとも二つ存在する可能性を示唆する。
本発表は、経済産業省資源エネルギー庁からの委託事業である「令和2年度高レベル放射性廃棄物等の地層処分に関する技術開発事業(地質環境長期安定性評価技術高度化開発)」の成果の一部である。
GNSS観測は、同せん断帯を境に南北約40 kmの範囲に位置する建物の屋上にて2周波の受信機を用いて30秒間隔でデータ収録を行った。GNSSデータの解析は、Bernese GNSS software (ver.5.2)を使用し、同観測網周辺の四つのGEONET観測点を基準にIGSの精密暦などを用いて、2016年4月19日~2020年11月30日の日座標値を推定した。また、九州地方・四国地方西部・中国地方西部の約200点のGEONET F3解を用いて共通誤差成分を除去し、2016年熊本地震の余効変動(粘弾性緩和・余効すべり)による変動、桜島・霧島山での火山変動、豊後水道のスローイベントによる変動、プレートの沈み込みによる変動、年周・半年周変動などの除去を経て、アムールプレートに対する変位速度を抽出した。
せん断帯での地殻変動には、Savage and Burford (1973)の半無限弾性体中の鉛直横ずれ断層運動モデルを適用した。ここでは、同せん断帯の仮中心(32°N、130.5°E)から南北に約90 km、東西に約25 kmの領域に含まれるGNSS観測点の水平変位速度を用い、非線形最小二乗フィッティングにより固着域の深さ・すべり速度・せん断帯変形中心位置の推定を行った。なお、同せん断帯の走向は、渡部ほか(2020)を参照し、N104.8°Eとした。しかし、従来通りせん断帯内に一つの変形中心が存在するとした場合、固着域の深さの推定値が平均的な地殻の厚さを超える結果しか得られなかった。そこで、同せん断帯内に二つの変形中心が存在するとし、改めて推定をした結果、同せん断帯の仮中心より北へ13.83±6.75 kmの位置に一つ目の変形中心が求まり、その固着域の深さは8.13±11.26 km、すべり速度は10.06±4.13 mm/yrという結果が、そして、仮中心より南へ40.98±7.23 kmの位置に二つ目の変形中心が求まり、その固着域の深さは5.23±13.36 km、すべり速度は6.43±4.24 mm/yrという結果が得られた。一つ目の変形中心に関するすべり速度は、GNSS速度場を用いたブロック断層モデルの結果と調和的で、固着域の深さは1997年鹿児島県北西部地震の震源の深さとも近い値となった。また、二つ目の変形中心は、測地学的にはこれまで知られておらず、我々のGNSS稠密観測により初めて明らかにされたと考えられる。それに関連し、地震学的には、東西走向の高角な左横ずれの地震列が鹿児島市付近から甑島南端部をかすめて西方沖へ延びる領域に存在し(角田・後藤, 2002)、走向や左横ずれの運動などが測地学的観測事実と一致する。また、これらの地震列は二つ目の変形中心下の定常すべりによって生じたものと推測され、南北幅約180 kmの領域内に東西方向のせん断変形の変形中心が少なくとも二つ存在する可能性を示唆する。
本発表は、経済産業省資源エネルギー庁からの委託事業である「令和2年度高レベル放射性廃棄物等の地層処分に関する技術開発事業(地質環境長期安定性評価技術高度化開発)」の成果の一部である。