日本地球惑星科学連合2021年大会

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[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG51] 広域観測・微視的実験連携による沈み込み帯地震研究の新展開

2021年6月3日(木) 13:45 〜 15:15 Ch.19 (Zoom会場19)

コンビーナ:木下 正高(東京大学地震研究所)、座長:木下 正高(東京大学地震研究所)、木村 俊則(国立研究開発法人海洋研究開発機構)

14:00 〜 14:15

[SCG51-02] 高圧下におけるアンチゴライト蛇紋岩の弾性波速度測定

*河野 義生1、能勢 里彩乃1、近藤 望1、平内 健一2 (1.愛媛大学地球深部ダイナミクス研究センター、2.静岡大学)

キーワード:蛇紋岩、弾性波速度、高圧

沈み込み帯における地震波速度低速度異常の存在は、蛇紋岩もしくは蛇紋岩の脱水分解により放出された水の存在を示していると推測されている。そのような地震波速度低速度異常の実態を理解するためには、沈み込み帯深部に相当する高圧下における蛇紋岩の弾性波速度の理解が必要である。しかしながら、過去に報告されている高圧下(>1 GPa)における蛇紋岩の弾性波速度測定結果には10%以上もの大きな差があり(Bezacier et al., 2013; Wang et al., 2019)、いまだ蛇紋岩の弾性波速度の特性はよく理解されていない。本研究では、最大圧力約10 GPaの高圧下において、アンチゴライト蛇紋岩の弾性波速度測定を行い、蛇紋岩の高圧下における弾性波速度特性について議論する。

 試料は長崎県野母半島に分布する長崎変成岩類から採取された蛇紋岩を用いた。本研究で使用した蛇紋岩は主にアンチゴライトからなり、少量(<3.5%)のその他鉱物を含む。使用した試料には明瞭な面構造・線構造は見られないが、直交する任意の3方向から試料を円柱状にくり抜き、計4回の弾性波速度測定を行った。使用した試料のサイズは、直径4.5 mm、長さ1.5-1.9 mmである。高圧実験は1000トンのマルチアンビル型高圧発生装置を用い、室温条件下において、圧力最大8.5-10.3 GPaの圧力条件下において超音波法により弾性波速度を測定した。

 蛇紋岩のP波速度(Vp)は低圧下(約4-5 GPa以下)では圧力の増加に伴い速度上昇が見られたが、より高圧下では圧力の増加に伴いVpは低下する。S波速度(Vs)においては、2.5-3.5 GPa以下の低圧下では圧力の増加に伴いVsは上昇するが、より高圧下では低下する。Vp/Vs比は圧力の増加に伴い上昇した。異なる実験において、Vp、Vs、Vp/Vs比の値はばらつきが見られたが、各実験試料におけるその他鉱物量比の差がVp、Vs、Vp/Vs比のばらつきの要因であると考えられる。Vp、Vs、Vp/Vs比とその他鉱物量比の関係から各圧力条件下における蛇紋岩のVp、Vs、Vp/Vs比を計算し、過去の研究結果と比較した。本研究で得られた蛇紋岩の弾性波速度は、約4 GPa以下の低圧条件下では単結晶蛇紋石試料のブリリアン散乱測定(Bezacier et al., 2013)の結果と調和的である。一方、Wang et al. (2019)の結果は、本研究とBezacier et al. (2013)の弾性波速度結果よりも明らかに低いことが明らかとなった。