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[SCG54-03] GNSS-A観測によって得られた東北地方太平洋沖地震後10年間の海底地殻変動の推移
キーワード:GNSS-A、海底地殻変動観測、余効変動
2011年3月11日に日本海溝西側の海底を震源域とした東北地方太平洋沖地震が発生した. GNSS-音響測距結合方式(GNSS-A)による地震前後の海底測地観測によって,震央近傍の海底において20 mを超える巨大な変位が生じたことが明らかになった(Sato et al., 2011 Science; Kido et al., 2011 GRL).一方,当時の海底測地観測の空間的配置では海溝軸近傍の地殻変動は検出できなかったが,地震前後の海底地形を比較することにより,断層すべりが宮城県沖の海溝軸にまで達していることが確認された(Fujiwara et al., 2011 Science).さらに津波のデータからは,海溝軸近くの大きなすべりが岩手県沖から福島県沖まで広がっていることが示唆された(Satake et al., 2013 BSSA).
こうした断層すべりは周囲の岩石に応力を載荷し,それに駆動された岩石の変形が地震後も引き続いて生じるようになる.数か月以上の時間スケールの経時的地殻変動においては,破壊域近傍の断層がゆっくりとすべる余効すべりと,アセノスフェアの粘弾性的な応答による粘弾性緩和が支配的な役割を果たす(e.g., Wang et al., 2012 Nature).沈みこみプレート境界型の地震においては,余効すべりは地震と同じ方向,つまり海溝向き(東向き)の動きとなって地表にあらわれるのに対し,粘弾性緩和による変形は,震源域よりも陸側では海溝向き,震源域およびそれより海溝側では陸向き(西向き)の動きとなってあらわれる.また,粘弾性緩和による変形は,震源域のダウンディップ側の境界付近をピークにした強い沈降を生じさせる点も特徴的である(e.g., Luo and Wang, 2021 Nat. Geo.).
このように,陸上では余効すべりと粘弾性緩和の動きの方向が似ているために,それらのプロセスによる影響を陸上の測地観測のみから分解して解釈することは困難である.一方,震源域直上の海底での測地観測からは,それらが明瞭に分解できると期待される.実際,地震後数年間のGNSS-A観測からは,特に震央近くの観測点で地震前のプレート沈み込み速度よりも大きな陸向きの変位及び沈降が検出され,同地域において粘弾性緩和の影響が支配的であることの決定的な証拠が与えられた(e.g., Watanabe et al., 2014 GRL, Sun et al., 2014 Nature).2012年以降は,より広範囲に観測点が展開され(Kido et al., 2015 GENAH),詳細な地殻変動の分布が得られた(Tomita et al., 2015 GRL; Tomita et al., 2017 Sci. Adv.; Honsho et al., 2019 JGR).海陸の地殻変動を説明する地震後モデルも多く作られ(e.g., Sun et al., 2014 Nature; Sun and Wang, 2014 JGR; Iinuma et al., 2016 Nat. Commun.; Freed et al., 2017 EPSL),特に震央近傍の宮城県沖の領域について,粘弾性緩和が支配的であること,陸側では顕著な余効すべりが生じていないことは,おおむね共通した見解となった.一方で,震源域の南北の領域では地震直後からのデータが得られている観測点が少ないため,粘弾性緩和と余効すべりの影響を分解することは困難であった.さらに,地震時の測地観測ではこの領域の地震時すべりが十分に解像できなかったことも,粘弾性緩和モデルの不確定性を高める要因となっている.実際,多くのモデルは測地学データに基づく地震時すべり分布(e.g., Iinuma et al., 2012 JGR)が初期条件として用いているが,これは特に南北の領域において津波データに基づく分布とは異なっており,この点にも議論の余地がある.
そこで,本研究では地震後10年間の観測データを基に,特に震源域南北の領域にフォーカスして地殻変動の時間発展を調べた.その結果,震源域南北の震源と同程度の深さの領域で余効すべりが生じていたこと,北側の余効すべりは3年程度で減衰したが南側はより長い時定数を持っていること,さらに,南側の浅部領域では地震時に大きなすべりが生じていたことが示唆された.本発表では,新たに得られた海底地殻変動データとそれに基づく地震後地殻変動の全体像について考察する.
こうした断層すべりは周囲の岩石に応力を載荷し,それに駆動された岩石の変形が地震後も引き続いて生じるようになる.数か月以上の時間スケールの経時的地殻変動においては,破壊域近傍の断層がゆっくりとすべる余効すべりと,アセノスフェアの粘弾性的な応答による粘弾性緩和が支配的な役割を果たす(e.g., Wang et al., 2012 Nature).沈みこみプレート境界型の地震においては,余効すべりは地震と同じ方向,つまり海溝向き(東向き)の動きとなって地表にあらわれるのに対し,粘弾性緩和による変形は,震源域よりも陸側では海溝向き,震源域およびそれより海溝側では陸向き(西向き)の動きとなってあらわれる.また,粘弾性緩和による変形は,震源域のダウンディップ側の境界付近をピークにした強い沈降を生じさせる点も特徴的である(e.g., Luo and Wang, 2021 Nat. Geo.).
このように,陸上では余効すべりと粘弾性緩和の動きの方向が似ているために,それらのプロセスによる影響を陸上の測地観測のみから分解して解釈することは困難である.一方,震源域直上の海底での測地観測からは,それらが明瞭に分解できると期待される.実際,地震後数年間のGNSS-A観測からは,特に震央近くの観測点で地震前のプレート沈み込み速度よりも大きな陸向きの変位及び沈降が検出され,同地域において粘弾性緩和の影響が支配的であることの決定的な証拠が与えられた(e.g., Watanabe et al., 2014 GRL, Sun et al., 2014 Nature).2012年以降は,より広範囲に観測点が展開され(Kido et al., 2015 GENAH),詳細な地殻変動の分布が得られた(Tomita et al., 2015 GRL; Tomita et al., 2017 Sci. Adv.; Honsho et al., 2019 JGR).海陸の地殻変動を説明する地震後モデルも多く作られ(e.g., Sun et al., 2014 Nature; Sun and Wang, 2014 JGR; Iinuma et al., 2016 Nat. Commun.; Freed et al., 2017 EPSL),特に震央近傍の宮城県沖の領域について,粘弾性緩和が支配的であること,陸側では顕著な余効すべりが生じていないことは,おおむね共通した見解となった.一方で,震源域の南北の領域では地震直後からのデータが得られている観測点が少ないため,粘弾性緩和と余効すべりの影響を分解することは困難であった.さらに,地震時の測地観測ではこの領域の地震時すべりが十分に解像できなかったことも,粘弾性緩和モデルの不確定性を高める要因となっている.実際,多くのモデルは測地学データに基づく地震時すべり分布(e.g., Iinuma et al., 2012 JGR)が初期条件として用いているが,これは特に南北の領域において津波データに基づく分布とは異なっており,この点にも議論の余地がある.
そこで,本研究では地震後10年間の観測データを基に,特に震源域南北の領域にフォーカスして地殻変動の時間発展を調べた.その結果,震源域南北の震源と同程度の深さの領域で余効すべりが生じていたこと,北側の余効すべりは3年程度で減衰したが南側はより長い時定数を持っていること,さらに,南側の浅部領域では地震時に大きなすべりが生じていたことが示唆された.本発表では,新たに得られた海底地殻変動データとそれに基づく地震後地殻変動の全体像について考察する.