日本地球惑星科学連合2021年大会

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[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG54] 東北地方太平洋沖地震から10年―固体地球科学の到達点

2021年6月6日(日) 17:15 〜 18:30 Ch.16

コンビーナ:日野 亮太(東北大学大学院理学研究科)、小平 秀一(海洋研究開発機構 海域地震火山部門)、松澤 暢(東北大学大学院理学研究科附属地震・噴火予知研究観測センター)、飯沼 卓史(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)

17:15 〜 18:30

[SCG54-P01] 海底動的圧力変動成分記録から抽出した2011年東北沖地震の震源域内部の大振幅地震動波形

*久保田 達矢1、齊藤 竜彦1、対馬 弘晃2、日野 亮太3、太田 雄策3、鈴木 秀市3、稲津 大祐4 (1.防災科学技術研究所、2.気象庁気象研究所、3.東北大学、4.東京海洋大学)

キーワード:海底圧力計、津波、動圧変動、2011年東北沖地震、海底地震動

はじめに
沖合の地震の震源域内に設置された水圧計は,津波と永久変位に加え地震動に起因する水圧変動も記録する.近年,震源域内の波動場を記述する津波発生の理論 (Saito, 2013; 2019) に基づいて,そのような複雑な水圧変動記録を直接再現する手法が確立しつつある (Lotto et al., 2015; Saito and Tsushima, 2016; Maeda et al., 2020JpGU) が,一方で,地震断層運動は津波地震など多様性があるため幅広い周波数帯域をとる可能性があり,震源域内の水圧変動を津波・永久変位成分・地震動成分を正確に分離するのは容易ではなく (Saito & Tsushima, 2016),その方法は確立していない.震源直上の地震動波形が得られれば,地震の震源プロセスや震源域直上の地震波伝播過程の理解に貢献すると期待される.本研究では,津波発生場の波動理論に基づいて,水圧記録を津波・永久変位成分と地震動記録に分離する手法を考案し,2011年東北沖地震時の震源域内の水圧記録へ適用を試みた.

静水圧変動と動圧変動の分離手法
海水が非圧縮であると近似する.すなわち海水の弾性を無視できるほど低周波な帯域 (f < ~10-1 Hz) のみを考える.このとき水圧計が観測する水圧変動p(t)は,重力に起因して生じる静水圧変動p(t) = ρ0g0[η(t) - u(t)](ρ0:海水密度,g0:重力加速度,η(t):海面高さ変化,u(t):海底上下変位)と,海底上下動加速度に比例する動圧変動p(t) = ρ0h02u/∂t2h0:水深)の足し合わせで表すことができる (e.g., Saito, 2013).地震時に海底が上下に変動した場合,変動域内にある水圧計nが観測する水圧変動pn(t) は海底面要素iの単位変動による静水圧変動と動圧変動それぞれの寄与 (グリーン関数,Gi,nhydrostatic(t),Gi,ndynamic(t)) の線形重ね合わせで表現できる.すなわちpn(t) = ∑i [mi{Gi,nhydrostatic(t) + Gi,ndynamic(t)}] である.この観測方程式に基づいて各単位要素の変動量miを推定する.つまり,多点観測と津波伝播の物理を利用することで,地震動シグナルと伝播する津波が混在する水圧変化記録から,地震動シグナルを抽出する.

2011年東北沖地震の水圧記録への適用
本手法を,東大地震研および東北大により得られた震源直上の東北沖地震時の水圧記録 (Maeda et al. 2011; Hino et al. 2014) に適用した.潮汐成分を除去し,カットオフ0.05 Hzのローパスフィルタを適用して高周波な水中音響波の成分を取り除いた記録を使用した.本解析により得られた海底上下変位の時系列からは,海底隆起域 (e.g., Saito et al. 2011) 内に設置されている観測点GJT3,P08,P09で大きな変位オフセットが確認できる.これらの観測点の最終的な変位オフセット量と,水圧記録の静的オフセット量から期待される永久変位量はよく一致した.これは抽出された海底の上下動が実際の地動を正しく反映していることを意味する.震源直上の観測点P08・P09の速度波形では2度のピークが見られ,これは震源近傍で2度のモーメント解放があったこと(e.g., Ide et al., 2011) と調和的である.また,各観測点から最も近い沿岸の地震計の波形と比べると,到達時刻が遅れているものの波形形状はよく似ていた.
海底地震観測に広く利用される高感度速度型海底地震計では,波形が飽和してしまうため震源直上の大地震動を正しく記録することはできない.水圧計は広帯域かつ広ダイナミックレンジな観測が可能 (Kubota et al., 2020) であることを活用し,津波観測のみならず高周波な地震動成分まで得ることが可能であり,実際に東北沖地震時の地震動記録を得ることができた.震源直上の水圧記録は,即時予測 (e.g., Tsushima et al., 2012) に加えて,震源直上の地震動を記録する観測機器として重要な貢献を果たすと期待される.