日本地球惑星科学連合2021年大会

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[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG55] 沈み込み帯へのインプット:海洋プレート誕生から沈み込み帯まで

2021年6月6日(日) 13:45 〜 15:15 Ch.19 (Zoom会場19)

コンビーナ:藤江 剛(海洋研究開発機構)、山野 誠(東京大学地震研究所)、森下 知晃(金沢大学理工研究域地球社会基盤学系)、鹿児島 渉悟(富山大学)、座長:藤江 剛(海洋研究開発機構)、鹿児島 渉悟(富山大学)

15:00 〜 15:15

[SCG55-06] 海洋プレート冷却モデルが東北地方沈み込み帯の温度構造に与える影響

*森重 学1 (1.東京大学地震研究所)

キーワード:海洋プレート、沈み込み帯、温度構造、熱伝導率

熱伝導率は熱伝導の効率を支配する物理量であり、地球内部の温度分布を議論する際の重要なパラメータである。実験的研究により、熱伝導率は温度上昇と共に大きく減少すること、また海洋地殻物質の熱伝導率はマントル物質の半分程度であることが示されている。近年この熱伝導率の変化を考慮した海洋プレート冷却モデルが精力的に発表されてきた。しかしそれらのモデルが沈み込み帯の温度構造にどのように影響するのかまではほとんど知られていない。そこで本発表では、特に熱伝導率に注目しつつ、海洋プレート冷却モデルが冷たい沈み込み帯の代表である東北地方の温度構造に与える影響について報告する。

まずはじめに、海洋プレートの温度構造を求める。海洋プレートの冷却モデルとしてプレート冷却モデル、つまりある深さで温度が一定となるモデルを仮定する。熱伝導率は一定(Case 1)、温度のみに依存(Case 2)、温度と物質に依存(Case 3)、の3種類を考慮する。そのそれぞれに対して、観測された海洋底深さと地殻熱流量の海洋プレート年代に伴う変化を良く説明するような海洋プレートの厚さDplateとマントルポテンシャル温度Tmを不確かさまで含めてベイズ推定する。得られたDplateとTmの最頻値は81.5 km、1355℃ (Case 1)、84.5 km、1285℃ (Case 2)、そして80.5 km、1335℃ (Case 3)であり、不確かさはおよそ±5 kmと±50℃であった。また海洋プレートにおける等温線深さの不確かさは温度と共に増加し、600℃で±2.5 km、1200℃で±5 km程度となった。

次に、得られた3種類の海洋プレート冷却モデルを海溝における温度境界条件として用い、東北地方沈み込み帯における温度構造を予測した。そして得られた温度分布と岩石の相図を組み合わせることで、やや深発地震の発生に関連しているとされる海洋地殻内の青色片岩とスラブマントル内の蛇紋岩が脱水反応を起こす相変化境界の推定を行った。その結果、青色片岩が脱水反応を起こす場所はCase 1が他の場合と比較して海洋モホ面において10 km程度浅く、また蛇紋岩が脱水反応を起こす場所はCase 2が他の場合よりも全体として10 km程度深くなることが明らかになった。脱水と地震発生との関連を議論する上で10 kmの差は大きいと考えられる。したがって、海洋プレートや沈み込み帯の温度構造を議論する際には熱伝導率の変化まで考慮したモデルを用いることが望ましい。