日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG55] 沈み込み帯へのインプット:海洋プレート誕生から沈み込み帯まで

2021年6月6日(日) 17:15 〜 18:30 Ch.16

コンビーナ:藤江 剛(海洋研究開発機構)、山野 誠(東京大学地震研究所)、森下 知晃(金沢大学理工研究域地球社会基盤学系)、鹿児島 渉悟(富山大学)

17:15 〜 18:30

[SCG55-P04] 蛇紋岩から推定されるマントルウェッジの加水様式:北海道中軸部鷹泊岩体における検討

*高見澤 駿1、市山 祐司1、山崎 秀策2、田村 明弘3、森下 知晃3 (1.千葉大学、2.国立研究開発法人土木研究所寒地土木研究所、3.金沢大学理工研究域地球社会基盤学系)

キーワード:沈み込み帯、マントルウェッジ、スラブ流体、交代作用、神居古潭帯

沈み込み帯は地球表層物質のリサイクルが起きている場所である.特に水を含んだ海洋地殻が沈み込むことで引き起こされる水の循環は,マントルウェッジの加水作用や島弧火成活動及び沈み込み帯の熱水活動に関わっているとされるが,そのプロセスの詳細は明らかになっていない.北海道中軸部に分布する神居古潭帯は,白亜紀の高圧変成岩類と超苦鉄質岩類から構成される.高圧変成岩類は過去に沈み込んだスラブに由来し,超苦鉄質岩類は沈み込んだスラブに伴うマントルウェッジの構成岩類であると考えられる.特に神居古潭帯中の超苦鉄質岩類である鷹泊岩体は,ボニナイトなどの高Mg安山岩質マグマの生成に関与した高枯渇度かんらん岩からなり,海洋性島弧下のマントルウェッジであったと考えられる(田村ほか,1999).鷹泊岩体は高圧変成岩類である神居古潭変成岩類と断層で接し,その境界付近におけるアンチゴライト化(例えばIgarashi, 1985)や低温高圧型の変成作用を被った角閃岩テクトニックブロックの存在(Ishizuka and Imaizumi,1980)などから鷹泊岩体にも低温高圧型の変成作用が及んでいることが示唆される.本研究ではマントルウェッジでの流体による時間的,空間的な加水作用の解明を目的として,鷹泊岩体を対象に野外調査,岩石学的観察,鉱物主要元素組成分析,鉱物微量元素組成分析を実施した.鷹泊岩体では高枯渇度(スピネルCr#=0.6~0.9)のハルツバージャイトとダナイトが分布し,これらは蛇紋岩化作用を著しく被っている.特に神居古潭変成岩類境界部と変成岩類に近い岩体南部ではアンチゴライト化が強い傾向にあり,これらはIgarashi (1985)の観察と調和的であるが,アンチゴライト化が強い試料は岩体全域でも確認される.ダナイトでは特にアンチゴライトの形成が強く見られる.また,鷹泊岩体では蛇紋岩中に輝石を交代したタルクやトレモライト~マグネシオホルンブレンドの組成を示すCa角閃石の形成が見られる.Ca角閃石に角閃石地質温度計・圧力計を適用した結果,Naの含有量によってNaに富むもの(1.2GPa, 830℃)とNaに乏しいもの(0.5GPa, 780℃)の形成温度圧力の異なる2種類のCa角閃石の形成が示唆された.Naに富むCa角閃石の形成は鷹泊岩体の北部に限られ,北部では金雲母が含まれる蛇紋岩も確認される.Ca角閃石の形成後,冷却によってタルクが形成され,さらに高圧変成岩類の境界に近い南部ではリヒター閃石やFeに富む変成かんらん石,変成単斜輝石がアンチゴライトと同時に形成された.またこれらに関連してFeに富むストライプ構造を持つかんらん石も生じている.これらの鉱物の出現は,500~600℃での降温変成作用と昇温変成作用を経験したことを示している.一方で, Mgに富む変成かんらん石はアンチゴライトと磁鉄鉱を伴って形成され,400℃前後での昇温変成作用によって形成されたと考えられる.鷹泊岩体の岩石学的特徴はマリアナ前弧域における蛇紋岩に類似しており,このことは鷹泊岩体が前弧域のマントルウェッジであったことを示唆している.Ca角閃石,リヒター閃石の微量元素パターンはCs,Rb,Pbなどの流体移動元素に極めて富む傾向を示している.類似の傾向はIchiyama et al. (2021)が示したマリアナ前弧域における角閃石の微量元素パターンでも認められ,鷹泊岩体の交代作用をもたらした物質は沈み込んだスラブ由来の流体であることが示唆される.スラブ由来の流体は金雲母の存在から,より高温ではKに富み,リヒター閃石の形成から,より低温ではNaに富むことが示唆される.そして最終的にマントルウェッジであった鷹泊岩体は,その下盤に存在したスラブであった神居古潭帯の高圧変成岩を伴って陸上へと定置したと考えられる.