日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-EM 固体地球電磁気学

[S-EM13] 地磁気・古地磁気・岩石磁気

2021年6月6日(日) 15:30 〜 17:00 Ch.21 (Zoom会場21)

コンビーナ:加藤 千恵(九州大学比較社会文化研究院)、佐藤 哲郎(東京大学地震研究所)、座長:加藤 千恵(九州大学比較社会文化研究院)、佐藤 哲郎(東京大学地震研究所)、吉村 由多加(九州大学大学院比較社会文化研究院)

16:00 〜 16:15

[SEM13-08] 堆積物形成初期に磁性細菌Magnetospirillum magnetotacticum MS-1が獲得する残留磁化の検討-無機起源磁性粒子との混合系の例

*政岡 浩平1、諸野 祐樹2、富岡 尚敬2、浦本 豪一郎3、山本 裕二3、大野 正夫1 (1.九州大学、2.海洋研究開発機構高知コア研究所、3.高知大学)


海底堆積物には自然残留磁化(NRM)として,過去の地球磁場の変動がほぼ連続的に記録されている.このNRMを担うのは陸源などの無機的に形成された磁性粒子だけでない.磁性細菌を起源とする生物源磁性粒子もNRMを担っており,その量的重要性が指摘されている(e.g. Yamazaki and Ikehara, 2012).しかし,生物源マグネタイトが獲得する残留磁化の性質について,堆積物がNRMを獲得する過程を模擬した試料を作製して検討している例はほとんどない.政岡ほか(2020JpGU)では,磁性細菌Magnetospirillum magnetotacticum MS-1(以下MS-1)の細胞群を,印加磁場下で寒天とともに固結させ,堆積物形成初期を想定して模擬した試料を作製した.一連の分析の結果として,NRM強度が,MS-1の細胞数の増加に対して直線的に,印加磁場強度の増加に対して非直線的(ランジュバン関数的)に増加することを報告した.しかし,MS-1の細胞群のみを含む系であるため,無機起源磁性粒子を含む実際の堆積物との間に差異があり,単純比較できない.
本研究では,この差異を埋めるための各種実験と磁気分析を行った.具体的には,堆積物形成初期にMS-1の細胞群と無機起源のマグネタイトを混合した試料群や,MS-1の細胞群を破壊してマグネタイトの配列を乱した試料群を作製し,磁気分析を行った.試料の作製は,堆積物形成初期の圧密・脱水過程を経て,当時の地球磁場を反映したNRMを獲得する過程を模擬するため,政岡ほか(2020JpGU)と同様の手順とした.具体的な作製条件,及び,作製試料群は以下の通りである.
・実験条件:①磁場強度一定(50 µT)・希釈率変化(1/3, 2/3, 1, 4/3倍),②磁場強度変化(0-90 μT)・希釈率一定(1倍)
・試料群A:希釈率1倍の試料のMS-1の細胞数が3.0×109 cells/7 ccとなるようにし,実験条件①・②のもと作製した試料群.
・試料群B:MS-1の細胞群と,陸源のマグネタイトを想定した試薬マグネタイト(Fe3O4, 粒径 < 180 μm)の磁気モ―メント比が1:1となるようにし,実験条件①・②のもと作製した試料群. 試料群BのMS-1の細胞数は試料群Aの50%とした.
・試料群C:希釈率1倍の試料のMS-1の細胞数が3.0×109 cells/7 ccとなるように調製した後,MS-1の細胞群を超音波破砕し,実験条件①・②のもと作製した試料群.
各試料のNRM方位は印加磁場方位と一致した.実験条件①で作製した試料のNRM強度はいずれも,マグネタイトの濃度の増加に伴って直線的に増加した.その傾きは,試料群Aと比較して,試料群Bで1.26倍,試料群Cで0.55倍であった.実験条件②において,各試料のNRM強度は作製磁場90 μTで,2.41–4.21×109 Am2の範囲で差があるものの,いずれも印加磁場強度の増加に伴い,tanh関数に従って非直線的に増加した.堆積物形成初期に獲得するNRMの強度は,含有するマグネタイトの起源に依らず,その濃度と直線的な比例関係にあるが,外部磁場強度と非直線的な関係にある可能性が示唆された.