日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-EM 固体地球電磁気学

[S-EM13] 地磁気・古地磁気・岩石磁気

2021年6月6日(日) 17:15 〜 18:30 Ch.11

コンビーナ:加藤 千恵(九州大学比較社会文化研究院)、佐藤 哲郎(東京大学地震研究所)

17:15 〜 18:30

[SEM13-P04] 長崎県大村湾の海底表層堆積物の岩石磁気学的特性

*石川 尚人1、横尾 頼子2、松岡 數充3 (1.富山大学都市デザイン学部地球システム科学科、2.同志社大学理工学部、3.長崎大学環東シナ海環境資源研究センター)

キーワード:岩石磁気学的特性、海底表層堆積物、強磁性鉱物の起源、初期続成作用

湖底・海底堆積物の磁気的特性を用いて地球表層の環境変動の解析が行われている。磁気的特性は含まれる強磁性鉱物の存在形態(種類・構成,量,粒径)を反映したもので,その存在形態の変動は強磁性鉱物の供給過程における変動に起因する。含有強磁性鉱物には,一般的に風や水の運搬作用による陸源のものと堆積物中に棲息する走磁性細菌が生成した生物起源のものがある。その起源毎に含有強磁性鉱物の磁気的特性を把握し,存在形態とその変動がわかれば,各々起源に関わる供給過程(大気循環,水循環,生物活動)とその過程間の相互作用を明らかにすることに繋がり,堆積物の磁気的特性に基づく環境変動解析をより高度化・有用化することができる。一方,初生的に堆積物にもたらされた強磁性鉱物は堆積後から初期続成作用の影響を受け,少なからず変容する。そのため上記の供給過程での変動を記録している初生的な磁気的情報は改変されることになる。初期続成作用の磁気的特性への影響を理解し,把握することは,堆積物の磁気的特性による環境変動解析をする上で重要である。そこで,長崎県・大村湾の海底堆積物を対象にして,バルクの堆積物の磁気的特性に対する起源が異なる強磁性鉱物の磁気的特性の寄与の評価と初期続成作用の影響の把握を目的に研究を行っている。本発表では大村湾の極表層堆積物の磁気的特性について,その概略を報告する。
大村湾は水深15〜20m,閉鎖的な内湾で大きな流入河川はない。表層堆積物は均質なシルト質粘土で中央粒径が4μmの微粒子からなる。主として珪藻等の生物起源物と湾周辺域からの河川流入物からなるが,黄砂の寄与の可能性も指摘されている。底層は酸素が乏しい環境で,特に温度躍層の発達に伴い夏季(7〜8月)には貧酸素水塊が広く発生する。分析試料として長崎空港西方の湾中央部において極表層堆積物(約15cm)をG.S.型表層採泥器を用いて2017年8月と10月に採取した。実験室において1cm厚に分割し,凍結乾燥により岩石磁気学的実験のための粉末試料を用意した。
磁気天秤による熱磁気分析,等温残留磁化の段階的熱消磁実験からマグネタイト,マグヘマイト化したマグネタイト,ヘマタイトが含有していることが示された。堆積物の深度方向に対して初磁化率,飽和磁化強度,飽和残留磁化強度はほとんど変化しないが,非履歴残留磁化率とS-0.1Tの減少,残留保磁力の増加が認められた。等温残留磁化の獲得・消磁実験データに基づく等温残留磁化の保磁力分布の解析から,深度方向に対して高保磁力磁性粒子(主はヘマタイト)の量に顕著な変化はないものの,等温残留磁化強度に対する相対的な寄与の増加が認められた。以上のことから,含有強磁性鉱物の量の指標である多くの磁気的パラメータには変化がないものの,深度方向に対して細粒マグネタイトの量の減少(平均的な磁気的粒径の粗粒化)と高保磁力のヘマタイトの相対的な寄与の増加が示唆され,これは初期続成作用によるマグネタイトの溶解による可能性が考えられる。現状では8月と10月のコア試料で上述の磁気的指標の変化には違いは認められなかった。