日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-EM 固体地球電磁気学

[S-EM14] 電気伝導度・地殻活動電磁気学

2021年6月3日(木) 10:45 〜 12:15 Ch.23 (Zoom会場23)

コンビーナ:畑 真紀(東京大学地震研究所)、宇津木 充(京都大学大学院理学研究科附属地球熱学研究施設火山研究センター)、座長:山崎 健一(京都大学防災研究所)、宇津木 充(京都大学大学院理学研究科附属地球熱学研究施設火山研究センター)

10:45 〜 11:10

[SEM14-07] 地磁気絶対観測の新手法の精度評価

★招待講演

*平原 秀行1、仰木 淳平1、海東 恵美1、浅利 晴紀1 (1.気象庁地磁気観測所)

キーワード:地磁気、観測、測量、精度、永年変化、弱磁場

地磁気絶対観測は、地磁気ベクトル3成分の絶対値を得ることを目的とし、特定の地点と時刻における全磁力(F)・偏角(D)・伏角(I)の高精度な測定により実施される。Fの測定にはプロトン磁力計などのスカラー磁力計が、DとIの測定にはDIメーターと呼ばれる磁気儀が用いられる。後者は手動により実施され、安定した測定精度(0.1分角以下)を確保するためには観測者に一定レベル以上の測量技術が要求される。地磁気永年変化の正確な把握に活用するためには、絶対観測を高い頻度で繰り返すことが必要となるが、観測者への負担が大きくその頻度は限られている。一般的に、地磁気定常観測点では1週間から数カ月に1回程度、繰り返し観測点では1年に1回程度の間隔で実施されているのが現状である。
現在、世界の主要な地磁気観測所では、ツァイス社製の非磁性経緯儀THEOに1軸フラックスゲート磁力計を搭載したDIメーターが採用されている。DまたはIの決定には、それらに直交する複数の指定方位(ゼロ磁場方位)の測定値が用いられる(Jankowski and Sucksdorff,1996)。現在、国内に普及している手法である「ゼロ磁場方式」では、磁力計軸をゼロ磁場方位(磁力計出力値が0.0nTとなる方位)に厳密に合わせる操作が必要となる。その際の磁気儀の取り扱いには熟練を要するため、例えば、経験の浅い観測者が野外の環境で限られた時間内に測定を終える必要がある状況下で一定の精度を確保するには相当の困難を伴う場合もあった。これに対し、近年では「弱磁場方式」と呼ばれる手法が世界的に主流になりつつある(Worthington and Matzka, 2017)。同方式では、ゼロ磁場方位付近に向けた磁力計軸の方位と数nT程度となる磁力計出力値から、間接的にゼロ磁場方位を算出することができる。磁力計軸をゼロ磁場方位に合致させる繊細な微動ノブ操作が無くなるため、観測者の心身の負担軽減、初心者の習得の速さ、観測者の非磁性装備の緩和など、作業省力化の点で多くの利点が期待される。
本講演では、2020年4月から2021年1月までの10か月間に渡り実施された弱磁場方式による地磁気絶対観測の精度評価試験の結果を報告する。地磁気観測所比較較正室において、1秒角読みのDIメーター(THEO 010B)を用いた弱磁場方式によるDとIの測定を行い、地磁気観測所の基準器である DI-72角度測定器との差(器差)を求めた。測定はゼロ磁場方式の経験が豊富な職員7名が行った。その結果、DI-72角度測定器との器差は0.1分角以内に収まり、当所職員が定期的に行っているDIメーターによるゼロ磁場方式による測定との器差と変わらないことが確かめられた。また、観測誤差もゼロ磁場方式によるものと同程度であった。さらに、観測に要する時間は弱磁場方式を用いることで短縮された。特に、野外など環境的時間的に制限がある場合には、弱磁場方式は、繊細な操作から解放されることで心理的負担が軽減され、測定時間の大幅な短縮が期待できる。現在、厳しい観測環境にある南極昭和基地で弱磁場方式による絶対観測を試験導入し、観測頻度を高めることで基線値の安定化に寄与する効果を調査中である。今後は、野外で絶対観測を実施している父島地磁気観測点での運用も目指す。

本研究において著者の1名がドイツ・ニーメック地磁気観測所にて弱磁場方式の研修を受けるにあたり、東京大学地震研究所の清水久芳教授には多大なご支援を賜った。