17:15 〜 18:30
[SEM14-P03] 津波が誘導する磁場の検出
1.導入
地球磁場中を津波が移動するとダイナモ発電効果により電磁場が誘導される(津波誘導電磁場)。Tyler (2005)は、近似的に大洋中の津波誘導磁場が海面変化と線形相関することを示した。陸上では、津波誘導電磁場は鉛直成分に現れ、津波到着時刻に先行すると考えられており(Tatehata et al.,2015)、磁場の観測が津波業務に資する可能性がある。一方、津波誘導電磁場に関する報告は少なく、その性質は不明なことも多い。そこで、本研究では日本と日本周辺の島々における陸上磁場観測点での津波による磁場変化についてその性質を調査することを目的とする。
2.解析方法
津波誘導電磁場の性質を調査するため、磁場鉛直成分1分値と潮位1分値の比較を行うことで、津波誘導磁場の検出を考える。2006年以降日本で津波が観測された14地震について、日本周辺の9磁場観測点と近傍の検潮所のデータを用いた。磁場データは気象庁、国土地理院、東京大学地震研究所、WDCから、潮位データは気象庁、国土地理院、IOC、NOAAから提供された。解析前に、津波の周期(10~50分)より長い変化は60分移動平均によって、津波の周期と同等な周期を持つ電離圏・磁気圏起源の磁場変化はカルマンフィルターを用いて除去した。
目視による比較では、ほとんどの事例で電離圏・磁気圏起源の磁場変化との区別がつきにくかったため、相関によって有意性を判定した。判定基準は(1)時間領域の1次相関係数、周波数領域の2乗コヒーレンスともに有意な値を持つこと(2)1次相関係数に津波の卓越周期に伴う周期的変化があることの2点である。
3.解析結果・考察
98事例について判定を行ったところ、44事例で磁場鉛直成分と海面変化の間に相関の有意性が確認できた。相関の有意性が確認できなかったものは最大海面変化が20cm以下のものが多く、津波誘導磁場が安定して確認できるのは最大の海面変化が20cm以上であることが考えられる。また、最大の海面変化が20cm以上で、相関の有意性が確認できたものは19事例で、磁場と海面変化の関係は比例関係に近い。さらに、磁場と海面変化の相関の安定性には地域差が存在し、大洋中の孤島で相関が安定した。
4.津波の数値モデルを用いた津波誘導磁場の計算
相関に地域差が存在する原因を説明するため、2010年チリ地震を例に津波の数値モデルで得られた海面変化・流速から津波誘導磁場を理論的に計算し、海面変化と誘導磁場の関係を調べることを考える。2010 年チリ地震を例にしたのは、遠地津波として代表的な地震であり、多くの観測点で津波が観測されたからである。
津波の数値モデルには、平面二次元津波計算モデル(南、私信)を用いた。また、津波誘導磁場の計算にはTatehata et al. (2015)によるBiot-Savart則を用いる方法を採用した。地球が成層構造をしており、津波を長波と仮定すると、周波数領域で海中での津波誘導磁場の解析解が得られる。アンペールの法則より、誘導磁場を作る電流を求めると、流速に垂直になる。誘導電流の大きさは、海面変化と主磁場に比例する。
そこで、9磁場観測点周辺それぞれにおいて、まず、津波モデルで得られた各格子点上の海面変化からFFTを利用し周波数領域の海面変化を求め、周波数領域の電流を計算した。主磁場の値はCHAOS-5モデル(Finlay et al.,2015)から計算した。次に、周波数領域の電流を逆FFTして時間領域の電流を求め、各時刻の津波の流速から電流の向きを算出した。最後に、Biot-Savart則を用いて磁場を計算した。
震源に近い南半球の2観測点を除く、7観測点で、計算した磁場とモデルで得られた海面変化の相関がみられた。特に、周期20分以上の変化と津波第一波で相関が良かった。津波誘導磁場海面変化の振幅に対応する津波誘導磁場の振幅の比は、父島、南鳥島で大きく、原町や室戸で小さくなった。大洋中の孤島は周囲を海水で囲まれており有効な電流の数が多く、島周辺の流れは単純な長波のため広域的な特徴を持つので、相関が特に確認しやすかったと考えられる。このことから、海面変化と誘導磁場の相関の地域差には周辺の海岸地形や陸地分布が影響していると考えられた。一方、観測では、津波誘導磁場/海面変化は0.67[nT/m]と計算結果に比べて小さく、磁場の理論式の制約や津波モデルの精度の評価が課題となった。
地球磁場中を津波が移動するとダイナモ発電効果により電磁場が誘導される(津波誘導電磁場)。Tyler (2005)は、近似的に大洋中の津波誘導磁場が海面変化と線形相関することを示した。陸上では、津波誘導電磁場は鉛直成分に現れ、津波到着時刻に先行すると考えられており(Tatehata et al.,2015)、磁場の観測が津波業務に資する可能性がある。一方、津波誘導電磁場に関する報告は少なく、その性質は不明なことも多い。そこで、本研究では日本と日本周辺の島々における陸上磁場観測点での津波による磁場変化についてその性質を調査することを目的とする。
2.解析方法
津波誘導電磁場の性質を調査するため、磁場鉛直成分1分値と潮位1分値の比較を行うことで、津波誘導磁場の検出を考える。2006年以降日本で津波が観測された14地震について、日本周辺の9磁場観測点と近傍の検潮所のデータを用いた。磁場データは気象庁、国土地理院、東京大学地震研究所、WDCから、潮位データは気象庁、国土地理院、IOC、NOAAから提供された。解析前に、津波の周期(10~50分)より長い変化は60分移動平均によって、津波の周期と同等な周期を持つ電離圏・磁気圏起源の磁場変化はカルマンフィルターを用いて除去した。
目視による比較では、ほとんどの事例で電離圏・磁気圏起源の磁場変化との区別がつきにくかったため、相関によって有意性を判定した。判定基準は(1)時間領域の1次相関係数、周波数領域の2乗コヒーレンスともに有意な値を持つこと(2)1次相関係数に津波の卓越周期に伴う周期的変化があることの2点である。
3.解析結果・考察
98事例について判定を行ったところ、44事例で磁場鉛直成分と海面変化の間に相関の有意性が確認できた。相関の有意性が確認できなかったものは最大海面変化が20cm以下のものが多く、津波誘導磁場が安定して確認できるのは最大の海面変化が20cm以上であることが考えられる。また、最大の海面変化が20cm以上で、相関の有意性が確認できたものは19事例で、磁場と海面変化の関係は比例関係に近い。さらに、磁場と海面変化の相関の安定性には地域差が存在し、大洋中の孤島で相関が安定した。
4.津波の数値モデルを用いた津波誘導磁場の計算
相関に地域差が存在する原因を説明するため、2010年チリ地震を例に津波の数値モデルで得られた海面変化・流速から津波誘導磁場を理論的に計算し、海面変化と誘導磁場の関係を調べることを考える。2010 年チリ地震を例にしたのは、遠地津波として代表的な地震であり、多くの観測点で津波が観測されたからである。
津波の数値モデルには、平面二次元津波計算モデル(南、私信)を用いた。また、津波誘導磁場の計算にはTatehata et al. (2015)によるBiot-Savart則を用いる方法を採用した。地球が成層構造をしており、津波を長波と仮定すると、周波数領域で海中での津波誘導磁場の解析解が得られる。アンペールの法則より、誘導磁場を作る電流を求めると、流速に垂直になる。誘導電流の大きさは、海面変化と主磁場に比例する。
そこで、9磁場観測点周辺それぞれにおいて、まず、津波モデルで得られた各格子点上の海面変化からFFTを利用し周波数領域の海面変化を求め、周波数領域の電流を計算した。主磁場の値はCHAOS-5モデル(Finlay et al.,2015)から計算した。次に、周波数領域の電流を逆FFTして時間領域の電流を求め、各時刻の津波の流速から電流の向きを算出した。最後に、Biot-Savart則を用いて磁場を計算した。
震源に近い南半球の2観測点を除く、7観測点で、計算した磁場とモデルで得られた海面変化の相関がみられた。特に、周期20分以上の変化と津波第一波で相関が良かった。津波誘導磁場海面変化の振幅に対応する津波誘導磁場の振幅の比は、父島、南鳥島で大きく、原町や室戸で小さくなった。大洋中の孤島は周囲を海水で囲まれており有効な電流の数が多く、島周辺の流れは単純な長波のため広域的な特徴を持つので、相関が特に確認しやすかったと考えられる。このことから、海面変化と誘導磁場の相関の地域差には周辺の海岸地形や陸地分布が影響していると考えられた。一方、観測では、津波誘導磁場/海面変化は0.67[nT/m]と計算結果に比べて小さく、磁場の理論式の制約や津波モデルの精度の評価が課題となった。