日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-GD 測地学

[S-GD01] 測地学・GGOS

2021年6月4日(金) 10:45 〜 12:15 Ch.22 (Zoom会場22)

コンビーナ:松尾 功二(国土地理院)、横田 裕輔(東京大学生産技術研究所)、大坪 俊通(一橋大学)、座長:中島 正寛(国土交通省国土地理院)、伊東 優治(東京大学地震研究所)

11:45 〜 12:00

[SGD01-11] GNSS搬送波位相変化から直接断層すべりを推定する手法で得られた,2011年東北地方太平洋沖地震の初期余効すべり

*田中 優介1、太田 雄策1、宮崎 真一2 (1.東北大学、2.京都大学)


数分から半日程度の時間スケールの地殻変動・断層すべり現象は,既存のGNSS解析の適用が進んでいない領域である.その最大の原因は大気遅延等の誤差要因との分離の困難性であり,初期の余効変動のようなこの時間スケールの現象を扱った研究事例は依然として少数である.また測位による座標時系列の推定を経由した断層すべりインバージョンは,二段階の独立した解析に分かれるため,未知数や誤差の一体的取り扱いができない.これは未知数の推定・分離状況の把握や精度向上の議論を進める上で大きな妨げになりうる.このような問題意識のもと,我々はGNSS搬送波位相変化から直接断層すべりを推定する手法 (以降PTS (Phase To Slip)) を用いた広帯域断層すべりモニタリング技術の開発に取り組んでいる.PTSはGNSSの一次データである搬送波位相変化を,座標変化を介さずに直接断層すべりに結びつける手法である.これにより断層すべりと大気遅延等の他のパラメータの推定と分離の状況を,一体的に定量評価可能である.

 本研究ではPTSの広帯域断層すべり推定手段としての性能評価を目的とし,2011年東北地方太平洋沖地震の地震時すべりと初期余効すべりの連続的な推定を試みた.ここでは東日本の66の電子基準点の1秒搬送波データを用い,プレート境界面に沿って小断層を配置して3月11日の14:00から15:56 (JST) の断層すべり時空間発展の推定を試みた.その結果,本震後の時間帯に非地震性のゆっくりした断層すべり増加が推定された.すべり増加は主に岩手から茨城の陸寄りの,深部側の小断層で示された.また仮定した断層域の北東部の,岩手・青森沖にもすべり域が推定された.これらはいずれも本震の大すべり域に隣接する領域であり,Munekane (2012) 等の通常測位による推定結果とよく重複する範囲となった.このことから,PTSで東北沖地震の初期余効すべりを捉えることに成功したと考えられる.一方でその量は本震後の33分間で最大0.4~0.5m,Mw7.47相当となり,通常測位による推定よりやや大きくなった.また福島や茨城のすべり域の方がすべり増加が早いなど,時間発展についても先行研究にない特徴が見られた.
 これらの結果は初期余効すべりを含む広帯域な断層すべり推定手段としての,PTSの有用性を示すものである.本発表では結果の妥当性と信頼性も含めてさらに詳細に紹介し,通常測位による推定との比較や未知数の推定・分離状況について細かに議論する.