日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-GL 地質学

[S-GL22] 地球年代学・同位体地球科学

2021年6月4日(金) 13:45 〜 15:15 Ch.23 (Zoom会場23)

コンビーナ:田上 高広(京都大学大学院理学研究科)、佐野 有司(東京大学大気海洋研究所海洋地球システム研究系)、座長:田上 高広(京都大学大学院理学研究科)、佐野 有司(高知大学海洋コア総合研究センター)

14:45 〜 15:15

[SGL22-04] 高親鉄性-高揮発性元素・窒素から解読する初期地球史

★招待講演

*橋爪 光1、大高 理2 (1.茨城大学理学部、2.大阪大学理学研究科)

キーワード:初期地球史、窒素、親鉄性

舞台は地球形成最初期 – 惑星材料物質、すなわち、金属鉄や珪酸塩、それに、後に地球を水惑星として特徴づけることになる水・有機物をはじめとする高揮発性材料物質が活発に地球に集積しつつある時期である。この時期に、マグマオーシャンの形成、金属核-岩石圏の分離、そして、ジャイアントインパクトなどの重大イベントが続いた。地球化学的証拠が極めて乏しいこの時期について、上述のイベントにより地球各圏の組成がどのように変化したのかを制約したい。

岩石や鉱物に記録された年代や同位体組成には、それらが閉鎖系になった時点の情報が保持されている。同じように、地球全岩(Bulk Silicate Earth)組成には、岩石圏が全体として閉鎖系になった時、すなわちコア-マントル分離が完了した時点の各元素の挙動が記録されている。例えば、白金族元素などの高親鉄性元素は高い効率で金属鉄に分配されBSEには大きく欠乏している。ただし、詳細にその組成を調べると、BSEはこの時点で厳密に閉鎖系になったわけではなく、コア-マントル分離が完了後、少量のコンドライト物質(Late-Veneer)が岩石圏に降着したのではないかと考えられている。

本研究では、窒素と炭素という二つの元素の金属鉄-珪酸塩間分配実験を行った。実験の結果、両元素とも親鉄性を示すが、中でも窒素の親鉄性は極めて高いことが判明した。窒素の金属鉄-珪酸塩間分配係数は、珪酸塩メルトの組成、特にSiO2存在度に大きく依存することがわかった。従来から進められてきた窒素の金属鉄-珪酸塩間分配実験は大部分がバサルト組成メルトに対して行われてきたが、これは始原マントル組成-いわゆるパイロライト組成に対する分配係数と大きく異なることがわかった。

上述の情報を元に、初期地球におけるこれら元素の挙動を追った。親鉄性という観点だけに注目すると、窒素は白金族元素と同じ挙動を示したはずである。ただし、窒素には、白金族元素と決定的に異なる属性がある。それは高揮発性である。初期地球において、インパクトにより固体元素が地球から散逸する効果を考える必要はないが、窒素、炭素、水素や希ガスなどの高揮発性元素においては、その効果は絶大だったかもしれない。地球が最終的に水惑星になれたか否かも、インパクトによる散逸効率次第である。

本研究の最終的な目標は以下の通りである。窒素、炭素、それに親鉄性が全くないアルゴンという3つの高揮発性元素の初期地球における存在比を追跡し、親鉄性の効果により予想される元素組成を、現在推定されるBSE組成と比較する。(ただし、ここでいうBSE組成は広義のもの、つまり、地表を覆う大気・水圏などをすべて含むものである。)二つの組成がもし違うとすれば、その違いは、高親鉄性固体元素と窒素の「唯一の」違いである高揮発性属性に由来する、インパクトによる散逸の情報を与えるはずである。