17:15 〜 18:30
[SGL22-P04] マルチ鉱物年代スタンダードの可能性:東北日本仁左平層NSTジルコンの予察分析
キーワード:ジルコン、ウランー鉛年代、ハフニウム同位体比、フィッション・トラック年代、標準試料、東北
はじめに
近年,閉鎖温度や半減期の異なる複数の放射壊変系列を利用したマルチ年代測定が盛んに行われるようになりつつある.例えば,レーザーアブレーション試料導入法などによる局所分析の導入により,鉱物の同一領域から取得する手法(ジルコンのU–Pb年代とフィッション・トラック(FT)年代によるダブル年代測定やジルコンU–Pb年代とHf同位体などを同時測定するスプリットストリーム法など)も発展してきている.こうした分析技術の発展に伴い,今後は複数の分析手法に有効な標準試料(以下,マルチ鉱物年代スタンダードと呼ぶ)が重要になると考えられる.東北日本には,流紋岩質火砕岩主体の仁左平層(辻野ほか,2018)と呼ばれる地質単元があり,その中のNSTとよばれる試料(Tagami et al., 1995)からはジルコンU–Pb年代,ジルコンFT年代や黒雲母K–Ar年代でいずれも約22–21 Maが報告されている(Hasebe et al., 2013;Tagami et al., 1995;Sudo et al., 1996;Table).上述したように,NSTから得られた閉鎖温度の異なる複数の放射壊変系列の年代は,誤差範囲で有意差が認められないため,マルチ鉱物年代スタンダードとして有効である可能性がある.著者らは,現在NSTのマルチ鉱物年代スタンダードとしての有効性を複数の分析手法で検証している(例えば,福田ほか(2021)によるアパタイトFT年代やジルコン(U–Th)/He年代).本研究では,その予察的研究として,NSTジルコンのU–Pb年代とFT年代(一部,FT年代も同時測定)を複数の施設で測定し,その有効性を再検証した.また,地殻分化の指標として用いられるHf同位体組成について分析を実施したので,これらの結果について概報する.
試料と手法
測定試料は,NSTと同じ露頭から採取された試料であり,京都大学のグループから提供された(Tagami et al., 1995のNS-704B地点に相当).ただし,採取年と粗粒・細粒な岩相でNST19,NST20aおよびNST20bに便宜的に区分した.それらを日本原子力研究開発機構 東濃地科学センター,東京大学大学院理学系研究科 地殻化学実験施設,名古屋大学大学院環境学研究科にそれぞれ設置の,異なるLA-ICPMSを用いてU–Pb年代測定を行った.Hf同位体の測定については,東濃地科学センター設置のLA-ICPMSを用いた.
結果と考察
U–Pb年代 & FT年代:それぞれの施設での206Pb/238Uコンコーダント加重平均値は約23.0–21.3 Maを示した(Table).これらの結果は岩相や採取年で大きな差はなく,Hasebe et al. (2013)のデータともおおむね整合的である.ただし,約30–26 Maを示すジルコンも確認される例があることと4Π面でのFT年代が古くなる傾向については,コアとリムでの組成の違いなどが考えられるが,今後検討を要する.
Hf同位体組成:予察的ではあるものの,176Hf/177Hf =0.282824–0.282944(加重平均値(誤差2σ):0.282895 +/- 29) を得た.Lu/Hf比とYb/Hf比は他のジルコンHf同位体比標準試料(例えば,91500やMudTank)のそれに比べて高い傾向にある.Hf同位体分析では,LuやYbなどのHfに干渉する同重体を正しく補正する必要があり,こうした特徴を持つNSTは,Hf同位体分析の精確さを検証・評価する上で重要な試料になる可能性もある.
文献と謝辞
福田ほか,2021,FT研講演要旨,1/Hasebe et al., 2013, Island Arc, 22, 281–290/Sudo et al., 1996, Mem., Fac., Sci., Kyoto Univ., 58, 21–40/Tagami et al., 1995, Geochemical J., 29, 207–210/辻野ほか,2018,5万分の1地質図幅「一戸」,161p.
名古屋大学での測定では,山本鋼志特任教授と淺原良浩准教授に様々な便宜をはかっていただいた.本研究は経済産業省資源エネルギー庁委託事業「令和2年度高レベル放射性廃棄物等の地層処分に関する技術開発事業(地質環境長期安定性評価技術高度化開発)」の成果の一部である.
近年,閉鎖温度や半減期の異なる複数の放射壊変系列を利用したマルチ年代測定が盛んに行われるようになりつつある.例えば,レーザーアブレーション試料導入法などによる局所分析の導入により,鉱物の同一領域から取得する手法(ジルコンのU–Pb年代とフィッション・トラック(FT)年代によるダブル年代測定やジルコンU–Pb年代とHf同位体などを同時測定するスプリットストリーム法など)も発展してきている.こうした分析技術の発展に伴い,今後は複数の分析手法に有効な標準試料(以下,マルチ鉱物年代スタンダードと呼ぶ)が重要になると考えられる.東北日本には,流紋岩質火砕岩主体の仁左平層(辻野ほか,2018)と呼ばれる地質単元があり,その中のNSTとよばれる試料(Tagami et al., 1995)からはジルコンU–Pb年代,ジルコンFT年代や黒雲母K–Ar年代でいずれも約22–21 Maが報告されている(Hasebe et al., 2013;Tagami et al., 1995;Sudo et al., 1996;Table).上述したように,NSTから得られた閉鎖温度の異なる複数の放射壊変系列の年代は,誤差範囲で有意差が認められないため,マルチ鉱物年代スタンダードとして有効である可能性がある.著者らは,現在NSTのマルチ鉱物年代スタンダードとしての有効性を複数の分析手法で検証している(例えば,福田ほか(2021)によるアパタイトFT年代やジルコン(U–Th)/He年代).本研究では,その予察的研究として,NSTジルコンのU–Pb年代とFT年代(一部,FT年代も同時測定)を複数の施設で測定し,その有効性を再検証した.また,地殻分化の指標として用いられるHf同位体組成について分析を実施したので,これらの結果について概報する.
試料と手法
測定試料は,NSTと同じ露頭から採取された試料であり,京都大学のグループから提供された(Tagami et al., 1995のNS-704B地点に相当).ただし,採取年と粗粒・細粒な岩相でNST19,NST20aおよびNST20bに便宜的に区分した.それらを日本原子力研究開発機構 東濃地科学センター,東京大学大学院理学系研究科 地殻化学実験施設,名古屋大学大学院環境学研究科にそれぞれ設置の,異なるLA-ICPMSを用いてU–Pb年代測定を行った.Hf同位体の測定については,東濃地科学センター設置のLA-ICPMSを用いた.
結果と考察
U–Pb年代 & FT年代:それぞれの施設での206Pb/238Uコンコーダント加重平均値は約23.0–21.3 Maを示した(Table).これらの結果は岩相や採取年で大きな差はなく,Hasebe et al. (2013)のデータともおおむね整合的である.ただし,約30–26 Maを示すジルコンも確認される例があることと4Π面でのFT年代が古くなる傾向については,コアとリムでの組成の違いなどが考えられるが,今後検討を要する.
Hf同位体組成:予察的ではあるものの,176Hf/177Hf =0.282824–0.282944(加重平均値(誤差2σ):0.282895 +/- 29) を得た.Lu/Hf比とYb/Hf比は他のジルコンHf同位体比標準試料(例えば,91500やMudTank)のそれに比べて高い傾向にある.Hf同位体分析では,LuやYbなどのHfに干渉する同重体を正しく補正する必要があり,こうした特徴を持つNSTは,Hf同位体分析の精確さを検証・評価する上で重要な試料になる可能性もある.
文献と謝辞
福田ほか,2021,FT研講演要旨,1/Hasebe et al., 2013, Island Arc, 22, 281–290/Sudo et al., 1996, Mem., Fac., Sci., Kyoto Univ., 58, 21–40/Tagami et al., 1995, Geochemical J., 29, 207–210/辻野ほか,2018,5万分の1地質図幅「一戸」,161p.
名古屋大学での測定では,山本鋼志特任教授と淺原良浩准教授に様々な便宜をはかっていただいた.本研究は経済産業省資源エネルギー庁委託事業「令和2年度高レベル放射性廃棄物等の地層処分に関する技術開発事業(地質環境長期安定性評価技術高度化開発)」の成果の一部である.