17:15 〜 18:30
[SGL22-P06] 西南日本,美濃帯北部付加体の前期~中期ジュラ紀砂岩の後背地
キーワード:美濃帯、ジルコン、U–Pb年代、Hf同位体比、付加体
1. はじめに
近年,火成岩のジルコンU–Pb年代測定から,世界の火成岩の年代分布が解明されてきた.また,そのデータを基に,砕屑性ジルコンのU–Pb年代分布から後背地を解析する試みも盛んである.しかし,世界には火成岩のU–Pb年代分布が類似する地域もあるため,解析次第では,同様な砕屑性ジルコン年代分布から異なる後背地が提唱されることもある.西南日本内帯の美濃帯もその例である(Fujisaki et al., 2014; Tokiwa et al., 2019).そこで,本研究は,U–Pb年代にHf同位体組成という指標を加え,砕屑性ジルコンのそれぞれの分析データを基に,美濃帯北部を構成する付加体砂岩の後背地を解析することを目的とする.
2. 試料と地質概説
研究対象は,美濃帯北部の春日野ユニットの砂岩1試料(Ks 1)と,その構造的下位の今庄ユニット今庄層(Im 1),大西層(Im 2)および左門岳層(Im 3)の砂岩各1試料である.試料採取地点を付図に示す.春日野ユニットは,黒色頁岩,チャート,珪質頁岩,玄武岩および砂岩の岩塊を含む混在相で特徴づけられ,形成年代はSinemurian–Aalenian期とされる(服部・吉村,1982).今庄ユニットは,砂岩に富む砕屑岩類を主とし,チャートを伴うコヒーレント層であり,形成年代はBajocian–Bathonian期とされる(服部・吉村,1982;脇田,1982;小林,1998).
3. 手法
U–Pb同位体分析には,名古屋大学大学院 環境学研究科設置のレーザーアブレーション装置を試料導入系に備えた誘導結合プラズマ質量分析装置(LA–ICPMS)を使用した.Hf同位体は,日本原子力研究開発機構 東濃地科学センター設置のLA–ICPMSで測定した.得られたU–Pb年代とHf同位体組成からHf同位体の進化を考察し,後背地を解析した.
4. 結果と考察
砕屑性ジルコンのU–Pb年代分布,最若粒子の206Pb/238U年代(YSG),およびU–Pb年代とHf同位体組成の対応を付図に示した.
先行研究では,中央アジア造山帯(CAOB)の東部に950–720 Maおよび500–100 Maの火成岩が分布すること,および北中国地塊の火成岩のジルコン年代が2800–2400 Ma,2200–1600 Maおよび400–100 Maの3つのグループに分かれることを示唆している(Xu et al., 2019; Yang et al., 2006).また,CAOBの500–100 MaのジルコンのHf同位体組成[εHf (t)値:枯渇したマントルからの進化を仮定して算出した,ジルコン晶出時の176Hf/177Hf比のCHUR (Chondritic Uniform Reservoir) からのずれ値;Matteini et al., 2010]はεHf (t)= -6 – +18,北中国地塊の500–100 Ma,2000–1600 Maおよび約2500 MaのジルコンのεHf (t) 値は,それぞれ-24 – -2,-10 – +4,および-2 – +10と報告されている(Yang et al., 2006).
U–Pb年代-εHf (t) 値図上で,本研究の砕屑性ジルコンの分析結果と火成ジルコンの分布範囲(Yang et al., 2006)を比較して(付図),後背地を推定した.春日野ユニット(Ks 1)は,砕屑性ジルコンがCAOB東部の範囲内にほぼプロットされるため,CAOBを後背地とする蓋然性が高い.一方,今庄層(Im 1)は,257–191 Maと185–180 Maの砕屑性ジルコンが,それぞれCAOBおよび北中国の範囲内にプロットされるため,CAOBおよび北中国地塊の境界付近を後背地とする蓋然性が高い.また,大西層(Im 2)および左門岳層(Im 3)は,砕屑性ジルコンが北中国地塊の範囲内にほぼプロットされるため,北中国地塊を後背地とする蓋然性が高い.以上より,美濃帯付加体を形成した収束境界は,Sinemurian–Aalenian期にCAOBの東部に位置し,Bajocian–Bathonian期に北中国地塊の東部に位置したと考えられる.従って,美濃帯が前期~中期ジュラ紀の大陸縁に平行な右横ずれ運動(大藤ほか,1989)でCAOBから北中国地塊まで相対的に南下したと解釈した.
引用文献
Fujisaki et al., 2014: J. Asian Earth Sci., 88, 62–73/服部・吉村, 1982: 大阪微化石研究会誌特別号, 5, 103–116/小林, 1998: 信州大学理学部紀要, 33,27–63/Matteini et al., 2010: Ann. Braz. Acad. Sci., 82, 479–491/大藤ほか, 1989: 構造地質, 34, 75–84/Tokiwa et al., 2019: J. Asian Earth Sci., 184, 103970/脇田, 1982: 大阪微化石研究会誌特別号, 5, 153–171/Wakita, 1988: Bull. Geol. Surv. Japan, 39, 675–757/Xu et al., 2019: Earth Sci., 44, 1620–1646 (in Chinese) /山田ほか, 1985: 高山地域の地質. 地質調査所, 111p/Yang et al., 2006: Earth Planet. Sci. Lett., 246, 336–352.
近年,火成岩のジルコンU–Pb年代測定から,世界の火成岩の年代分布が解明されてきた.また,そのデータを基に,砕屑性ジルコンのU–Pb年代分布から後背地を解析する試みも盛んである.しかし,世界には火成岩のU–Pb年代分布が類似する地域もあるため,解析次第では,同様な砕屑性ジルコン年代分布から異なる後背地が提唱されることもある.西南日本内帯の美濃帯もその例である(Fujisaki et al., 2014; Tokiwa et al., 2019).そこで,本研究は,U–Pb年代にHf同位体組成という指標を加え,砕屑性ジルコンのそれぞれの分析データを基に,美濃帯北部を構成する付加体砂岩の後背地を解析することを目的とする.
2. 試料と地質概説
研究対象は,美濃帯北部の春日野ユニットの砂岩1試料(Ks 1)と,その構造的下位の今庄ユニット今庄層(Im 1),大西層(Im 2)および左門岳層(Im 3)の砂岩各1試料である.試料採取地点を付図に示す.春日野ユニットは,黒色頁岩,チャート,珪質頁岩,玄武岩および砂岩の岩塊を含む混在相で特徴づけられ,形成年代はSinemurian–Aalenian期とされる(服部・吉村,1982).今庄ユニットは,砂岩に富む砕屑岩類を主とし,チャートを伴うコヒーレント層であり,形成年代はBajocian–Bathonian期とされる(服部・吉村,1982;脇田,1982;小林,1998).
3. 手法
U–Pb同位体分析には,名古屋大学大学院 環境学研究科設置のレーザーアブレーション装置を試料導入系に備えた誘導結合プラズマ質量分析装置(LA–ICPMS)を使用した.Hf同位体は,日本原子力研究開発機構 東濃地科学センター設置のLA–ICPMSで測定した.得られたU–Pb年代とHf同位体組成からHf同位体の進化を考察し,後背地を解析した.
4. 結果と考察
砕屑性ジルコンのU–Pb年代分布,最若粒子の206Pb/238U年代(YSG),およびU–Pb年代とHf同位体組成の対応を付図に示した.
先行研究では,中央アジア造山帯(CAOB)の東部に950–720 Maおよび500–100 Maの火成岩が分布すること,および北中国地塊の火成岩のジルコン年代が2800–2400 Ma,2200–1600 Maおよび400–100 Maの3つのグループに分かれることを示唆している(Xu et al., 2019; Yang et al., 2006).また,CAOBの500–100 MaのジルコンのHf同位体組成[εHf (t)値:枯渇したマントルからの進化を仮定して算出した,ジルコン晶出時の176Hf/177Hf比のCHUR (Chondritic Uniform Reservoir) からのずれ値;Matteini et al., 2010]はεHf (t)= -6 – +18,北中国地塊の500–100 Ma,2000–1600 Maおよび約2500 MaのジルコンのεHf (t) 値は,それぞれ-24 – -2,-10 – +4,および-2 – +10と報告されている(Yang et al., 2006).
U–Pb年代-εHf (t) 値図上で,本研究の砕屑性ジルコンの分析結果と火成ジルコンの分布範囲(Yang et al., 2006)を比較して(付図),後背地を推定した.春日野ユニット(Ks 1)は,砕屑性ジルコンがCAOB東部の範囲内にほぼプロットされるため,CAOBを後背地とする蓋然性が高い.一方,今庄層(Im 1)は,257–191 Maと185–180 Maの砕屑性ジルコンが,それぞれCAOBおよび北中国の範囲内にプロットされるため,CAOBおよび北中国地塊の境界付近を後背地とする蓋然性が高い.また,大西層(Im 2)および左門岳層(Im 3)は,砕屑性ジルコンが北中国地塊の範囲内にほぼプロットされるため,北中国地塊を後背地とする蓋然性が高い.以上より,美濃帯付加体を形成した収束境界は,Sinemurian–Aalenian期にCAOBの東部に位置し,Bajocian–Bathonian期に北中国地塊の東部に位置したと考えられる.従って,美濃帯が前期~中期ジュラ紀の大陸縁に平行な右横ずれ運動(大藤ほか,1989)でCAOBから北中国地塊まで相対的に南下したと解釈した.
引用文献
Fujisaki et al., 2014: J. Asian Earth Sci., 88, 62–73/服部・吉村, 1982: 大阪微化石研究会誌特別号, 5, 103–116/小林, 1998: 信州大学理学部紀要, 33,27–63/Matteini et al., 2010: Ann. Braz. Acad. Sci., 82, 479–491/大藤ほか, 1989: 構造地質, 34, 75–84/Tokiwa et al., 2019: J. Asian Earth Sci., 184, 103970/脇田, 1982: 大阪微化石研究会誌特別号, 5, 153–171/Wakita, 1988: Bull. Geol. Surv. Japan, 39, 675–757/Xu et al., 2019: Earth Sci., 44, 1620–1646 (in Chinese) /山田ほか, 1985: 高山地域の地質. 地質調査所, 111p/Yang et al., 2006: Earth Planet. Sci. Lett., 246, 336–352.