日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-GL 地質学

[S-GL23] 日本列島および東アジアの地質と構造発達史

2021年6月5日(土) 17:15 〜 18:30 Ch.15

コンビーナ:大坪 誠(産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門)、細井 淳(産業技術総合研究所地質調査総合センター地質情報研究部門)

17:15 〜 18:30

[SGL23-P05] 長野県大鹿村中央構造線安康露頭に認められるテクトニックスライス

*伊左治 良輔1、高木 秀雄1 (1.早稲田大学)


キーワード:中央構造線、断層ガウジ、安康露頭、テクトニックスライス

長野県大鹿村の青木川沿いに露出する安康露頭における物質境界としての中央構造線 (MTL) は,その周辺の深部から浅部にわたる重複変形と変質が非常に進んでいる.そのため,MTL の位置については曖昧さがあったが,河本ほか (2013) により行われた化学分析と薄片観察によって決められている.その MTL の黒色ガウジを G1 とすると,その領家帯側にも 3 条の黒色ガウジが存在し,演者らは西に向かって順番に G2 (厚さ1.4 m),G3 (厚さ1.6 m),および G4 (高木ほか,2015 の安康西露頭:厚さ 5 m) と呼んでいる.
 本報告では,長野県大鹿村の安康露頭における帰属不明の 2 本の黒色断層ガウジ (G2, G3) において,6 年前の調査でランダムに 5 試料ずつ採取していた小岩片を行い,樹脂で固定してその薄片の偏光顕微鏡観察を行うことで,ガウジの帰属を求めた.原岩の帰属の決定方法として,斜長石の破片内の組織が三波川帯由来のものはしばしばヘリサイト構造を有する曹長石であるのに対し,領家帯由来のものは Ca を少量固溶するために変質が進んでいることを利用した.
 偏光顕微鏡観察の結果,G3 の黒色断層ガウジにおいては,5 試料とも包有物を含む曹長石が認められ,その帰属は三波川帯であると決定された.一方で,G2 の黒色断層ガウジにおいては,3 試料において包有物を含む曹長石が認められ,帰属は三波川帯であると決定されたが,2 試料に関しては,破砕,変質が特に著しく,曹長石の存在は認められなかったため,帰属は不明であった.また,G2,G3 間に存在し,領家帯に帰属すると考えられているカタクレーサイトは斜長石のポーフィロクラストの変質が著しく,三波川帯由来のものと明瞭な違いが認められた.今回の観察結果から,G2, G3 の黒色ガウジはほぼ三波川帯に帰属することが明らかとなった.安康露頭の MTL から北西 40 mに位置する G4 (安康西露頭)では,三波川帯由来の岩石の混入が認定されている (Ishikawa et al., 2014) ほか,MTLから約24 m北西に位置する領家帯内の安康沢露頭にも,G4 の延長部付近に三波川帯由来の岩石が混入するガウジが認定される.
 以上より,安康露頭では,MTL 付近の領家帯内部に三波川帯の岩石が少なくとも 3 箇所挟まれていることが明らかになった.安康露頭では,地質境界としての MTL と,第四紀に活動した履歴を持つ G4 (高木ほか,2015) などの新しい活動ステージの MTL が異なる走向 (地質境界としての MTL の走向は N25˚E,新しい活動ステージの MTL は N10˚E程度)で存在していること,カタクレーサイトややや固結した断層ガウジは左ずれを示す一方,最も若い活動を示す G4 ガウジは右ずれを示すことなどから,MTL が屈曲し,繰り返し横ずれ活動することにより,テクトニックスライスとして領家帯内に数か所三波川帯由来の岩石が挟み込まれたものと考えられる.

 文献
 Ishikawa, T., Hirono, T., Matsuta, N., Kawamoto, K., Fujimoto, K., Kameda, J., Nishio, Y., Maekawa, Y., Honda, G, 2014, Planets and Space, 66: 36.
 河本和朗・石川剛志・松多範子・廣野哲朗,2013,伊那谷自然史論集,14,1-17.
 高木秀雄・杉山幸太郎・河本和朗・北澤夏樹, 2015, 日本地質学会第 122 年学術大会講演要旨, R14-O12.