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[SGL23-P06] 韓国の錦山地域・沃川帯の古原生代・花崗片麻岩と雪川地域・嶺南地塊の古原生代・優白質花崗岩および珪岩のジルコン U–Pb 年代
キーワード:韓国、沃川帯、嶺南地塊、ジルコン、花崗岩、珪岩
韓国の錦山地域・沃川帯にはジュラ紀の大宝花崗岩が広く分布し、その中に先カンブリア時代の古期岩体が小規模に点在する(Hong and Choi, 1978)。古期岩体は主に黒雲母片麻岩と花崗片麻岩から成る。花崗片麻岩 Gn からは、LA-ICP-MS を用いたジルコン U–Pb 年代の分析から、約 2.5 Ga のマグマ固結年代と約 1.89 Ga および 174 ± 74 Ma の変成年代が得られている(岩水ほか,2021,印刷中)。この花崗片麻岩 Gn は、Lee et al. (2016) が京畿地塊南部で報告した花崗片麻岩(約 2.5 Ga のマグマ固結年代を持つ)と並んで、韓国で 2 番目に古い岩石の内の 1 つである。
岩水ほか(2021,印刷中)が報告した花崗片麻岩 Gn のジルコン U–Pb 年代は、大部分がジルコンのコアまたはマントルの分析結果に基づいている。コアは、様々な内部構造を持ち、2.5–1.9 Ga の幅広い年代を示す。また古い年代ほど Th/U 比が高く、ディスコーダンスが小さい傾向が見られる。よってマグマ固結年代は約 2.5 Ga だと判断される。1.9–1.8 Ga のマントルは、亜円形で不明瞭な波動累帯構造を示し、Th/U 比は全て 0.04 以下と低い値を示す。Tera-Wasserburg コンコーディア図において、1.9–1.8 Ga のマントルによってディスコーディア直線が定義される。上方交点は約 1.89 Ga、下方交点は 174 ± 74 Ma であり、それぞれ古原生代とジュラ紀の火成活動に伴う変成年代を示す。上方交点は、京畿地塊と嶺南地塊の変成年代(Lee and Cho, 2012)と整合的である。下方交点は、Gn の周囲にジュラ紀・大宝花崗岩が広く貫入している産状と整合的である。ジュラ紀の変成作用により、Gn の測定データは全てディスコーダントになったと考えられる。錦山地域における南韓地構線の詳細な位置が不明なため、花崗片麻岩 Gn が京畿地塊と嶺南地塊のどちらに由来するのかは不明である。
上記に加え、今回新たに、雪川地域・嶺南地塊の古原生代・優白質花崗岩および珪岩の分析結果を報告する。雪川地域は、錦山地域より東に 25 km ほど離れた場所に位置する。
優白質花崗岩は黒雲母を含まないため、優白質である。優白質花崗岩は約 73 wt% の SiO2 を含む。優白質花崗岩はmetaluminous の全岩化学組成を示すが、これは、 peraluminous の全岩化学組成を示す茂朱地域・嶺南地塊の優白質花崗片麻岩(Lee et al., 2019)や蔚珍地域・嶺南地塊の優白質花崗岩(Lee et al., 2010)とは異なる。優白質花崗岩のジルコンは、コア・マントルの二層構造を示す。コア(5 点)は、均質または縞状の内部構造を持ち、約 2.5–2.4 Ga のコンコーダントな U–Pb 年代を持ち、Th/U 比が全て 0.1 以上と高い。マントル(12 点)は、波動累帯構造または縞状構造を示し、約 2 Ga 付近にコンコーダントな U–Pb 年代が集中し、Th/U 比が全て 0.1 以上と高い。 約 2 Ga に集中するコンコーダントなマントルの年代の重み付き平均は 1997 ± 10 Ma であり、これがマグマ固結年代であると考えられる。この年代は、茂朱地域の優白質花崗片麻岩の 1985 ± 10 Ma のマグマ固結年代(Lee et al., 2019)と近い。2.5–2.4 Ga のコアは捕獲結晶であると考えられる。変成年代は得られていない。
珪岩は粗粒な石英から主に構成され、白雲母をわずかに含む。全岩化学組成における SiO2 の割合は約 98 wt% である。珪岩の砕屑性ジルコンは主に波動累帯構造を示す。63 点のジルコン U–Pb 年代は、3.5–1.9 Ga の幅広い年代を示す。大部分のデータはコンコーダントであり、ディスコーダンスは最大でも約 7.7 % と小さい。最古の年代は 3505 ± 28 Ma である。最若年代の 1902 ± 31 Ma 以降に続成作用を被って珪岩が形成されたと考えられる。珪岩の砕屑性ジルコンの年代分布は約 2.5 Ga に最大の極大値を持ち、これは、嶺南地塊の古原生界・栗里層群の砕屑性ジルコン年代(Lee et al., 2011)や太白山帯(基盤は嶺南地塊)のカンブリア系・壯山層の砕屑性ジルコン年代(Kim et al., 2019)と同様の特徴である。
以上より、錦山地域・沃川帯では約 2.5 Ga の花崗片麻岩が産し(岩水ほか,2021,印刷中)、そこから東に 25 km ほど離れた雪川地域・嶺南地塊では約 2.5 Ga のジルコンが捕獲結晶や砕屑物として多産する(本研究)。よって、Gn が南韓地構線より南東側に位置する場合、錦山–雪川地域における約 2.5 Ga の広域火成活動が示唆される。仮に Gn が南韓地構線より北西側に位置する場合、Gn は京畿地塊南部の同年代の花崗片麻岩(Lee et al., 2016)と対比可能であり、京畿地塊南部における約 2.5 Ga の広域火成活動が示唆される。
【引用】
Hong, S.-H. and Choi, W.-C. (1978) Geumsan Sheet. Korea Research Inst. of Geoscience and Mineral Resources.
岩水健一郎ほか (2021) 地質学雑誌,127,印刷中,doi: 10.5575/geosoc.2020.0057
Kim, H.-S. et al. (2019) Int. J. Earth Sci., 108, 1509–1526.
Lee, B.-C. et al. (2016) Precambrian Res., 283, 169–189.
Lee, B.-C. et al. (2019) Gondwana Res., 72, 34–53.
Lee, S.-G. et al. (2010) Chem. Geol., 276, 360–373.
Lee, S.-R. and Cho, K. (2012) J. Petrol. Soc. Korea, 21, 89–112.
Lee, Y.-I. et al. (2011) J. Geol. Soc. Korea, 47, 81–87.
岩水ほか(2021,印刷中)が報告した花崗片麻岩 Gn のジルコン U–Pb 年代は、大部分がジルコンのコアまたはマントルの分析結果に基づいている。コアは、様々な内部構造を持ち、2.5–1.9 Ga の幅広い年代を示す。また古い年代ほど Th/U 比が高く、ディスコーダンスが小さい傾向が見られる。よってマグマ固結年代は約 2.5 Ga だと判断される。1.9–1.8 Ga のマントルは、亜円形で不明瞭な波動累帯構造を示し、Th/U 比は全て 0.04 以下と低い値を示す。Tera-Wasserburg コンコーディア図において、1.9–1.8 Ga のマントルによってディスコーディア直線が定義される。上方交点は約 1.89 Ga、下方交点は 174 ± 74 Ma であり、それぞれ古原生代とジュラ紀の火成活動に伴う変成年代を示す。上方交点は、京畿地塊と嶺南地塊の変成年代(Lee and Cho, 2012)と整合的である。下方交点は、Gn の周囲にジュラ紀・大宝花崗岩が広く貫入している産状と整合的である。ジュラ紀の変成作用により、Gn の測定データは全てディスコーダントになったと考えられる。錦山地域における南韓地構線の詳細な位置が不明なため、花崗片麻岩 Gn が京畿地塊と嶺南地塊のどちらに由来するのかは不明である。
上記に加え、今回新たに、雪川地域・嶺南地塊の古原生代・優白質花崗岩および珪岩の分析結果を報告する。雪川地域は、錦山地域より東に 25 km ほど離れた場所に位置する。
優白質花崗岩は黒雲母を含まないため、優白質である。優白質花崗岩は約 73 wt% の SiO2 を含む。優白質花崗岩はmetaluminous の全岩化学組成を示すが、これは、 peraluminous の全岩化学組成を示す茂朱地域・嶺南地塊の優白質花崗片麻岩(Lee et al., 2019)や蔚珍地域・嶺南地塊の優白質花崗岩(Lee et al., 2010)とは異なる。優白質花崗岩のジルコンは、コア・マントルの二層構造を示す。コア(5 点)は、均質または縞状の内部構造を持ち、約 2.5–2.4 Ga のコンコーダントな U–Pb 年代を持ち、Th/U 比が全て 0.1 以上と高い。マントル(12 点)は、波動累帯構造または縞状構造を示し、約 2 Ga 付近にコンコーダントな U–Pb 年代が集中し、Th/U 比が全て 0.1 以上と高い。 約 2 Ga に集中するコンコーダントなマントルの年代の重み付き平均は 1997 ± 10 Ma であり、これがマグマ固結年代であると考えられる。この年代は、茂朱地域の優白質花崗片麻岩の 1985 ± 10 Ma のマグマ固結年代(Lee et al., 2019)と近い。2.5–2.4 Ga のコアは捕獲結晶であると考えられる。変成年代は得られていない。
珪岩は粗粒な石英から主に構成され、白雲母をわずかに含む。全岩化学組成における SiO2 の割合は約 98 wt% である。珪岩の砕屑性ジルコンは主に波動累帯構造を示す。63 点のジルコン U–Pb 年代は、3.5–1.9 Ga の幅広い年代を示す。大部分のデータはコンコーダントであり、ディスコーダンスは最大でも約 7.7 % と小さい。最古の年代は 3505 ± 28 Ma である。最若年代の 1902 ± 31 Ma 以降に続成作用を被って珪岩が形成されたと考えられる。珪岩の砕屑性ジルコンの年代分布は約 2.5 Ga に最大の極大値を持ち、これは、嶺南地塊の古原生界・栗里層群の砕屑性ジルコン年代(Lee et al., 2011)や太白山帯(基盤は嶺南地塊)のカンブリア系・壯山層の砕屑性ジルコン年代(Kim et al., 2019)と同様の特徴である。
以上より、錦山地域・沃川帯では約 2.5 Ga の花崗片麻岩が産し(岩水ほか,2021,印刷中)、そこから東に 25 km ほど離れた雪川地域・嶺南地塊では約 2.5 Ga のジルコンが捕獲結晶や砕屑物として多産する(本研究)。よって、Gn が南韓地構線より南東側に位置する場合、錦山–雪川地域における約 2.5 Ga の広域火成活動が示唆される。仮に Gn が南韓地構線より北西側に位置する場合、Gn は京畿地塊南部の同年代の花崗片麻岩(Lee et al., 2016)と対比可能であり、京畿地塊南部における約 2.5 Ga の広域火成活動が示唆される。
【引用】
Hong, S.-H. and Choi, W.-C. (1978) Geumsan Sheet. Korea Research Inst. of Geoscience and Mineral Resources.
岩水健一郎ほか (2021) 地質学雑誌,127,印刷中,doi: 10.5575/geosoc.2020.0057
Kim, H.-S. et al. (2019) Int. J. Earth Sci., 108, 1509–1526.
Lee, B.-C. et al. (2016) Precambrian Res., 283, 169–189.
Lee, B.-C. et al. (2019) Gondwana Res., 72, 34–53.
Lee, S.-G. et al. (2010) Chem. Geol., 276, 360–373.
Lee, S.-R. and Cho, K. (2012) J. Petrol. Soc. Korea, 21, 89–112.
Lee, Y.-I. et al. (2011) J. Geol. Soc. Korea, 47, 81–87.