17:15 〜 18:30
[SIT21-P04] ナノ電子プローブによる鉱物の局所歪み計測
★招待講演
キーワード:電子顕微鏡、歪解析
鉱物の界面・表面や微小結晶などには一般に歪みが生じ、鉱物の相転移やそれに伴う組織形成にも影響すると考えられている。また、天然の鉱物中に局所的に残留した歪みが地球惑星内部の流動やテクトニクス、天体衝突の履歴などを理解するための手掛かりにもなりうる。鉱物中に生じた歪みを決定するためには、既にいくつかの計測法が存在し、例えばX線回折法(XRD)や顕微レーザーラマン分光法などが用いられている[e.g., 1,2]。ただし、上記のような極めて局所に生じた(残留した)歪みを詳細に分析するにはさらなる空間分解能が必要である。また、様々な地球惑星環境・活動の理解を目指して極限環境を再現しようとする実験においては、得られる試料はごく微量であることが多い。こうした先端的な実験で得られる微小試料から必要な情報のみを選択的に引き出すためにも、高空間分解能での局所歪み計測技術はますます重要性を増していくと予想される。
一方で、物性に影響を与える結晶の歪みは、材料の機能を付与するためにしばしば意図的に活用される。半導体デバイス開発においては歪みは電気的性質を制御するために用いられる。デバイスのサイズは年々小型化が進むこともあり、こうした材料に対しては結晶歪みの高空間分解能評価は近年でも盛んに進められている[e.g., 3]。特に、透過型電子顕微鏡中でナノ電子プローブを走査することにより電子回折パターンの空間変化を解析する方法が確立しつつある[4]。この方法は、高倍像を捉えたうえで局所領域の歪みを精密に計測できる可能性があるため、鉱物試料にも高い有効性が期待される。ただし、解析対象がほぼ限定できるデバイス試料に対し、地球科学的試料は相、形状、結晶方位などが多種多様である。電子回折図形は試料の厚みや方位などあらゆる要因に対し敏感な変化を示すため適切な実験・解析手順を確立しておくことが重要である。
本研究では、TEM装置とCCDカメラのスクリプト制御によりテスト鉱物試料から回折マップデータを取得・解析し、鉱物研究・実験地球科学研究における有用性を検討した。照射電子線は、実効ビーム径約10 nm程度に抑えつつ平行性の高い条件を調整した。これにより回折パターンはスポット状となり逆格子ベクトルの精密決定が容易となった。また、収束角の大きな条件に比べ電流量を抑えられるため試料ダメージの影響が無視できるようになり、実験によるダメージや汚れは少なくともTEM像としては全く確認されなかった。得られた電子回折マップデータセットからは、任意の形状の仮想対物しぼりによる回折コントラスト像および歪みマップを作成した。発表ではいくつかの解析例を報告する予定である。
【引用文献】
[1] 瀬戸 (2012) 高圧力の科学と技術 22, 144–152.
[2] Enami, M., Nishiyama, T. and Mouri, T. (2007) Am. Mineral. 92, 1303-1315.
[3] Cooper, D., Denneulin, T., Bernier, N., Béché, A. and Rouvière, J. L. (2016) Micron, 80, 145-165.
[4] Ophus, C. (2019) Microsc. Microanal. 25, 563-582.
一方で、物性に影響を与える結晶の歪みは、材料の機能を付与するためにしばしば意図的に活用される。半導体デバイス開発においては歪みは電気的性質を制御するために用いられる。デバイスのサイズは年々小型化が進むこともあり、こうした材料に対しては結晶歪みの高空間分解能評価は近年でも盛んに進められている[e.g., 3]。特に、透過型電子顕微鏡中でナノ電子プローブを走査することにより電子回折パターンの空間変化を解析する方法が確立しつつある[4]。この方法は、高倍像を捉えたうえで局所領域の歪みを精密に計測できる可能性があるため、鉱物試料にも高い有効性が期待される。ただし、解析対象がほぼ限定できるデバイス試料に対し、地球科学的試料は相、形状、結晶方位などが多種多様である。電子回折図形は試料の厚みや方位などあらゆる要因に対し敏感な変化を示すため適切な実験・解析手順を確立しておくことが重要である。
本研究では、TEM装置とCCDカメラのスクリプト制御によりテスト鉱物試料から回折マップデータを取得・解析し、鉱物研究・実験地球科学研究における有用性を検討した。照射電子線は、実効ビーム径約10 nm程度に抑えつつ平行性の高い条件を調整した。これにより回折パターンはスポット状となり逆格子ベクトルの精密決定が容易となった。また、収束角の大きな条件に比べ電流量を抑えられるため試料ダメージの影響が無視できるようになり、実験によるダメージや汚れは少なくともTEM像としては全く確認されなかった。得られた電子回折マップデータセットからは、任意の形状の仮想対物しぼりによる回折コントラスト像および歪みマップを作成した。発表ではいくつかの解析例を報告する予定である。
【引用文献】
[1] 瀬戸 (2012) 高圧力の科学と技術 22, 144–152.
[2] Enami, M., Nishiyama, T. and Mouri, T. (2007) Am. Mineral. 92, 1303-1315.
[3] Cooper, D., Denneulin, T., Bernier, N., Béché, A. and Rouvière, J. L. (2016) Micron, 80, 145-165.
[4] Ophus, C. (2019) Microsc. Microanal. 25, 563-582.