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[SMP25-01] 三波川コンプレックスの長期間にわたる沈み込み変成作用と前弧域深部での累積,南アルプス大河原地域の例
キーワード:三波川、沈み込み帯、変成作用
南アルプス大河原地域には,南北走向の中央構造線と仏像構造線に挟まれ,三波川及び秩父コンプレックスが分布する.同地域には,複数の南北走向高角断層が存在し,ブロック化が著しい.中央構造線に近い領域を除くと,各ブロック内部では,三波川コンプレックス主片理及び岩相境界は,ほぼ水平である.大河原地域は,高低差2000 m近い山岳地帯であり,低角度な構造を有する三波川コンプレックスの内部構造を調べるのに適している.我々は詳細な地質調査を実施し,岩相によってユニット区分を行った.三波川コンプレックスは,主片理を基準として見かけ下位より,黒川沢,釜沢,御荷鉾,寺沢の各ユニットに区分できる.三波川コンプレックスの見かけ上位には,秩父コンプレックス三峰川ユニットが累重する.三峰川ユニットも三波川変成作用を被っている.黒川沢ユニットは,泥質片岩を主体とする.釜沢ユニットも泥質片岩を主体とし,少量の大理石,苦鉄質片岩を伴う.御荷鉾ユニットは,超苦鉄質ー苦鉄質変成岩を主体とする.寺沢ユニットは,主に泥質千枚岩と変成チャートから構成される.三峰川ユニットは泥質混在岩,チャート,玄武岩からなる.
黒川沢と御荷鉾ユニット,及び釜沢と寺沢ユニットの境界は,泥質片岩の主片理と平行で,かつ炭質物温度計で求めた325 °Cと315 °Cの等温面とそれぞれほぼ一致する.これらの面を基準として,岩相分布,主片理の走向傾斜,炭質物温度計で求めた温度を基に,QGISのプラグインを用いて多数の地質断面図を作成することで三波川コンプレックスの内部構造を復元した.また,変成苦鉄質岩の鉱物共生及び鉱物化学組成,苦鉄質岩の全岩化学組成を基にギブス自由エネルギー最小化法によるシュードセクション(Perple_X)により推定した変成圧力,各ユニットの変成砕屑岩から得られた砕屑性ジルコンU-Pb年代からMCMCによる最尤推定と情報量規準を用いて最若年代成分を求めた.以下,層厚は主片理に垂直に測った見かけの層厚である.各ユニットの層厚,変成温度,変成圧力,最若年代成分は,見かけ下位から上位へ,黒川沢ユニット:1400 m, 325-400°C, 6-8 kbar, 72.3 ± 0.7 Ma (下部 ), 96.3 ± 2.8 Ma (中部), 104.0 ± 1.1 Ma (上部);釜沢ユニット:1200 m, 285-325°C, 5.0-6.5 kbar, 105.7 ± 1.2 Ma と109.8 ± 1.9 Ma;御荷鉾ユニット:285-325°C, 5.0-6.5 kbar;寺沢ユニット:800 m, 135.8 ± 1.8 Ma;三峰川ユニット:1000 m, 280-305°C, 4.0-5.0 kbar, 171.3 ± 2.2 Maとなる.
推定された温度構造と地質構造から,主片理に垂直な方向の温度勾配を求めると,黒川沢で55°C/km, 釜沢で40°C/ km, 三峰川で33°C/kmとなる.このような大きな温度勾配は冷たいスラブ上面の沈み込みチャネル内で達成可能である.その場合下位低温となり,大河原地域で観測される温度の極性と逆になる.従って,沈み込みチャネル内の温度構造がそのまま保存されたものではない.三峰川ユニットも含めた三波川コンプレックスの変成圧力差は4 kbarに達する.岩石密度を2.9 g/cm3 とした場合,14 kmの深度差に相当する.各ユニットの片理に垂直な厚さを積算しても5 kmに満たず,圧力差を説明することは出来ない.三波川コンプレックスの変成岩には,御荷鉾ユニットを除き,強い主片理が発達しており,上昇時に主片理の形成を伴いながら地殻の薄化が進行したと考えられる.
三波川コンプレックス各ユニット及び秩父コンプレックス三峰川ユニットで得られた温度圧力を温度圧力図上にプロットすると,黒川沢ユニットから三峰川ユニット下部が直線上に配列する.この配列は,剪断発熱を組み込んだ沈み込み帯モデル(例えば,Ishii and Wallis, 2020)で予想される温度圧力構造とほぼ一致する.大河原地域の三波川コンプレックスのフェンジャイトK-Ar年代は,105 Ma (渡辺ほか,1982)から65 Ma(柴田・高木,1988)であり,変成作用は少なくとも4000万年継続したこと推定される.即ち,少なくとも4000万年に及ぶ長期間定常的な沈み込み帯温度構造が保持され,連続して,玄武岩,石灰岩,チャート,海溝充填堆積物が沈み込み,沈み込みチャネル内で逐次,三波川変成を被り,さらに薄化を伴いながら上昇し,前弧域深部に三波川コンプレックスが累積する描像が描ける.
黒川沢と御荷鉾ユニット,及び釜沢と寺沢ユニットの境界は,泥質片岩の主片理と平行で,かつ炭質物温度計で求めた325 °Cと315 °Cの等温面とそれぞれほぼ一致する.これらの面を基準として,岩相分布,主片理の走向傾斜,炭質物温度計で求めた温度を基に,QGISのプラグインを用いて多数の地質断面図を作成することで三波川コンプレックスの内部構造を復元した.また,変成苦鉄質岩の鉱物共生及び鉱物化学組成,苦鉄質岩の全岩化学組成を基にギブス自由エネルギー最小化法によるシュードセクション(Perple_X)により推定した変成圧力,各ユニットの変成砕屑岩から得られた砕屑性ジルコンU-Pb年代からMCMCによる最尤推定と情報量規準を用いて最若年代成分を求めた.以下,層厚は主片理に垂直に測った見かけの層厚である.各ユニットの層厚,変成温度,変成圧力,最若年代成分は,見かけ下位から上位へ,黒川沢ユニット:1400 m, 325-400°C, 6-8 kbar, 72.3 ± 0.7 Ma (下部 ), 96.3 ± 2.8 Ma (中部), 104.0 ± 1.1 Ma (上部);釜沢ユニット:1200 m, 285-325°C, 5.0-6.5 kbar, 105.7 ± 1.2 Ma と109.8 ± 1.9 Ma;御荷鉾ユニット:285-325°C, 5.0-6.5 kbar;寺沢ユニット:800 m, 135.8 ± 1.8 Ma;三峰川ユニット:1000 m, 280-305°C, 4.0-5.0 kbar, 171.3 ± 2.2 Maとなる.
推定された温度構造と地質構造から,主片理に垂直な方向の温度勾配を求めると,黒川沢で55°C/km, 釜沢で40°C/ km, 三峰川で33°C/kmとなる.このような大きな温度勾配は冷たいスラブ上面の沈み込みチャネル内で達成可能である.その場合下位低温となり,大河原地域で観測される温度の極性と逆になる.従って,沈み込みチャネル内の温度構造がそのまま保存されたものではない.三峰川ユニットも含めた三波川コンプレックスの変成圧力差は4 kbarに達する.岩石密度を2.9 g/cm3 とした場合,14 kmの深度差に相当する.各ユニットの片理に垂直な厚さを積算しても5 kmに満たず,圧力差を説明することは出来ない.三波川コンプレックスの変成岩には,御荷鉾ユニットを除き,強い主片理が発達しており,上昇時に主片理の形成を伴いながら地殻の薄化が進行したと考えられる.
三波川コンプレックス各ユニット及び秩父コンプレックス三峰川ユニットで得られた温度圧力を温度圧力図上にプロットすると,黒川沢ユニットから三峰川ユニット下部が直線上に配列する.この配列は,剪断発熱を組み込んだ沈み込み帯モデル(例えば,Ishii and Wallis, 2020)で予想される温度圧力構造とほぼ一致する.大河原地域の三波川コンプレックスのフェンジャイトK-Ar年代は,105 Ma (渡辺ほか,1982)から65 Ma(柴田・高木,1988)であり,変成作用は少なくとも4000万年継続したこと推定される.即ち,少なくとも4000万年に及ぶ長期間定常的な沈み込み帯温度構造が保持され,連続して,玄武岩,石灰岩,チャート,海溝充填堆積物が沈み込み,沈み込みチャネル内で逐次,三波川変成を被り,さらに薄化を伴いながら上昇し,前弧域深部に三波川コンプレックスが累積する描像が描ける.