日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-MP 岩石学・鉱物学

[S-MP25] 変形岩・変成岩とテクトニクス

2021年6月6日(日) 10:45 〜 12:15 Ch.20 (Zoom会場20)

コンビーナ:針金 由美子(産業技術総合研究所)、中村 佳博(国立研究開発法人産業技術総合研究所 地質調査総合センター)、座長:針金 由美子(産業技術総合研究所)、中村 佳博(国立研究開発法人産業技術総合研究所 地質調査総合センター)

11:00 〜 11:15

[SMP25-08] フィリピン海四国海盆マドメガムリオンに発達した
延性剪断帯のレオロジー特性

*二村 康平1、道林 克禎2、針金 由美子3、小原 泰彦4,5 (1.名古屋大学理学部地球惑星科学科、2.名古屋大学大学院環境学研究科、3.産業技術総合研究所地質情報研究部門、4.海上保安庁海洋情報部、5.海洋研究開発機構)


キーワード:海洋コアコンプレックス、延性剪断帯、背弧海盆、海洋地殻下部、斑れい岩、流動則

海洋コアコンプレックス(OCC)は,低速拡大海嶺を中心とした海底拡大系において,深部地殻/上部マントル物質が拡大軸近傍に露出した地形的高まりの構造である。OCCは,デタッチメント断層によって数100万年かけて海底に露出したと解釈されている。しかし,その実態をレオロジー的な観点から検証した研究はほとんどない。本研究では,フィリピン海の四国海盆に存在するOCCの1つであるマドメガムリオンについて,岩石の変形微細構造と結晶方位ファブリックからデタッチメント断層の運動像を考察した。
マドメガムリオンから採取された岩石10個のうち,変形斑れい岩3試料(R10,R19a,R20)の斜長石と角閃石について,偏光顕微鏡による組織観察,SEM–EBSDによる結晶方位解析およびEPMAによる主要元素組成分析を行った。そして,組織観察と結晶方位解析の結果をもとにして,変形機構を推定した。さらに,主要元素組成分析から得られた化学組成を角閃石-斜長石地質温度計に適用することによって,変形温度を推定した。
斜長石と2次鉱物の角閃石はどちらも結晶内塑性変形の証拠を示し,動的再結晶作用によって細粒化していた。斜長石と角閃石の結晶方位は,それぞれ(001)[100]パターンと(100)[001]パターンの強い集中を示した。化学組成は,斜長石がAn41–An76,角閃石がHornblende–Pargasiteの範囲にあり,多様であった。ただし,得られた平衡温度は3試料でほぼ同じ温度範囲(870–690 °C)だった。また,斑れい岩に貫入した珪長質脈からは690–610 °Cの平衡温度を得た。組織観察と結晶方位解析から,斜長石と角閃石の変形機構は転位クリープであったと推定される。斜長石と角閃石の結晶すべり面が同じであることから,平衡温度を変形時の温度範囲と仮定すると,分析した斑れい岩は,870–690°C(グラニュライト相)で塑性変形したと考えられる。
延性剪断帯の特徴を明らかにするために,転位クリープで変形した斜長石の動的再結晶粒径,平衡温度および斜長石の流動則から変形機構図を作成した。その結果,マドメガムリオンにおける延性剪断帯の剪断歪速度が10−9 s−1以上,厚さは約20 cm以下であることが推定された。本研究で推定した剪断歪速度と剪断帯の厚さの値は,延性剪断帯内で剪断歪速度の速い領域が局所的に存在することを意味する。すなわち,粒径減少や流体の侵入による歪の局所化を示唆する。本研究で得られた変形温度と剪断歪速度を,パレスベラ海盆に存在する世界最大のOCCであるゴジラメガムリオンのデータと比較したところ共通性が見られた。このことはマドメガムリオンとゴジラメガムリオンの形成過程に共通性があることを示唆する。