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[SMP25-11] ザクロ石–アルミノ珪酸塩–スピネル–斜長石地質圧力計
キーワード:スピネル、地質圧力計、アルミノ珪酸塩鉱物、スピネル+斜長石シンプレクタイト
Spinel group のなかのspinel series(以下「スピネル」と書く)、すなわち (Mg, Fe, Zn, Mn) Al2O4 で表される固溶体鉱物は、泥質変成岩にみられる主要な構成鉱物のひとつである。スピネルは主に珪線石領域に産するが、藍晶石領域・紅柱石領域にも産する。泥質変成岩におけるスピネル形成反応の研究例は数多くある。そのうちのいくつかは鉱物増減反応(地質圧力計)として提案されており(Harris, 1981; Perchuk et al., 1989; Nichols et al., 1992など)、その代表例として下記のような反応がある。
(1) Grt + 2Als = Spl + Crd
(2) Crd = 2Spl + 5Qz
(3) Grt + 2Als = 3Spl + 5Qz
反応(1)では、生成物としてスピネル+菫青石を生ずる。したがってスピネルと菫青石が直接接する組織が形成される。このような産状は日高変成帯や領家変成帯などでよく知られている。一方、反応(2)と(3)では、反応生成物としてスピネル+石英を生じる。つまりスピネルと石英が直接接する産状になる事を意味している。これは超高温変成作用の指標鉱物組合せの一つである(例えば、Waters, 1991; Harley, 1998; Ganguly et al., 2017)。したがって鉱物増減反応(2)(3)の地質圧力計は、超高温変成岩に使用できる。一般に、ほぼ全ての泥質変成岩には石英が含まれるが、角閃岩相~グラニュライト相(UHTより低い条件)では、スピネルと石英は直接接して産することは無い。したがって、反応(2)(3)に基づく地質圧力計は、そのような変成岩に用いてはならないはずである。
一方、スピネル+斜長石からなるシンプレクタイトは、多数の地域から報告されている。本発表では、南極のリュッツォホルム岩体・日高変成帯・羽越地域・領家変成帯の例を紹介する。例えば、リュッツォホルム岩体の天文台岩は、角閃岩相~グラニュライト相漸移部の境界に位置する露岩である(Shiraishi et al., 1984)。ここでは、スピネルはザクロ石珪線石片麻岩中に産する。この岩石は主にザクロ石・スピネル・黒雲母・珪線石・斜長石・カリ長石・石英・イルメナイト・ルチルから構成されている。暗緑色のスピネル(ヘルシナイト)が、スピネル+斜長石のシンプレクタイトを形成して産する。このスピネルは石英と直接接することは無く、石英との間は斜長石によって隔てられている。また、この組織の近傍のザクロ石は斜長石に囲まれて産する。この産状は、この組織が「Grt + Als = Spl + Pl」という反応で形成されたことを示している。そしてこれは、
CFAS系では、5Grs + Alm + 12Als = 3Hc + 15An
CMAS系では、5Grs + Prp + 12Als = 3Spl + 15An
という鉱物増減反応として書く事ができる。そしてこれらの反応について、Holland and Powell (2011)の熱力学データを利用すると、
P [CFAS, sillimanite] = (-155761 + 587.4 T + RT lnKFe) / 29.378
P [CMAS, sillimanite] = (-132541 + 564.2 T + RT lnKMg) / 29.299
という地質圧力計の式が成り立つ。なお式中の圧力(P)の単位はバール, 温度(T)はケルビンで、平衡定数Keq は、
KFe = (aGrs5 aAlm) / (aHc3 aAn15)
KMg = (aGrs5 aPrp) / (aSpl3 aAn15) である。
当日の発表では藍晶石・紅柱石領域の式も提案する。これらの反応には、石英・コランダム・直方輝石・菫青石は関与していない。したがってこの「ザクロ石–アルミノ珪酸塩–スピネル–斜長石地質圧力計」は、紅柱石・藍晶石・珪線石の広い温度圧力領域内で、スピネルを含む泥質変成岩に対して広く用いることができる。
文献
Ganguly et al. (2017) Jour. Petrol., 58, 1941–1974.
Harley (1998) Geol. Soc. London Spec. Publ., 138, 81-107.
Harris (1981) Contrib. Mineral. Petrol., 76, 229-233.
Holland & Powell (2011) Jour. Metamorphic Geol., 29, 333-383.
Nichols et al. (1992) Contrib. Mineral. Petrol., 111, 362- 377.
Perchuk et al. (1989) Jour. Metamorphic Geol., 7, 599-617.
Shiraishi et al. (1984) Mem. NIPR Spec. Issue, 33, 126-144.
Waters (1991) European Jour. Mineral., 3, 367-386.
(1) Grt + 2Als = Spl + Crd
(2) Crd = 2Spl + 5Qz
(3) Grt + 2Als = 3Spl + 5Qz
反応(1)では、生成物としてスピネル+菫青石を生ずる。したがってスピネルと菫青石が直接接する組織が形成される。このような産状は日高変成帯や領家変成帯などでよく知られている。一方、反応(2)と(3)では、反応生成物としてスピネル+石英を生じる。つまりスピネルと石英が直接接する産状になる事を意味している。これは超高温変成作用の指標鉱物組合せの一つである(例えば、Waters, 1991; Harley, 1998; Ganguly et al., 2017)。したがって鉱物増減反応(2)(3)の地質圧力計は、超高温変成岩に使用できる。一般に、ほぼ全ての泥質変成岩には石英が含まれるが、角閃岩相~グラニュライト相(UHTより低い条件)では、スピネルと石英は直接接して産することは無い。したがって、反応(2)(3)に基づく地質圧力計は、そのような変成岩に用いてはならないはずである。
一方、スピネル+斜長石からなるシンプレクタイトは、多数の地域から報告されている。本発表では、南極のリュッツォホルム岩体・日高変成帯・羽越地域・領家変成帯の例を紹介する。例えば、リュッツォホルム岩体の天文台岩は、角閃岩相~グラニュライト相漸移部の境界に位置する露岩である(Shiraishi et al., 1984)。ここでは、スピネルはザクロ石珪線石片麻岩中に産する。この岩石は主にザクロ石・スピネル・黒雲母・珪線石・斜長石・カリ長石・石英・イルメナイト・ルチルから構成されている。暗緑色のスピネル(ヘルシナイト)が、スピネル+斜長石のシンプレクタイトを形成して産する。このスピネルは石英と直接接することは無く、石英との間は斜長石によって隔てられている。また、この組織の近傍のザクロ石は斜長石に囲まれて産する。この産状は、この組織が「Grt + Als = Spl + Pl」という反応で形成されたことを示している。そしてこれは、
CFAS系では、5Grs + Alm + 12Als = 3Hc + 15An
CMAS系では、5Grs + Prp + 12Als = 3Spl + 15An
という鉱物増減反応として書く事ができる。そしてこれらの反応について、Holland and Powell (2011)の熱力学データを利用すると、
P [CFAS, sillimanite] = (-155761 + 587.4 T + RT lnKFe) / 29.378
P [CMAS, sillimanite] = (-132541 + 564.2 T + RT lnKMg) / 29.299
という地質圧力計の式が成り立つ。なお式中の圧力(P)の単位はバール, 温度(T)はケルビンで、平衡定数Keq は、
KFe = (aGrs5 aAlm) / (aHc3 aAn15)
KMg = (aGrs5 aPrp) / (aSpl3 aAn15) である。
当日の発表では藍晶石・紅柱石領域の式も提案する。これらの反応には、石英・コランダム・直方輝石・菫青石は関与していない。したがってこの「ザクロ石–アルミノ珪酸塩–スピネル–斜長石地質圧力計」は、紅柱石・藍晶石・珪線石の広い温度圧力領域内で、スピネルを含む泥質変成岩に対して広く用いることができる。
文献
Ganguly et al. (2017) Jour. Petrol., 58, 1941–1974.
Harley (1998) Geol. Soc. London Spec. Publ., 138, 81-107.
Harris (1981) Contrib. Mineral. Petrol., 76, 229-233.
Holland & Powell (2011) Jour. Metamorphic Geol., 29, 333-383.
Nichols et al. (1992) Contrib. Mineral. Petrol., 111, 362- 377.
Perchuk et al. (1989) Jour. Metamorphic Geol., 7, 599-617.
Shiraishi et al. (1984) Mem. NIPR Spec. Issue, 33, 126-144.
Waters (1991) European Jour. Mineral., 3, 367-386.