日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-MP 岩石学・鉱物学

[S-MP26] 鉱物の物理化学

2021年6月6日(日) 17:15 〜 18:30 Ch.12

コンビーナ:鹿山 雅裕(東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻広域システム科学系)、大平 格(学習院大学 理学部 化学科)

17:15 〜 18:30

[SMP26-P07] 福岡県飯塚市八木山の蛇紋岩体に伴うアメサイトとAl-蛇紋石

*一色 優希1、上原 誠一郎2、武田 侑也1 (1.九州大学大学院理学府地球惑星科学専攻、2.九州大学総合研究博物館)

キーワード:蛇紋石、アメサイト、ロジン岩、緑泥石、Al-蛇紋石

1. はじめに
蛇紋石は理想化学組成Mg3Si2O5(OH)4で,一般に少量のFeやAlを含む。蛇紋石と固溶体の関係にある鉱物としてアメサイト(Mg, Al)3(Si, Al)2O5(OH)4があり,中間的組成のものはAl-蛇紋石と呼ばれている。Al-蛇紋石(7Å)は緑泥石(14Å)と多形の関係にあり,低温相(準安定相)と考えられ,鉱物学的に重要である。しかし,Al-蛇紋石およびアメサイトの産出は比較的稀であり,詳細な鉱物学的記載は少ない。今回、本産地の蛇紋岩体に伴うロジン岩中にアメサイト及びAl-蛇紋石を見出したため、それらの産状および鉱物学的性質を検討した。

2. 試料および実験
飯塚市八木山および周辺の地域で,蛇紋岩中のロジン岩の産状観察と構成鉱物の検討を行った。試料の肉眼および双眼実体顕微鏡観察の後にX線回折分析(Rigaku Ultima Ⅳ, Rigaku RINT RAPID Ⅱ),偏光顕微鏡および走査電子顕微鏡観察(SEM-EDS: JEOL JSM-7001F)を行った。また、九州大学超顕微解析研究センターのTEM (JEOL JEM-3200FSK, JEM-ARM200CF)を使用し薄膜試料・粉末試料による微細組織観察を行った。

3. 結果
野外観察で11箇所のロジン岩露頭を確認した。ロジン岩は緑簾石-斜灰簾石,方解石,灰礬柘榴石,緑泥石,トムソン沸石, プレナイト, チタナイトなどのCaやAlに富んだ鉱物で構成される。アメサイトは3箇所(試料Rod3, 7, 9)のロジン岩露頭で確認された。アメサイトおよびAl-蛇紋石の産状は,ロジン岩中の脈状をなすものとその周囲の方解石、トムソン沸石などを伴って散在するものの2つのタイプが見られる。

試料Rod3では白色不透明のAl-蛇紋石と付随する形で薄茶色透明のアメサイトを含む。どちらもXRD分析の結果、リザーダイト-6T1のパターンと一致する。白色不透明部は結晶が非常に小さく(約50-300 nm),板状、中に板状結晶を含む中空円筒状、繊維状、不定形の混合物であった。それぞれの結晶粒子の化学組成は、アメサイト、リザーダイト端成分、Siが過剰となるものの3相となった。これらがナノスケールで混在している微細組織を示した。中空の円柱状部はTEM観察で多角柱状の格子縞を示すが、セクターの形状は不規則で、セクターの境界部の格子縞が確認できず、これまで報告されているpolygonal serpentineと異なる。また、中空の円柱状部はAl陽イオン数1.3 (O=7) 程度なため、通常の蛇紋石と四面体・八面体シートの大小が逆転し、両シートの組み合わせが逆向きのカオリン様構造の鉱物である可能性がある。中空の円柱状部の内側には、円を二分し、筒に並行する板状部が存在する。板状部はSiまたはAlが過剰で、TEM観察の結果、7Åと14Å層が混合していた。

薄茶色透明部は粗粒(200 μm)で、白色部との境界では、白色部に向かって1µmほどの糸状結晶が伸びている。一つの結晶中でも組成が不均一で、EDSマッピングを行った結果、モザイク状に組成が不均一な結晶と、Alの濃度が明確に別れている結晶の2種を確認した。前者は自形で、へき開が明瞭だが、後者は半自形で、先述の糸状結晶はこの結晶から生じていた。それぞれの組成は、リザーダイト-アメサイトの固溶体に概ね一致するが、Alに富む部分はAlまたはSiに富む傾向が見られ、化合物のトータルが低いため、OHに富む物質を含む可能性がある。

試料Rod7では,淡緑色の灰長石と少量で無色の透輝石がプレナイト脈に沿って肌色のトムソン沸石に変質している。それらのトムソン沸石は、Al-蛇紋石と緑泥石の混合した茶色脈によってアメサイト化していた。XRD分析の結果、Rod7に含まれるAl-蛇紋石およびアメサイトはリザーダイト-3Tのパターンと一致し、緑泥石の濃度は同一脈でも差がみられた。EDS分析の結果、それぞれの蛇紋石・緑泥石混合物は、固溶体の理想組成よりSiまたはAlが過剰であった。

Rod9ではロジン岩中の白色や透明脈やその周囲の変質部としてアメサイトおよびAl-蛇紋石を確認した。XRD分析の結果、リザーダイト-1Tのパターンと一致し、緑泥石との混合部であることが示唆された。脈状部は肉眼的に2種に分かれており、直径300µmほどの球状自形の集合した白色不透明部や、500-800µmの針状結晶を含み、全体的には多形の透明部がみられる。また、それらの脈に平行で、チタナイトや溶解途中の透輝石などと共存し、Alに富むアメサイトの多い茶色の変質部がある。Rod9は10µm程度の透輝石の集合が見られるが、茶色の変質部ではそれらが網目状に仮晶となっており、Alに富む網目部とAlに乏しい内部でAlのゾーニングを生じていた。EDS分析結果はRod7と同様に蛇紋石固溶体組成よりSiまたはAlに過剰な傾向を示した。