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[SSS02-P01] S-net広域・稠密津波観測網が可能にした2016年福島県沖の正断層型地震の高精度断層モデリング:上盤プレート内応力場への示唆
キーワード:S-net、海底圧力計、津波、2016年福島沖地震、プレート内応力
2016年11月22日,福島沖の上盤プレート内のごく浅部でMw 6.9の正断層型地震が発生した(12km,GCMT).この地震においてこれまで報告されてきた津波記録は,震源域から見て陸側にある観測点に限られ,これらのデータから津波波源 (海面上下変位) ,とくに沖側の分布を拘束するのは難しいと考えられる.2011年東北沖地震を受け東北沖にS-net海底地震津波観測網が広く展開された (Aoi et al., 2020) が,S-netが,この地震による津波を従来の津波観測網よりもはるかに高い方位カバレッジで,かつ震源域ごく近傍で明瞭に記録した.そのデータを用いることにより,この地震の震源過程の拘束も大きく強めることができると期待される.本研究では,このS-net水圧記録を活用して福島沖の地震の震源断層モデルを推定し,その推定精度について検討する.さらには,得られたモデルに基づいて,この地震と2011年東北沖地震との関連について考察を行う.
フィルタ処理を施したS-net水圧データから,最大振幅40cm程度の津波が明瞭に確認できた.S-net記録を逆解析し,津波の波源分布を推定した.その際,機器ノイズに起因するとみられるステップおよびドリフトのシグナル (Kubota et al., 2020JpGU) に注意して解析を行った.解析の結果,先行研究の断層モデルから期待される津波波源と比べ,空間的に狭い領域に,非常に大きな沈降ピークを持つ波源分布が推定された.このモデルから,逆解析に使用しなかった周辺のNOWPHASのGPSブイや波高計の波形を計算したところ,観測波形を非常によく再現した.このことはS-netが津波波源の推定精度を大きく向上させたことを意味し,また断層モデルの推定精度の向上につながることを意味する.
続いて,S-net水圧波形の逆解析により,断層面におけるすべりの分布を推定した.推定された分布は,~30 km × ~20 kmの領域に集中(平均すべり~300 cm)しており,最大すべり量はDmax ~ 600 cmほどであった.得られた断層モデルから断層面上における剪断応力の変化を計算し,energy-based stress drop ΔσE (すべり量で重み付け平均した応力降下量,Noda et al. 2013) を計算したところ,すべり量の比較的大きかった断層(D > 0.2 × Dmax) においてΔσE ~14 MPa の値が得られた.
東北日本の前弧域の地殻内では,東北沖地震前には東西圧縮の応力場が卓越していたのに対し,東北沖地震後に東西引張の正断層型地震が増加したと報告されている (e.g., Terakawa and Matsu’ura, 2010; Asano et al., 2011).この変化は,東北沖地震による応力擾乱が上盤プレート内部の広域応力場を東西圧縮から引張に反転させたためと解釈されている (e.g., Hasewaga et al., 2012).それに基づくと,東北沖地震後における,福島沖地震の震源周辺における差応力は東北沖地震による応力変化と同程度と考えられる.東北沖地震の震源断層モデル (Iinuma et al., 2012) からこの地震の震源断層における剪断応力増加量を計算したところ2 MPa程度となり,福島沖の地震時の応力降下量より有意に小さい.すなわち,この地震の震源域周辺では差応力がローカルに大きい可能性を示唆する.ローカルな応力不均質の解釈として,上盤プレートが,海洋プレートの沈み込みに伴って折り曲がり,その表層側が東西に引き延ばされ (Hashimoto & Matsu’ura, 2006),とくに浅部でローカルに東西引張の応力が強く卓越していた可能性が考えられる.2016年の地震の周辺では,東北沖地震前には,東西引張の応力が強度を超えず,正断層型地震が発生していなかったが,東北沖地震による応力変化によって絶対応力レベルが上がり,正断層型地震が発生するようになったと考えた.福島沖地震から比較的近い福島県浜通りの領域の浅部では,東北沖地震前から正断層型の微小地震が発生していることも報告されており(Imanishi et al., 2012; Yoshida et al., 2015),本解釈を支持する.本研究の結果は,東北沖に広く展開されたS-netの海底水圧記録を丹念に解析することで,沖合の地震についても非常に精度の高い震源断層モデルを求め,それに基づき東北日本沈み込み帯のテクトニクスに関しての議論を行うことができるようになること示している.これは,S-netがなければなし得ないものであったと言え,S-netの広域かつ稠密な海底圧力観測網が,今後,海底地震学に重要な貢献を果たすようになるものと考える.
フィルタ処理を施したS-net水圧データから,最大振幅40cm程度の津波が明瞭に確認できた.S-net記録を逆解析し,津波の波源分布を推定した.その際,機器ノイズに起因するとみられるステップおよびドリフトのシグナル (Kubota et al., 2020JpGU) に注意して解析を行った.解析の結果,先行研究の断層モデルから期待される津波波源と比べ,空間的に狭い領域に,非常に大きな沈降ピークを持つ波源分布が推定された.このモデルから,逆解析に使用しなかった周辺のNOWPHASのGPSブイや波高計の波形を計算したところ,観測波形を非常によく再現した.このことはS-netが津波波源の推定精度を大きく向上させたことを意味し,また断層モデルの推定精度の向上につながることを意味する.
続いて,S-net水圧波形の逆解析により,断層面におけるすべりの分布を推定した.推定された分布は,~30 km × ~20 kmの領域に集中(平均すべり~300 cm)しており,最大すべり量はDmax ~ 600 cmほどであった.得られた断層モデルから断層面上における剪断応力の変化を計算し,energy-based stress drop ΔσE (すべり量で重み付け平均した応力降下量,Noda et al. 2013) を計算したところ,すべり量の比較的大きかった断層(D > 0.2 × Dmax) においてΔσE ~14 MPa の値が得られた.
東北日本の前弧域の地殻内では,東北沖地震前には東西圧縮の応力場が卓越していたのに対し,東北沖地震後に東西引張の正断層型地震が増加したと報告されている (e.g., Terakawa and Matsu’ura, 2010; Asano et al., 2011).この変化は,東北沖地震による応力擾乱が上盤プレート内部の広域応力場を東西圧縮から引張に反転させたためと解釈されている (e.g., Hasewaga et al., 2012).それに基づくと,東北沖地震後における,福島沖地震の震源周辺における差応力は東北沖地震による応力変化と同程度と考えられる.東北沖地震の震源断層モデル (Iinuma et al., 2012) からこの地震の震源断層における剪断応力増加量を計算したところ2 MPa程度となり,福島沖の地震時の応力降下量より有意に小さい.すなわち,この地震の震源域周辺では差応力がローカルに大きい可能性を示唆する.ローカルな応力不均質の解釈として,上盤プレートが,海洋プレートの沈み込みに伴って折り曲がり,その表層側が東西に引き延ばされ (Hashimoto & Matsu’ura, 2006),とくに浅部でローカルに東西引張の応力が強く卓越していた可能性が考えられる.2016年の地震の周辺では,東北沖地震前には,東西引張の応力が強度を超えず,正断層型地震が発生していなかったが,東北沖地震による応力変化によって絶対応力レベルが上がり,正断層型地震が発生するようになったと考えた.福島沖地震から比較的近い福島県浜通りの領域の浅部では,東北沖地震前から正断層型の微小地震が発生していることも報告されており(Imanishi et al., 2012; Yoshida et al., 2015),本解釈を支持する.本研究の結果は,東北沖に広く展開されたS-netの海底水圧記録を丹念に解析することで,沖合の地震についても非常に精度の高い震源断層モデルを求め,それに基づき東北日本沈み込み帯のテクトニクスに関しての議論を行うことができるようになること示している.これは,S-netがなければなし得ないものであったと言え,S-netの広域かつ稠密な海底圧力観測網が,今後,海底地震学に重要な貢献を果たすようになるものと考える.