日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS05] 地殻変動

2021年6月3日(木) 13:45 〜 15:15 Ch.22 (Zoom会場22)

コンビーナ:加納 将行(東北大学理学研究科)、落 唯史(国立研究開発法人産業技術総合研究所 地質調査総合センター 活断層・火山研究部門)、富田 史章(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)、座長:田中 愛幸(東京大学理学系研究科)、矢野 恵佑(統計数理研究所)

15:00 〜 15:15

[SSS05-06] GNSSを用いた短期的スロースリップイベントの自動検出:l1トレンドフィルタリングを用いたアプローチ

*矢野 恵佑1、加納 将行2 (1.統計数理研究所、2.東北大学)

短期的スロースリップイベント (SSE) は通常の地震よりもゆっくりとした速度の断層すべり現象で,Global Navigation Satellite System (GNSS)や傾斜計といった測地学的観測により観測されている.短期的SSEの継続期間は一般に数日から数週間程度 (Obara and Kato, 2016)で,プレートの沈み込み帯付近で多く発生している(e.g., Sekine et al. 2010, Nishimura et al. 2013). SSEは巨大地震や低周波地震などの他の地震現象と関係しており (Kano et al., 2019),その発生検知は重要である.しかしながら,GNSSで観測される短期的SSEの信号は微弱であることが多く,複数の観測点の信号をうまく統合する必要がある.Nishimura et al. (2013)は,赤池情報量規準(AIC)による移動窓内のモデル比較とその空間平均に基づく短期的SSE検知手法を提案し,西南日本で発生した短期的SSEの自動検知を行った.この方法は,移動窓等の調整パラメータを適切に与えることができれば高い検知精度をもつが,一般にこれらを適切に与えることは難しい.

本講演では,l1トレンドフィルタリングに基づいた複数のGNSS観測点からの検知手法を提案する.また,提案手法を四国西部のGNSSデータに適用し,検知したイベントに対してマルコフ連鎖モンテカルロ法(MCMC)を用いた逆解析により断層モデルを推定した結果を紹介する.提案手法は短期的SSEをGNSS変位データにおける区分変化点として捉え,変化点の確からしさを複数の観測点を利用して検証する手法である.提案手法内の調整パラメータはMallowsのCp規準を用いてデータから適切に調整することができる.

提案手法は,トレンドフィルタリング・隣接観測点を用いた検定・検定結果の統合を段階的に行う.第一に,l1トレンドフィルタリング(Kim et al., 2009)により観測時系列に区分線形関数を当てはめる.第二に,当てはめた関数の節点情報を集めて節点の前後の区間で速度が変化しているかどうかの仮説検定を行う.l1トレンドフィルタリングの節点を利用することで,節点前後の区間の長さはデータから自動決定される.最後に,複数の観測点での検知の疑わしさを表す検定のp-値を統合する.l1トレンドフィルタリングは,高次全変動正則化とも呼ばれるスパース推定の手法であり,与えられた入力の中に潜む区分多項式関数を精度良く推定する.後続する検定では,l1トレンドフィルタリングで得られた区分点を利用する.

提案手法の精度検証のため,2004年4月1日から2009年3月31日の期間における四国西部のGNSSデータと,このデータから生成した人工データを利用する.GNSSのコモン・モードエラーの除去は五島列島の3観測点の平均を差し引くことで行い(Kano et al., 2019),二次元の変位データをアムール海プレートに対するフィリピン海プレートの沈み込み方向(N45W)に射影して利用した. 人工データを利用した比較によって, AICの空間平均は窓幅によってイベント見逃し率・ノイズ誤検知率が変化すること,これに対し提案手法は,適切に窓幅を設定したAICの空間平均と同程度の性能をもつことがわかった.提案手法を実データに利用した結果とMCMCを用いた断層モデルについて報告する.