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[SSS05-07] 東北地方太平洋沖地震の余効変動予測モデルから見出された2015年以降の広域の新たな定常すべり
キーワード:東北地方太平洋沖地震、地殻変動、余効変動、定常すべり、GNSS時系列、予測モデル
概要
平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震の余効変動の時系列に関数近似を行うことによって,広域にわたる余効変動の将来推移予測を行っている.東北地方太平洋沖地震の余効変動は,主にプレート境界面上の余効すべりと上部マントルの粘弾性緩和により生じていると考えられており,余効変動の時系列とその空間分布を将来にわたって把握していくことは,こうした物理現象発生過程のより正確な推定のためにも有効と考えられる.本報告では,2020年12月までの地殻変動データを用いて余効変動予測の検証を行い,実測値と予測モデルの残差からプレート面上での新たな定常すべりが2015年以降発生していることを報告する.
手法
Tobita (2016)により,下記の式で表される2個の対数及び1個の指数関数の混合モデルを用いることで,短・中期的な時間推移とともに,場所によって異なる余効変動の空間分布も高精度に予測できることが示されている.
D(t) = a ln(1+ t/b) + c + d ln(1+ t/e) - f exp(– t/g) + Vt
ここで,D(t)は余効変動時系列の各成分,t は地震後の日数,ln は自然対数,b,e,g は全観測点に共通の対数関数または指数関数の緩和時定数,V は2011年以前の観測点ごとの定常速度である.時定数は,Tobita (2016)と同様に,代表的な変動を示す,宮古,矢本,皆瀬及び銚子の4観測点で決定し,その他の観測点については,決定された時定数を共通に与え,最小二乗法で各点・成分ごとに振幅の係数を決定した.
結果
Fig 1 に,電子基準点「瀬棚」(北海道渡島半島)及び「名栗」(埼玉県)の東西成分の観測値,3.9年間(2015年2月まで)の予測に基づく予測値及びそれらの残差を示した.予測値は観測値に対して2015年2月まではほぼ1cm以内で一致していたが,その後,2015年2月の三陸沖の地震(M6.9),5月の宮城沖の地震(M6.8)の頃から異なった傾向となった.このことは残差だけではなく,2015年以降を予測期間に含めると,上記予測モデルのうち指数の時定数gが計算上飽和してしまうことからも,それまで続いていた東北地方大洋沖地震の余効変動とは異なる別の事象が2015年に発生したことがわかる.
残差からすべりモデルを求める
2015年以降の予測モデルとのシステマティックな残差は北海道から中部地方に至るまでの広域で同時に発生し,ほぼ一定速度でそれぞれ継続している.この原因を探るため,プレート面上のすべり速度モデルとして求めたのがFig 2で,大きい場所で年間数cmのすべりとして求められた.
この新たなすべりの発生場所は,三陸沖~宮城沖と浦河沖の2か所に大別できる.三陸沖~宮城沖は,東北地方太平洋沖地震直後からの余効すべり域とほぼ一致しており,この余効すべりに追加するように一定速度のすべりとして発生したと考えられる.これに対して,浦河沖では2015年までには目立ったすべりは発生しておらず,2015年以降に新たに付け加わったものである.
三陸沖~宮城沖については,2015年2月の三陸沖の地震(M6.9),5月の宮城沖の地震(M6.8)の発生と場所も時期も一致するほか,浦河沖についても2016年1月の浦河沖の地震(M6.7)と場所が近く,新たなすべりの発生開始とこれらの中規模の地震発生がなんらかの関連をもつことが示唆される.
さいごに
Tobita (2016)による予測モデルは,中部地方から北海道南部にかけて,1mを超える東北地方太平洋沖地震の余効変動を9年後においても数cm程度の精度で予測できている.予測モデルから求められる残差は余効変動ではない別の事象の発生の検出に極めて有効であり(e.g. Ozawa et al. 2016),さまざまな分野での活用が期待できる.
参考文献
Ozawa S, Tobita M and Yarai H (2016) Earth Planets Space. https://doi.org/10.1186/s40623-016-0430-4.
Tobita M (2016) Earth Planets Space. https://doi.org/10.1186/s40623-016-0422-4.
平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震の余効変動の時系列に関数近似を行うことによって,広域にわたる余効変動の将来推移予測を行っている.東北地方太平洋沖地震の余効変動は,主にプレート境界面上の余効すべりと上部マントルの粘弾性緩和により生じていると考えられており,余効変動の時系列とその空間分布を将来にわたって把握していくことは,こうした物理現象発生過程のより正確な推定のためにも有効と考えられる.本報告では,2020年12月までの地殻変動データを用いて余効変動予測の検証を行い,実測値と予測モデルの残差からプレート面上での新たな定常すべりが2015年以降発生していることを報告する.
手法
Tobita (2016)により,下記の式で表される2個の対数及び1個の指数関数の混合モデルを用いることで,短・中期的な時間推移とともに,場所によって異なる余効変動の空間分布も高精度に予測できることが示されている.
D(t) = a ln(1+ t/b) + c + d ln(1+ t/e) - f exp(– t/g) + Vt
ここで,D(t)は余効変動時系列の各成分,t は地震後の日数,ln は自然対数,b,e,g は全観測点に共通の対数関数または指数関数の緩和時定数,V は2011年以前の観測点ごとの定常速度である.時定数は,Tobita (2016)と同様に,代表的な変動を示す,宮古,矢本,皆瀬及び銚子の4観測点で決定し,その他の観測点については,決定された時定数を共通に与え,最小二乗法で各点・成分ごとに振幅の係数を決定した.
結果
Fig 1 に,電子基準点「瀬棚」(北海道渡島半島)及び「名栗」(埼玉県)の東西成分の観測値,3.9年間(2015年2月まで)の予測に基づく予測値及びそれらの残差を示した.予測値は観測値に対して2015年2月まではほぼ1cm以内で一致していたが,その後,2015年2月の三陸沖の地震(M6.9),5月の宮城沖の地震(M6.8)の頃から異なった傾向となった.このことは残差だけではなく,2015年以降を予測期間に含めると,上記予測モデルのうち指数の時定数gが計算上飽和してしまうことからも,それまで続いていた東北地方大洋沖地震の余効変動とは異なる別の事象が2015年に発生したことがわかる.
残差からすべりモデルを求める
2015年以降の予測モデルとのシステマティックな残差は北海道から中部地方に至るまでの広域で同時に発生し,ほぼ一定速度でそれぞれ継続している.この原因を探るため,プレート面上のすべり速度モデルとして求めたのがFig 2で,大きい場所で年間数cmのすべりとして求められた.
この新たなすべりの発生場所は,三陸沖~宮城沖と浦河沖の2か所に大別できる.三陸沖~宮城沖は,東北地方太平洋沖地震直後からの余効すべり域とほぼ一致しており,この余効すべりに追加するように一定速度のすべりとして発生したと考えられる.これに対して,浦河沖では2015年までには目立ったすべりは発生しておらず,2015年以降に新たに付け加わったものである.
三陸沖~宮城沖については,2015年2月の三陸沖の地震(M6.9),5月の宮城沖の地震(M6.8)の発生と場所も時期も一致するほか,浦河沖についても2016年1月の浦河沖の地震(M6.7)と場所が近く,新たなすべりの発生開始とこれらの中規模の地震発生がなんらかの関連をもつことが示唆される.
さいごに
Tobita (2016)による予測モデルは,中部地方から北海道南部にかけて,1mを超える東北地方太平洋沖地震の余効変動を9年後においても数cm程度の精度で予測できている.予測モデルから求められる残差は余効変動ではない別の事象の発生の検出に極めて有効であり(e.g. Ozawa et al. 2016),さまざまな分野での活用が期待できる.
参考文献
Ozawa S, Tobita M and Yarai H (2016) Earth Planets Space. https://doi.org/10.1186/s40623-016-0430-4.
Tobita M (2016) Earth Planets Space. https://doi.org/10.1186/s40623-016-0422-4.