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[SSS05-P01] MCMC法による粘弾性変形を考慮した余効すべりの推定
キーワード:平成23年(2011年) 東北地方太平洋沖地震、余効変動、MCMC法
概要
平成23年(2011年) 東北地方太平洋沖地震から約10年が経過したが,未だに余効変動が観測されている.この余効変動のメカニズムとして,余効すべりと粘弾性変形の双方の寄与があることが知られている.そこで,本研究では,Tomita et al. (2020)の手法に倣い,測地観測により得られた余効変動の空間パターンから,余効すべりと粘弾性変形それぞれの寄与を同時に推定し,さらに最適な粘性率を決定する試みを行ったので,その結果を報告する.
計算手法
粘弾性変形を考慮した断層面のすべりによる変位は,以下の式で与えられる.
d0=Ge s0
d1=Gv,10 s0+Ge s1
ここで,d0,d1は地震時(t=0),地震後(t=t1)における変位量,s0, s1はt=0, t1におけるすべり量である.また,Geは弾性グリーン関数,Ge,10は地震時のすべりによるt=t1での粘弾性グリーン関数である.なお,本研究では,タイムステップはt=0, t1の2つとし,余効すべりによる粘弾性変形は考慮しない.
グリーン関数の計算では,厚さ50 kmの弾性層及びその下のMaxwell粘弾性層の2層からなる半無限媒質を仮定し,Fukahata and Matsu’ura (2005)のプログラムを用いて,太平洋プレート境界面の向きに沿った600枚の断層パッチによる地震時及び地震後の変位を計算した.
観測データとして,陸域については,GEONETの448点のF3解から年周半年周及び地震前の速度を取り除いた後,地震時及び地震後の変位を計算した.海底地殻変動については,海上保安庁の6点(Yokota et al. 2018)について地震前の速度を取り除いた後,log関数でフィットして地震後の変位を計算した.なお,地震時の変位には,東北大学の海底観測点3点のデータも用いた(Sato et al. 2011,Kido et al. 2011,Ito et al. 2011).
すべり分布の推定は,マルコフ連鎖モンテカルロ(MCMC)法を用いた.分布の滑らかさのハイパーパラメータ2つについても同時に推定を行った(Fukuda and Johnson 2008).
結果
図1は,推定された地震後5年間の余効すべり分布である.東北地方の太平洋側は,余効すべりの寄与が卓越し,海溝向き及び隆起方向の余効変動を示す.また,遠方の観測点では,粘弾性変形の寄与が大きくなることが分かる.一方,海底では,余効すべりと粘弾性変形の寄与が相殺することで,各観測点における比較的小さな変動を説明している.
粘性率を変えた場合,東北地方の太平洋側の変動は余効すべりの分布を調整することである程度説明可能であるが,海底及び遠方の観測点の変動を説明することが難しくなる.これにより,残差が最も小さくなる粘性率は,1019 Pa s程度と推定された(図2).
なお,本研究では,地震前の速度を基準に変位を計算することで,プレート間の固着による影響は取り除いている.そのため,大陸プレートの速度を基準に計算したTomita et al. (2020)と比較し,今回計算されたすべり分布は,海側に若干大きな値が推定されるが,最適な粘性率はよく一致している.
本発表では,使用する観測データの期間を変えた場合の結果についても報告する予定である.
<図1>平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震後5年間の変動量から推定した余効すべり分布.左上及び左下の図は,それぞれ水平及び上下方向の観測値(黒)及び計算値(白)を示す.また,右上及び右下の図は,それぞれ水平及び上下方向の計算値のうち,余効すべり(マゼンタ)及び粘弾性変形(緑)の寄与を示している.粘性率は1019 Pa sを使用した.本震の推定すべり分布(黒等値線),震央(星印),並びに本震及び主な余震の発震機構解(気象庁)を重ねて表示している.
<図2>各粘性率に対する残差の平均値.
平成23年(2011年) 東北地方太平洋沖地震から約10年が経過したが,未だに余効変動が観測されている.この余効変動のメカニズムとして,余効すべりと粘弾性変形の双方の寄与があることが知られている.そこで,本研究では,Tomita et al. (2020)の手法に倣い,測地観測により得られた余効変動の空間パターンから,余効すべりと粘弾性変形それぞれの寄与を同時に推定し,さらに最適な粘性率を決定する試みを行ったので,その結果を報告する.
計算手法
粘弾性変形を考慮した断層面のすべりによる変位は,以下の式で与えられる.
d0=Ge s0
d1=Gv,10 s0+Ge s1
ここで,d0,d1は地震時(t=0),地震後(t=t1)における変位量,s0, s1はt=0, t1におけるすべり量である.また,Geは弾性グリーン関数,Ge,10は地震時のすべりによるt=t1での粘弾性グリーン関数である.なお,本研究では,タイムステップはt=0, t1の2つとし,余効すべりによる粘弾性変形は考慮しない.
グリーン関数の計算では,厚さ50 kmの弾性層及びその下のMaxwell粘弾性層の2層からなる半無限媒質を仮定し,Fukahata and Matsu’ura (2005)のプログラムを用いて,太平洋プレート境界面の向きに沿った600枚の断層パッチによる地震時及び地震後の変位を計算した.
観測データとして,陸域については,GEONETの448点のF3解から年周半年周及び地震前の速度を取り除いた後,地震時及び地震後の変位を計算した.海底地殻変動については,海上保安庁の6点(Yokota et al. 2018)について地震前の速度を取り除いた後,log関数でフィットして地震後の変位を計算した.なお,地震時の変位には,東北大学の海底観測点3点のデータも用いた(Sato et al. 2011,Kido et al. 2011,Ito et al. 2011).
すべり分布の推定は,マルコフ連鎖モンテカルロ(MCMC)法を用いた.分布の滑らかさのハイパーパラメータ2つについても同時に推定を行った(Fukuda and Johnson 2008).
結果
図1は,推定された地震後5年間の余効すべり分布である.東北地方の太平洋側は,余効すべりの寄与が卓越し,海溝向き及び隆起方向の余効変動を示す.また,遠方の観測点では,粘弾性変形の寄与が大きくなることが分かる.一方,海底では,余効すべりと粘弾性変形の寄与が相殺することで,各観測点における比較的小さな変動を説明している.
粘性率を変えた場合,東北地方の太平洋側の変動は余効すべりの分布を調整することである程度説明可能であるが,海底及び遠方の観測点の変動を説明することが難しくなる.これにより,残差が最も小さくなる粘性率は,1019 Pa s程度と推定された(図2).
なお,本研究では,地震前の速度を基準に変位を計算することで,プレート間の固着による影響は取り除いている.そのため,大陸プレートの速度を基準に計算したTomita et al. (2020)と比較し,今回計算されたすべり分布は,海側に若干大きな値が推定されるが,最適な粘性率はよく一致している.
本発表では,使用する観測データの期間を変えた場合の結果についても報告する予定である.
<図1>平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震後5年間の変動量から推定した余効すべり分布.左上及び左下の図は,それぞれ水平及び上下方向の観測値(黒)及び計算値(白)を示す.また,右上及び右下の図は,それぞれ水平及び上下方向の計算値のうち,余効すべり(マゼンタ)及び粘弾性変形(緑)の寄与を示している.粘性率は1019 Pa sを使用した.本震の推定すべり分布(黒等値線),震央(星印),並びに本震及び主な余震の発震機構解(気象庁)を重ねて表示している.
<図2>各粘性率に対する残差の平均値.