日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS05] 地殻変動

2021年6月3日(木) 17:15 〜 18:30 Ch.10

コンビーナ:加納 将行(東北大学理学研究科)、落 唯史(国立研究開発法人産業技術総合研究所 地質調査総合センター 活断層・火山研究部門)、富田 史章(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)

17:15 〜 18:30

[SSS05-P06] 数ヶ月程度の地殻変動現象に着目した伊豆半島東方沖の地震活動の再評価 (1990-2011)

竹下 京佑1、*木村 一洋1、木村 武志2 (1.気象庁気象大学校、2.防災科学技術研究所)

キーワード:地殻変動、傾斜計、ひずみ計、GNSS、体積変化量

2011年を最後に発生していないが、1978年以降伊豆半島東方沖では群発地震がたびたび発生してきた。1989年7月には、群発地震発生後に川奈崎沖で海底噴火を起こしており、これらの群発地震活動の発生要因が火山活動に起因することが明らかとなった。これらの群発地震活動に伴い、あるいは先立って、ひずみ計や傾斜計、GNSS等の地殻変動データに変化が生じることがあり、これらの地殻変動はダイク貫入によって説明がつくことが数多くの先行研究によって明らかにされている。このダイク貫入に伴う地震活動期間は概ね4日、長くて1週間程度とされており、気象庁ではこの伊豆東部の地震活動の見通しによる情報を2011年3月より発表するようになった。
 一方で、近年のひずみ計等の地殻変動データのノイズ処理技術の向上によって、伊豆半島東方沖では従来のダイク貫入事例とは異なり、ひずみ変化が1週間程度では終わらない数か月程度の地殻変動現象が見つかるようになった。それらのひずみ変化はGNSSと同期しており、シグナルである可能性が非常に高い。国土地理院(2006)は、ダイク貫入に先立って伊豆半島の内陸部の深さ10kmほどのところにあるシル状のマグマだまりが膨張していることを指摘しており、それとの関連も考えられる。本研究では、これらの数か月程度の地殻変動現象に着目して、1990年から2011年にかけてのダイク貫入との関連性をひずみ計・傾斜計・GNSSを用いて推定した体積変化量を通じて、調査・考察を行った。用いたデータのうち、ひずみ計は気象庁の東伊豆奈良本の体積ひずみ計で潮汐・気圧・降雨の影響を除去済みのデータ、傾斜計は、防災科研の伊東、岡、徳永の3点で潮汐の影響を除去したデータ、GNSSは国土地理院のF3解のデータである。
 ダイク貫入の体積変化量については、それぞれの観測機器ごとに重みづけを行い、全てのデータを用いて推定した。GNSSデータによる変動量が得られる場合には地震活動の震源分布を元に変動源の中心の緯度経度・走向・変動源の上端を固定し、変動源の長さ・幅・開口量・傾斜角を推定した。また、GNSSデータによる変動量が得られない1996年3月以前等は、変動源の長さ・幅・傾斜角を固定して開口量のみを推定した。その結果、様々な地殻変動データを用いても、体積ひずみ計のみから体積変化量を推定した宮村・他(2010)による結果とさほど変わらないことが明らかとなった。
 また、ダイク貫入とは異なる数か月程度の地殻変動現象は、1990年以降に5事例見つかった。この地殻変動については国土地理院(2006)を参考に、変動源の上端の深さ10kmのシルを仮定し、その他の要素をGNSSデータの水平変動量から推定した。また、GNSSが観測されていない1991年のイベントの体積変化量は、1996年7月のイベントの変動源と同一であると仮定して傾斜変化量を元に推定した。その結果、5事例中4事例は国土地理院(2006)や西村・村上(2007)による1930年の群発地震後と同じような伊豆半島内陸に変動源が推定されたこと、ダイク貫入に比べて体積変化量は3割程度であること、また伊豆半島内陸の深部で膨張している時期にはダイク貫入が発生していないこと等が明らかとなった。
 本発表では、それらについての紹介を行う。

参考文献
国土地理院(2006):地殻変動観測データで見る伊豆東部火山群のマグマシステムについて,地震予知連絡会会報,76,272-284.
西村卓也・村上亮(2007):水準測量データによる1930 年伊東沖群発地震のダイク貫入モデル,火山,52,149-159.
宮村淳一・上野寛・横田崇(2010):体積歪変化量から推定した伊豆東部火山群のマグマ貫入量と火山活動評価の試み,北海道大学地球物理学研究報告,73,239-255.