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[SSS06-07] 統合的な地殻活動指標の構築に向けて ―“ふつう”の地震活動の特徴抽出―
キーワード:地震活動、潮汐相関、ETAS、ひずみ速度
気象研究所では、地震活動の特徴を表す様々な指標と地殻変動の解析結果の地域特性・時間変化の特徴を調査し、それらの様々な指標を組み合わせた統合的指標を構築するための研究を進めている。最終的には、顕著地震やスロースリップ等の現象との関連性や物理的背景の検討などにより、地殻活動の現在の異常度を表現する手段としての可能性を評価することを目的とする。そのためには、異常ではない“ふつう”の地殻活動とはどのようなものかを、従来行われているような個々の指標に関する個別の解析結果に基づく見方だけでなく、より統合的な視点で定量化しておく必要がある。本発表では、このような観点からの試みとして日本全国の過去約20年間の地震活動から推定した規模別頻度分布、潮汐相関、地震活動度に関する指標値の同時分布について報告する。
解析においては、2000年以降2021年8月までの気象庁一元化震源のうち、陸域30㎞以浅のM2.0以上の震源、海域も含む日本及びその周辺100㎞以浅のM3.5以上の震源の2セットを対象とした。それぞれの震源セットに対し、空間サイズdl×dl内において連続するN個の震源群を、平滑化のため時間方向にN/2、空間方向にdl/2ずつずらしながら各種指標値を同時に推定することで、それらの個別の分布とともに同時分布を得た。後述のように顕著地震前の活動と比較するような場合は、重複しないグリッドの結果を抽出することで、既存の統計手法による分布の比較等の検定を適用することができる。
規模別頻度分布の特徴を表す指標値としては、GR則のb値を用いた。規模の大きな地震の後など、規模別頻度が明らかにGR則から逸脱する場合があるが、そのような場合はR値(Wiemer and Wyss 2000, 2002)によりGR則に従うb値の分布の98%が収まる範囲を閾値として除外した。潮汐相関については、Schuster (1897)の検定手法に基づき、地震発生のタイミングと地球潮汐による体積ひずみ変化の位相角との相関を、D値(D2=(Σi=1N cosθi)2+ (Σi=1N sinθi)2 , θi はi番目の地震の潮汐位相角)を指標として推定した。Schusterの検定においては地震が余震を伴い群れることにより見かけ上の相関が現れる影響を除去する必要があるが、ここでは同時分布の推定という目的に照らし、潮汐周期の半分以内にN/4個以上の地震が集中している場合を除外することとした。地震活動度については、個々の空間グリッドでパラメータ推定したETASモデルによる解析期間内の地震発生数の期待値を指標値とした。ここで用いたETASパラメータの一部は、地震活動の地域性の指標としても用いることができる。
解析により得られたb値の確率密度分布は、b値一定のGR則から期待される分布よりもやや幅の広い釣鐘状の分布となり、従来知られている時空間的な変動を内包していることが分かる。このうち地域性として、高b値が、ETASパラメータのαの低い領域に対応している様子が顕著に見られた。また、時間的な変化として、平均的な地震発生間隔が長くなるほどb値が大きくなる傾向が見られた。これらの時空間的な変動の要因を分析し、地域性等により分類して確率密度分布の対象をスケールダウンしていくことは今後の課題のひとつである。D値の確率密度分布は、短時間にまとまった地震活動を除去することで、潮汐との相関がない場合に期待されるレイリー分布に近づくが、これよりは若干高D値側が膨らむ形となる。この膨らみの要因としては、余震の影響が取り切れていない可能性、実際に潮汐相関のある活動が含まれている可能性の双方があり、その判別には個別の活動の精査が必要と考えられる。ETASモデルによる地震数の期待値の分布も、モデルから期待される分布よりも幅が広いものとなるが、これは、大規模な地震の余震活動の初期に地震数を過小評価し、後半に過大評価するという同一空間グリッド内の時間変化に主に起因するものと見られる。
上述のように、規模別頻度分布がGR則から明らかに外れる場合や余震が頻発する場合等の明らかな“異常”な場合を除いて推定した各種指標の確率密度分布は理論やモデルから期待されるものとは異なる。このため、過去のデータに基づいて推定したこのような分布を “ふつう”の地震活動の特徴として定量化しておくことには意味がある。これらの同時分布があれば、例えば規模別頻度分布と潮汐相関の異常が同時に発現した際には、その異常性がどの程度の出現頻度の事象なのかを定量化することが可能となるだろう。また、顕著地震の発生前や、顕著な地殻変動に対応して、“ふつう”とは異なる指標値の分布が得られることがあるか、あらかじめ把握しておくことも重要である。発表では、このような観点での検討の例も紹介したい。
解析においては、2000年以降2021年8月までの気象庁一元化震源のうち、陸域30㎞以浅のM2.0以上の震源、海域も含む日本及びその周辺100㎞以浅のM3.5以上の震源の2セットを対象とした。それぞれの震源セットに対し、空間サイズdl×dl内において連続するN個の震源群を、平滑化のため時間方向にN/2、空間方向にdl/2ずつずらしながら各種指標値を同時に推定することで、それらの個別の分布とともに同時分布を得た。後述のように顕著地震前の活動と比較するような場合は、重複しないグリッドの結果を抽出することで、既存の統計手法による分布の比較等の検定を適用することができる。
規模別頻度分布の特徴を表す指標値としては、GR則のb値を用いた。規模の大きな地震の後など、規模別頻度が明らかにGR則から逸脱する場合があるが、そのような場合はR値(Wiemer and Wyss 2000, 2002)によりGR則に従うb値の分布の98%が収まる範囲を閾値として除外した。潮汐相関については、Schuster (1897)の検定手法に基づき、地震発生のタイミングと地球潮汐による体積ひずみ変化の位相角との相関を、D値(D2=(Σi=1N cosθi)2+ (Σi=1N sinθi)2 , θi はi番目の地震の潮汐位相角)を指標として推定した。Schusterの検定においては地震が余震を伴い群れることにより見かけ上の相関が現れる影響を除去する必要があるが、ここでは同時分布の推定という目的に照らし、潮汐周期の半分以内にN/4個以上の地震が集中している場合を除外することとした。地震活動度については、個々の空間グリッドでパラメータ推定したETASモデルによる解析期間内の地震発生数の期待値を指標値とした。ここで用いたETASパラメータの一部は、地震活動の地域性の指標としても用いることができる。
解析により得られたb値の確率密度分布は、b値一定のGR則から期待される分布よりもやや幅の広い釣鐘状の分布となり、従来知られている時空間的な変動を内包していることが分かる。このうち地域性として、高b値が、ETASパラメータのαの低い領域に対応している様子が顕著に見られた。また、時間的な変化として、平均的な地震発生間隔が長くなるほどb値が大きくなる傾向が見られた。これらの時空間的な変動の要因を分析し、地域性等により分類して確率密度分布の対象をスケールダウンしていくことは今後の課題のひとつである。D値の確率密度分布は、短時間にまとまった地震活動を除去することで、潮汐との相関がない場合に期待されるレイリー分布に近づくが、これよりは若干高D値側が膨らむ形となる。この膨らみの要因としては、余震の影響が取り切れていない可能性、実際に潮汐相関のある活動が含まれている可能性の双方があり、その判別には個別の活動の精査が必要と考えられる。ETASモデルによる地震数の期待値の分布も、モデルから期待される分布よりも幅が広いものとなるが、これは、大規模な地震の余震活動の初期に地震数を過小評価し、後半に過大評価するという同一空間グリッド内の時間変化に主に起因するものと見られる。
上述のように、規模別頻度分布がGR則から明らかに外れる場合や余震が頻発する場合等の明らかな“異常”な場合を除いて推定した各種指標の確率密度分布は理論やモデルから期待されるものとは異なる。このため、過去のデータに基づいて推定したこのような分布を “ふつう”の地震活動の特徴として定量化しておくことには意味がある。これらの同時分布があれば、例えば規模別頻度分布と潮汐相関の異常が同時に発現した際には、その異常性がどの程度の出現頻度の事象なのかを定量化することが可能となるだろう。また、顕著地震の発生前や、顕著な地殻変動に対応して、“ふつう”とは異なる指標値の分布が得られることがあるか、あらかじめ把握しておくことも重要である。発表では、このような観点での検討の例も紹介したい。