日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS06] 地震活動とその物理

2021年6月3日(木) 10:45 〜 12:15 Ch.20 (Zoom会場20)

コンビーナ:吉田 康宏(気象庁気象研究所)、座長:永田 広平(気象庁気象研究所)、宮澤 理稔(京都大学防災研究所)

11:30 〜 11:45

[SSS06-10] セルオートマトンを用いた地震の動的破壊と統計的性質のモデル化

*福田 孔達1、波多野 恭弘2、望月 公廣1 (1.東京大学地震研究所 、2.大阪大学理学研究科宇宙地球科学専攻)


キーワード:セルオートマトンモデル、グーテンベルグリヒター則、非平衡統計、動的破壊、オメガ2乗モデル

決定論的な破壊力学から地震活動をどの様に理解していくのかは地震学における重要な課題である。近年、破壊力学に基づいたサイクルシミュレーションの発展はめざましく、現在では、どの様にして現実的で複雑な断層構造を取り入れたシミュレーションを行うのかという段階に来ている。しかし、現実的な不均一構造を十分に取り入れた、破壊力学に基づく地震サイクルシミュレーションの実現は、高速摩擦の理解や計算コストの問題から、まだ実現していない。本研究は、複雑な不均一構造を多体系の問題として捉え、多体系を上手な粗視化によって理解しようとする(非平衡)統計物理的アプローチを用いて、このような問題に取り組む。破壊描像と統計分布の両方の性質を再現するセルオートマトンモデルを作成することで、複雑な地震活動を理解するための有益な粗視化に関して理解を深める事が本研究の目的である。この様な試みは、破壊力学ベースで地震活動を理解するための有益な中継点となりえる。

従来のセルオートマトンモデル研究では、統計性質に主眼が置かれ、Dynamicな破壊描像には触れられて来なかった[Carlson and Langer,1989:Olami et al.,1992]。また、単純な摩擦則のBKモデルは、滑り量が一定のパルス的な破壊描像を持ち、破壊描像としては普通地震の性質を示していないという指摘もある[Ide and Yabe, 2019]。そこで従来からGR則をよく再現すると言われているOlami_Feder_Christensenモデル(OFCモデル)に対して、有限な破壊連鎖の時定数を取り入れる拡張を行う事で、破壊描像を扱えるセルオートマトンモデルを作成した(以下Dynamic OFCモデル)。このDynamic OFCモデルの破壊描像は通常地震的というよりはスロー地震の一つである微動に近い挙動を示す事が分かっている。

このDynamic OFCモデルは、破壊の1ステップ終了時にも破壊閾値(強度に対応)は変化しないという仮定が盛り込まれており、これは破壊連鎖に対して強度回復がとても速いという仮定(破壊連鎖が遅い)を意味している。そこで本研究はこのモデルに対し、破壊連鎖の時定数に対するローディングと強度回復の時定数の比を、新しいパラメターとして取り入れるという拡張を行った。このモデルは、①破壊と応力蓄積、②破壊と強度回復の2つ時定数の競合をパラメターとして、slow現象(破壊伝播が遅い)とfast現象(破壊伝播が速い)を統一的に議論する事が可能なモデルとなっている。

本モデルのfast現象(破壊伝播が速い)のパラメーター範囲において、モーメントレートスペクトルが振動数の-2乗に比例するクラック的な破壊描像と、サイズ頻度分布がベキ分布となるグーテンベルグリヒター則の両方が再現された為、この紹介を行う。また、この様なセルオートマトンモデルが破壊現象の粗視化に対してどの様な視点を与えてくれるのか検討を行う。なお、slow現象(破壊伝播が遅い)のパラメター範囲の結果については、S-CG39セッションにおけるポスター発表にて紹介を行う。