17:15 〜 18:30
[SSS06-P06] せん断ひずみエネルギー変化はb値を変化させるか ―熊本地震及び西南日本のプレート間固着を例に―
キーワード:地震活動、剪断ひずみエネルギー、b値
地震活動の特徴を表す代表的なパラメータの一つであるGutenberg–Richter則のb値の変動は、室内実験による観察や広域的な地震活動の地域差から、差応力に依存すると考えられることが多い。その物理的な背景について、Scholz (1968)が提唱するように、差応力が大きいほど亀裂が拡大する確率が高まり相対的に規模の大きな地震が起こりやすくなると考えることには一定の妥当性がある。しかしながら、特に応力場をその絶対値も含めて推定することには大きな不確定性が伴い、実際の地震活動に対応するスケールで差応力を推定することは困難であるため、地震のリアルタイム監視や地震発生予測への活用を視野に入れたとき、b値の変化を差応力との対応関係だけに着目して論じるのは現実的ではないだろう。
一方、応力場の相対的な変化から断層面を仮定することなくせん断応力の蓄積の程度を定量的に評価する指標として、近年、せん断ひずみエネルギー変化(Saito et al., 2018; Matsu’ura et al., 2019; Terakawa et al., 2020; Noda et al., 2020)を用いることが提唱されている。せん断ひずみエネルギーの増加は、地殻中に断層面がランダムに分布する場合のせん断応力の平均的な増加を意味しており、地震発生数の増加との関係がすでに報告されている。せん断ひずみエネルギーの増加が、地震がより大きく成長することを促進するのであれば、これに対応してb値の低下が見られることが期待される。
このような見通しに基づき、2016年熊本地震によるせん断ひずみエネルギー変化(Noda et al., 2020)に対応する地震活動の規模別頻度分布の違いについて調査した。せん断ひずみエネルギーの推定値は、主に有効摩擦係数の仮定が必要であることに起因する不確定性を持つが、有効摩擦係数が0という非現実的な場合を除き、増減の空間分布は断層の極近傍以外で概ね一定である。このためまず、有効摩擦係数が0.1~0.4のいずれの場合にもせん断ひずみエネルギーが増加した(positive ΔSSE)領域、低下した(negative ΔSSE)領域を特定し、それぞれについて、領域内で発生した地震を気象庁一元化震源から抽出、熊本地震発生前(2000年1月~2016年4月13日)、発生後地震検知力が概ね回復した後(2016年4月16日8時~2020年8月)のb値を、解析対象とするM下限を2.0から3.0まで変えてそれぞれ推定した。
この結果、positive ΔSSE領域では、熊本地震発生前に比べ発生後にb値が低下しており、その減少幅はほぼ全てのM下限について標準誤差を超えるものであった。また、熊本地震発生後には、positive ΔSSE領域のb値は、その差は標準誤差よりもやや小さい場合が多いものの、すべてのM下限についてnegative ΔSSE領域のb値よりも低かった。negative ΔSSE領域では、熊本地震前後で明瞭なb値の変化は見られなかった。なお、これらの各比較対象における地震活動の深さの分布には大きな差異はない。
上記の結果に加え、西南日本のプレート間固着に起因するせん断ひずみエネルギー変化(Saito et al., 2018)とb値の対応関係を調査している。解析対象領域全体でせん断ひずみエネルギー変化の正負に対応する地震活動の規模別頻度分布を比較すると、せん断ひずみエネルギー変化が負の領域でb値が高めな傾向が見られる。広域での比較となるため、地域的な差には地震発生層の深さや流体の影響など他にも要因が考えられ、単純に比較できない部分もあるが、全体を平均してみれば予想と調和的な結果が得られている。発表ではこれらの結果についてもあわせて議論したい。
一方、応力場の相対的な変化から断層面を仮定することなくせん断応力の蓄積の程度を定量的に評価する指標として、近年、せん断ひずみエネルギー変化(Saito et al., 2018; Matsu’ura et al., 2019; Terakawa et al., 2020; Noda et al., 2020)を用いることが提唱されている。せん断ひずみエネルギーの増加は、地殻中に断層面がランダムに分布する場合のせん断応力の平均的な増加を意味しており、地震発生数の増加との関係がすでに報告されている。せん断ひずみエネルギーの増加が、地震がより大きく成長することを促進するのであれば、これに対応してb値の低下が見られることが期待される。
このような見通しに基づき、2016年熊本地震によるせん断ひずみエネルギー変化(Noda et al., 2020)に対応する地震活動の規模別頻度分布の違いについて調査した。せん断ひずみエネルギーの推定値は、主に有効摩擦係数の仮定が必要であることに起因する不確定性を持つが、有効摩擦係数が0という非現実的な場合を除き、増減の空間分布は断層の極近傍以外で概ね一定である。このためまず、有効摩擦係数が0.1~0.4のいずれの場合にもせん断ひずみエネルギーが増加した(positive ΔSSE)領域、低下した(negative ΔSSE)領域を特定し、それぞれについて、領域内で発生した地震を気象庁一元化震源から抽出、熊本地震発生前(2000年1月~2016年4月13日)、発生後地震検知力が概ね回復した後(2016年4月16日8時~2020年8月)のb値を、解析対象とするM下限を2.0から3.0まで変えてそれぞれ推定した。
この結果、positive ΔSSE領域では、熊本地震発生前に比べ発生後にb値が低下しており、その減少幅はほぼ全てのM下限について標準誤差を超えるものであった。また、熊本地震発生後には、positive ΔSSE領域のb値は、その差は標準誤差よりもやや小さい場合が多いものの、すべてのM下限についてnegative ΔSSE領域のb値よりも低かった。negative ΔSSE領域では、熊本地震前後で明瞭なb値の変化は見られなかった。なお、これらの各比較対象における地震活動の深さの分布には大きな差異はない。
上記の結果に加え、西南日本のプレート間固着に起因するせん断ひずみエネルギー変化(Saito et al., 2018)とb値の対応関係を調査している。解析対象領域全体でせん断ひずみエネルギー変化の正負に対応する地震活動の規模別頻度分布を比較すると、せん断ひずみエネルギー変化が負の領域でb値が高めな傾向が見られる。広域での比較となるため、地域的な差には地震発生層の深さや流体の影響など他にも要因が考えられ、単純に比較できない部分もあるが、全体を平均してみれば予想と調和的な結果が得られている。発表ではこれらの結果についてもあわせて議論したい。