日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS07] 地殻構造

2021年6月3日(木) 10:45 〜 11:45 Ch.19 (Zoom会場19)

コンビーナ:山下 幹也(国立研究開発法人 産業技術総合研究所)、座長:白石 和也(海洋研究開発機構)

10:45 〜 11:00

[SSS07-01] 火山体直下の地下構造探査における地震波干渉法の適用可能性の検討

*小割 啓史1、山田 浩二1、上野 龍之1 (1.株式会社阪神コンサルタンツ)

キーワード:地下構造探査、地震波干渉法、微動、トモグラフィ、大山火山

 火山体の調査を行う上で,起伏に富んだ山体の地下構造探査には大型バイブレータを使用する反射法は適用しにくく,また発破による探査も十分な発破点数を確保することが現実的に難しい.そこで地下構造探査手法の検討の一環として微動を用いた地震波干渉法の適用を試みたので報告する.解析対象として,過去に数回の噴火を起こした鳥取県の大山火山を選択した.
 本解析で使用したデータは,大山火山山頂から概ね50 km以内に位置する防災科学技術研究所Hi-net観測点13点と京都大学3点の計16点で観測された連続速度記録である.データの収集期間は2019年1月1日から1年間とした.メンテナンスなどに伴うデータ欠損が確認される期間は生データから目視で探索し,予め除いた.
 解析手法を述べる.最初に自然地震やノイズなど大振幅の事象を低減するための処理を行った.本解析では,Bensen et al.(2007)のスペクトルホワイトニング法(通過させる周波数帯域内でパワーを規格化する手法)を採用した.その後記録に0.05 Hz~2 Hzの帯域のバンドパスフィルタを施した.時刻ウィンドを450秒ごとに移動させながら409.6秒間(10 Hzサンプリング)のデータを切り出し,各時刻ウィンドで相互相関関数を計算した.この時,レイリー波の計算には上下動成分同士,ラブ波の計算にはトランスバース成分同士を用いた.データ欠損がない場合の最大スタック数は70,080である.上下動成分同士を干渉させて得られた相互相関関数をFig. 1に示した.この相互相関関数を遅延時間0で折り返したデータに対し,マルチプルフィルタ法によって非定常スペクトルを計算し、ピークを読み取ることで2つの観測点間の群速度を得た.この時,併せて算出したフェーズシフトを用いて群速度から位相速度を得た.尤もらしい群速度を得ることができる周波数帯域は観測点の組み合わせごとに異なるため,抽出が可能な周波数帯域は手動で決定した.Fig. 2に得られた位相速度と共に,2017年9月3日に北朝鮮で発生した爆発的事象による記録を巨大な表面波探査の観測記録とみなし,近畿地方における大局的なS波速度構造の推定と日本全国における位相速度の地域的な違いの議論を行った山田(2018,2019)の結果をプロットした.最後にFMST(Rawlinson and Sambridge, 2005)のルーチンを用いて2次元走時トモグラフィを行い,レイリー波とラブ波について群速度及び位相速度の空間分布を得た.グリッド間隔を0.05度,モデルの初期値は群速度及び位相速度が抽出できた全パスの平均値とし,7回の反復計算を行った.Fig. 3に0.4 Hzにおけるレイリー波の位相速度の空間分布を示す.
 以下結果を示す.Fig. 1より,相互相関関数は明らかに非対称である場合が多い.また,相互相関関数の遅延時間の正負それぞれにおける最大振幅の比の季節変化が特に南北方向の観測点ペアで顕著だった.この比は1月が最大で,6月が最小である.よって冬に観測点群の北(日本海)に位置する波源から南方向へのパスの振幅が大きい傾向が見られる.レイリー波の位相速度の分布(Fig. 3)における伝播速度が小さい地域は,大局的に負の重力異常が見られる地域(Fig. 4)と概ね一致している.Fig. 4の図示範囲内で最も顕著に負の重力異常が観測される鳥取県西部の弓ヶ浜は基盤が約1.5 kmと深く(西田,2003),堆積層を反映したと考えられる伝播速度の遅い領域が求まった.弥山-孝霊山構造線(太田,1962)の北東側と大山-蒜山火山列にかけて負の重力異常が観測される(小室・他,1997)が,この地域で表面波の伝播速度は周囲と比較して遅い.この傾向はより深い層まで反映する低周波数で顕著であった.またレイリー波の群速度及びラブ波の位相速度・群速度においてもこの傾向が同様に見られた.これは大山-蒜山火山列は比較的低密度な火山岩で構成されており,基盤岩(深成岩)が露出する周囲と表面波の低速度領域及び負の重力異常領域としてのコントラストを形成していると考えられる.

謝辞:本解析では防災科学技術研究所の高感度地震観測網Hi-netと京都大学の連続観測記録を使用しました.