16:30 〜 16:45
[SSS08-05] 直接的先験情報を取り入れた長期間地震データによる3次元テクトニック応力場の推定
キーワード:応力、地震、逆解析
複雑な沈み込み帯に位置する日本列島の周辺域では,プレート運動が作り出すテクトニック応力場を反映した多様な地震活動が観測される. CMTデータインバージョン法(Terakawa & Matsu’ura, 2008)は,モーメントテンソルの定義に基づいてCMTデータと応力場を結び付け,ベイズの統計推論とABIC(Akaike, 1980)によるインバージョン手法(e.g., Yabuki & Matsu’ura, 1992)に従って3次元応力場のパターンを推定誤差と共に求める解析法である.これまでに,CMTデータインバージョン法に防災科学技術研究所のF-netモーメントテンソルカタログのデータ(期間:1997年1月~2007年1月)を適用し,当時の最大限のデータから日本列島全域のテクトニック応力場のパターンが推定されている(Terakawa & Matsu’ura, 2010).
本研究では,従来のCMTデータインバージョン法を改良し,長期間の地震データから安定的にテクトニック応力場とその時間変化を推定することを目指している.この目的のため,既存のデータセットから得られた応力場の推定結果を直接的先験情報(モデルパラメータの取り得る値の分布)として取り入れる解析機能を追加した.具体的には,Matsu’ura et al. (2007) による測地データのインバージョン法の定式化に基づき,直接的先験情報とモデルパラメータの構造を規定する間接的先験情報を統一的に取り扱うことができるようにした.既存のデータセットから得られた直接的先験情報に,新しい観測データを追加した解析を実施することで,一般には,応力場の推定精度が向上することが期待される.一方,新しいデータを追加したことで推定誤差が大きくなる場合は,応力場の時間変化があったことを示唆する.これらのことは,模擬データを用いた解析により,正しく再現できることを確認した.
F-netモーメントテンソルカタログによる実データを用いた解析事例として,2016年熊本地震の震源を含む九州地方の応力場を推定した.まず,期間1(1997年1月~2007年1月)のデータを用いたTerakawa & Matsu’ura (2010) の解析結果(ケース1)を直接的先験情報として取り入れ,2007年2月1日~2016年4月13日(熊本地震の前震の発生直前)までの期間2のデータを新しいデータとして追加して応力場を推定した(ケース2).ケース1と2の結果を比較すると,両者は推定誤差の範囲内でよく一致した.また,推定誤差は,直接的先験情報と新しいデータを追加した解析の方が有意に小さくなった.次に,この新たな結果を直接的先験情報とし,期間3(2016年4月14日~2019年4月30日)のデータを追加し,同様の解析を実施した(ケース3).ケース2と3の結果を比較すると,応力場の大きな特徴に変化はないが,熊本地震震源域の浅い領域(深さ 5 km)で,応力場のパターンに時間変化があった可能性がある.また,期間3では震源域の地震データが多くなったにも拘わらず,特に,布田川断層周辺域で応力場の推定誤差は大きくなった.このことは,期間1・2と期間3で,布田川断層周辺域に地震活動の様式が変化したことを示している.布田川断層では大きなすべりがあり,その周辺域では基本的には剪断応力が解放されていることから,ここでの地震の発生は,例えば間隙流体圧の上昇などによる断層強度の低下によるものかもしれない.
本研究では,従来のCMTデータインバージョン法を改良し,長期間の地震データから安定的にテクトニック応力場とその時間変化を推定することを目指している.この目的のため,既存のデータセットから得られた応力場の推定結果を直接的先験情報(モデルパラメータの取り得る値の分布)として取り入れる解析機能を追加した.具体的には,Matsu’ura et al. (2007) による測地データのインバージョン法の定式化に基づき,直接的先験情報とモデルパラメータの構造を規定する間接的先験情報を統一的に取り扱うことができるようにした.既存のデータセットから得られた直接的先験情報に,新しい観測データを追加した解析を実施することで,一般には,応力場の推定精度が向上することが期待される.一方,新しいデータを追加したことで推定誤差が大きくなる場合は,応力場の時間変化があったことを示唆する.これらのことは,模擬データを用いた解析により,正しく再現できることを確認した.
F-netモーメントテンソルカタログによる実データを用いた解析事例として,2016年熊本地震の震源を含む九州地方の応力場を推定した.まず,期間1(1997年1月~2007年1月)のデータを用いたTerakawa & Matsu’ura (2010) の解析結果(ケース1)を直接的先験情報として取り入れ,2007年2月1日~2016年4月13日(熊本地震の前震の発生直前)までの期間2のデータを新しいデータとして追加して応力場を推定した(ケース2).ケース1と2の結果を比較すると,両者は推定誤差の範囲内でよく一致した.また,推定誤差は,直接的先験情報と新しいデータを追加した解析の方が有意に小さくなった.次に,この新たな結果を直接的先験情報とし,期間3(2016年4月14日~2019年4月30日)のデータを追加し,同様の解析を実施した(ケース3).ケース2と3の結果を比較すると,応力場の大きな特徴に変化はないが,熊本地震震源域の浅い領域(深さ 5 km)で,応力場のパターンに時間変化があった可能性がある.また,期間3では震源域の地震データが多くなったにも拘わらず,特に,布田川断層周辺域で応力場の推定誤差は大きくなった.このことは,期間1・2と期間3で,布田川断層周辺域に地震活動の様式が変化したことを示している.布田川断層では大きなすべりがあり,その周辺域では基本的には剪断応力が解放されていることから,ここでの地震の発生は,例えば間隙流体圧の上昇などによる断層強度の低下によるものかもしれない.