日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS08] 地震発生の物理・断層のレオロジー

2021年6月4日(金) 09:00 〜 10:30 Ch.20 (Zoom会場20)

コンビーナ:金木 俊也(京都大学防災研究所)、大谷 真紀子(東京大学地震研究所)、岡崎 啓史(海洋研究開発機構)、吉田 圭佑(東北大学理学研究科附属地震噴火予知研究観測センター)、座長:岡崎 啓史(海洋研究開発機構)、金木 俊也(京都大学防災研究所)

09:45 〜 10:00

[SSS08-10] 島弧海溝系における堆積物のすべり特性解明に向けた火山ガラス-粘土混合系の摩擦実験

*奥田 花也1,2、廣瀬 丈洋3、山口 飛鳥1,2 (1.東京大学 大気海洋研究所 海洋底科学部門、2.東京大学 理学系研究科 地球惑星科学専攻、3.海洋研究開発機構 高知コア研究所)

キーワード:火山ガラス、沈み込み帯、地震、海底地すべり、粘土

海溝における海洋プレートの沈み込みは、上盤プレート深部におけるマグマの形成によって島弧を形成する。日本の南海トラフや中米のバルバドス海溝では、島弧火山から供給される火山噴出物が海洋プレート上に堆積し、海溝から再び沈み込むことが知られる。特に南海トラフでは沈み込む堆積物中に35%程度火山噴出物が含まれており(Scudder et al., 2018)、また付加体中には火山灰層も多く報告されている(Screaton et al., 2009)。火山噴出物に多く含まれる火山ガラスはスメクタイトへと変わる変質に伴い周囲の堆積物の強度を高めるほか(e.g., White et al., 2011)、火山ガラスのような非晶質物質は摩擦強度が弱い可能性が指摘されている(e.g., silica-gel lubrication; Goldsby & Tullis, 2002)。一方で、スメクタイト等の粘土鉱物は低い摩擦係数を持ち、容易に大きなすべりを引き起こしうることから(e.g., Faulkner et al., 2011)、火山ガラス-粘土混合系のすべり挙動の理解は沈み込み帯浅部における堆積物のすべり挙動を解明する上で重要である。
そこで本研究では火山ガラスとスメクタイトを用いた摩擦実験を、海洋研究開発機構高知コア研究所の流体制御型高速剪断装置(Tanikawa et al., 2012, 2015)を用いて行った。様々なスメクタイト含有量の試料に対して、有効垂直応力5 MPa、間隙水圧10 MPaの条件で、10 μm/secから1 m/secまでの速度における剪断強度を測定した。
火山ガラス100%の場合、10 μm/secから30 mm/secまでは摩擦係数が0.6から0.75程度で速度強化を、100 mm/secより高速領域では急激な速度弱化を示し、1 m/secにおける摩擦係数は0.25であった。スメクタイトの含有量が増えるとすべての速度で摩擦係数は下がり、300 μm/sec以下の速度ではスメクタイト50%以上、1-3 mm/sec以上ではスメクタイト15%以上の条件において、摩擦係数は0.1程度と低い値を示した (図)。
火山ガラスは高速条件で動的強度弱化するが、その定常状態の摩擦係数はスメクタイトよりも高く、また1-3 mm/secにおける速度強化は高速すべりへの発展を抑制する効果をもつ。一方でスメクタイトの含有量は摩擦強度に大きく影響し、15%以上のスメクタイトの存在により摩擦強度の低下および1-3 mm/secでの速度弱化を示すことで容易に高速すべりへと発展しうる。このことから、南海トラフのような多量の火山噴出物を含む沈み込み帯の浅部の断層では、深度が浅くなるにつれ火山ガラスが変質せずに保存されることから摩擦強度の上昇および速度強化がおこると想定される。即ち、深部の地震発生帯で発生した地震は浅部に近づくにつれてすべり速度が減少し、最浅部での断層すべりを抑制しうる。一方、火山ガラスの変質によるスメクタイト含有量の増加は、変質した火山灰層が弱面として働くことで、海底地滑りなどの高速すべりを引き起こす可能性がある。このように火山ガラス-スメクタイト混合系の摩擦特性は沈み込み帯浅部の断層運動や海洋底表層における地形変動に大きく影響し、またそれに伴う津波発生プロセスの理解にも重要であると考えられる。