日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS08] 地震発生の物理・断層のレオロジー

2021年6月4日(金) 09:00 〜 10:30 Ch.20 (Zoom会場20)

コンビーナ:金木 俊也(京都大学防災研究所)、大谷 真紀子(東京大学地震研究所)、岡崎 啓史(海洋研究開発機構)、吉田 圭佑(東北大学理学研究科附属地震噴火予知研究観測センター)、座長:岡崎 啓史(海洋研究開発機構)、金木 俊也(京都大学防災研究所)

10:15 〜 10:30

[SSS08-12] 回転式せん断摩擦試験機を用いた砂岩の摩擦挙動の解明

*矢野 弘道1、宮本 英1、廣野 哲朗1 (1.大阪大学大学院理学研究科宇宙地球科学専攻)

キーワード:摩擦、砂岩、断層鏡面

近年のプレート境界断層掘削調査によって, 南海トラフは砂質であることが明らかになった. 地震時の断層滑り挙動を理解するためには, 室内実験が有効であるが, 未だ砂岩での研究例がほとんど実施されていない. そこで本研究では, 南海トラフにおける断層のすべり挙動を解明するために, 回転式剪断摩擦試験機を用いた砂岩の摩擦実験および実験後試料の滑り帯の微小構造観察と表面凹凸計測を実施した.

実験では砂質な断層を模擬するため, 砂岩ブロックを用い, 山口大設置の回転式高速摩擦試験機にて,垂直応力1MPaとすべり距離20mの一定の条件下で, 1 m/sから0.001 m/s までの広い速度域にて, 摩擦特性の速度依存性に着目し,実験を実施した.結果, 高速すべり(1.0 m/s)では摩擦係数の増減を繰り返す不安定な摩擦挙動を示し,ブロックが大きく摩耗した. 低速すべり(0.1 m/s 以下)では指数関数的な安定したすべり弱化を起こして, 実験後のブロック表面に断層鏡面を形成した.

実験後の薄片での滑り帯断面の電子顕微鏡観察を行った結果,高速実験での滑り帯では岩石の破片(~10 µm)が観察されるのに対し,低速実験での滑り帯では球状のナノ粒子が確認された.また,滑り帯の表面の観察では,高速実験では摩耗により凹凸の激しい表面とブロックの破片が観察されたのに対し,低速実験では100 nmほどの球状の粒子と凹凸のない滑らかな表面が観察された.また,3D形状測定機を用いた表面凹凸計測の結果, 実験後の断層鏡面が天然の断層にみられる断層鏡面の表面粗さと近い値を示した.

以上の摩擦実験データと構造観察結果から考察すると, 砂質な断層ではすべり速度に応じて摩擦・摩耗のメカニズムが大きく異なると考えられる. 高速すべりではブロックの摩耗が顕著であり, ガウジ層内に散在した大きな破片が, 噛み合いや離脱を起こすことによって, 摩擦係数の増減を繰り返す不安定な摩擦挙動を示す. 一方,低速すべりでは摩耗によって生じた球状のナノ粒子がブロック表面の凹凸を埋めて断層鏡面を形成する.さらに,断層鏡面上でのすべりによって弱化を起こし,その後は安定した摩擦挙動を示す.

このような, 滑り速度による摩擦挙動および断層面の状態の違いは, 砂質な断層での破壊伝播挙動に強い影響を与えると予想される.