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[SSS08-15] 四万十帯日高川層群美山累層における太古のプレート境界断層の滑り痕跡:有機地球化学ー地球化学的分析によるアプローチ
キーワード:炭質物、分光分析、微量元素
近年,プレート沈み込み境界断層の滑り挙動の理解に向けて,陸上に露出している付加地質体に発達する太古のプレート境界断層の調査が実施されている.現在および過去の南海トラフでは,後背地からの距離に依存して,プレート境界断層を構成する鉱物種が変化すると予想される.そのため,海溝に平行な方向での断層の特徴および滑り挙動を明らかにすることは重要である.そこで,本研究では和歌山県御坊市三尾地域の海岸に露出する四万十帯日高川層群美山累層のメランジュユニットを調査対象とした.本海岸では,砂岩・泥岩・チャート・玄武岩が著しい変形構造を呈し,その中でも幾つかの直線性のよい断層が確認される.そこで,当断層およびその周囲の母岩から試料を採取し,微小構造観察・炭質物による熱履歴解析・主要-微量元素濃度測定を実施した.まず微小構造の観察の結果,母岩および周囲の方クレーサイトと比較して,主滑り帯では顕著な細粒化が確認される.次に,炭質物のラマン分光分析の結果,母岩では最高履歴温度が200℃と推定されることに対し,主滑り帯では400~900℃と推測される.さらに,主要-微量元素濃度分析の結果,主滑り帯は母岩と比較して石英の減少と斜長石の増加が顕著である.そこで緑色片岩相での母岩と高温流体との間の交代作用により起こるアルバイト化を仮定したモデル計算を実施した結果,主滑り帯での元素濃度異常は300℃以上の高温流体を介したアルバイト化で説明可能なことが明らかになった.以上の結果から考察すると,プレート沈み込み境界断層では,地震時もしくはその直後に発生した高温流体によって,断層内の鉱物組成が大きく変化すると言える.このような変化は繰り返す地震での滑り挙動に影響を与えるかもしれない.