日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS08] 地震発生の物理・断層のレオロジー

2021年6月4日(金) 15:30 〜 16:45 Ch.20 (Zoom会場20)

コンビーナ:金木 俊也(京都大学防災研究所)、大谷 真紀子(東京大学地震研究所)、岡崎 啓史(海洋研究開発機構)、吉田 圭佑(東北大学理学研究科附属地震噴火予知研究観測センター)、座長:吉田 圭佑(東北大学理学研究科附属地震噴火予知研究観測センター)、椋平 祐輔(東北大学 流体科学研究所)

15:30 〜 15:45

[SSS08-23] 青森県東方沖における将来の地震発生に備えた海底地殻変動の緊急観測と海底地震計の設置

*堀 高峰1、飯沼 卓史1、富田 史章1、木戸 元之2、本荘 千枝3、東 龍介3、唐 啓賢3、太田 雄策3、中田 令子3、日野 亮太3、篠原 雅尚4、小平 秀一1 (1.独立行政法人海洋研究開発機構・海域地震火山部門、2.東北大学災害科学国際研究所、3.東北大学大学院理学研究科、4.東京大学地震研究所)

1. 緊急観測実施の背景
1968年十勝沖地震(Mw8.2)破壊開始点やすべり域の付近でもあり、1994年三陸はるか沖地震(Mw7.7)のすべり域の付近でもある青森県沖で、2020年11月6日から7日にかけてM5クラスの地震が続発し、前震の可能性が懸念された。また、2011年東北地方太平洋沖地震での観測事実も併せて考えると、今回の活動が次のM8クラスの地震につながるかどうかを議論するには、震源域近傍での断層すべり・固着状態を把握・評価する必要があるため、ゆっくりすべりを含んだ地殻変動の推移を、できる限り時間および空間分解能を上げて取得する必要があると考えた。このため、海底地殻変動観測用のウェーブグライダーを展開して、既存観測点におけるデータを取得するとともに、海底地殻変動観測点の新設をできるだけ早く行うため、11月末から予定されていた別目的の航海への相乗りの形で緊急観測を実施した。さらに、新設した海底地殻変動観測点の船舶を用いた位置決めと、S-net観測網の間を埋める地震観測のための海底地震計の投入を2月に傭船を用いて行った。
2. 観測概要と結果
・新規海底地殻変動観測点の設置
MR20-E02航海(海洋地球研究船「みらい」)において、2020年11月30日に新規GNSS音響結合方式(GNSS-A)海底地殻変動観測点(G25: 40°41.61´N、143°31.15´E、水深2289.3 m)を設置した。
・ウェーブグライダーを用いた海底地殻変動観測の実施
従来、海底地殻変動観測は観測装置を予め装備した研究船を用いて実施されていたが、1観測点につき半日以上の観測時間を要するGNSS-A観測を実施するには研究船は運用コストが高く、乗船研究者の人的コストも高い。JAMSTECと東北大学が共同して開発に取り組んでいるウェーブグライダーを用いたGNSS-A観測システムは、ウェーブグライダーの投入・回収時に船舶を用いる以外は、全て陸上からの衛星通信で観測を実施することが可能である。ウェーブグライダーは波力によって航行し、観測機材は搭載したバッテリーと太陽光発電によって賄われるため、長期自律的な運用が可能である。そのため、多観測点の網羅的な観測に対しても緊急観測に対しても効果的に運用することができる。2019年以降に実海域での観測データの取得を試み、その測位精度は船舶で取得した観測データと同等であることが既に示されている(Iinuma et al., 2019)。
緊急観測では、MR20-E02航海において2020年11月30日にウェーブグライダーをG25観測点にて投入・観測を実施した後、陸上からのリモート操作によりG02・G03観測点へ航行・観測を実施し、2020年12月11日にG03観測点にてウェーブグライダーを回収した。観測データはThuraya衛星通信機器により準リアルタイムで陸上に送信され、陸上にてそのデータ解析の実施を今回初めて試みた。陸上の解析環境の整備が不十分であったため緊急観測実施中における迅速なデータ解析はできなかったものの、海底地殻変動の検出に必要なデータの準リアルタイム取得には成功した。陸上の解析環境が整えば、観測データを取得後に準リアルタイムで海底地殻変動の検出が可能であると見込まれる。
2020年11月以前の観測データから、G02では顕著な変動がなく、G03では2015年2月に発生したスロースリップイベントの影響(Honsho et al., 2019)以外は顕著な変動が見られていなかった。今回の観測結果は、両観測点とも2020年6月の測位結果から大きな変動(特に、断層すべりに伴うような東向きの変位)は見られず、2020年11-12月の地震活動に伴う顕著な非地震性すべり等は三陸沖北部海溝付近のプレート境界では発生していないと考えられる。
・地震計設置や今後の解析について
 上記のG02・G03観測点では、2020年10月にもGNSS-A観測を実施しており、その観測結果との比較を実施する(2020年10月ではリアルタイムのデータ取得を実施していなかったため、今回の緊急観測よりも解析が遅れている)。G25観測点では今回の緊急観測が観測点設置後の初回の観測であるため地殻変動の検出はできていないが、2021年2月14日から17日にかけての傭船航海によって、船底トランスデューサを用いた海底観測点の観測により、観測間の地殻変動量を検出する見込みである。この間には、2020年12月21日にG25の西(1994年三陸はるか沖地震時すべり域の北端)でM6.5の地震が発生しており、これに伴う余効すべりによる地殻変動が生じている可能性もある。また、今後の観測に備え、陸上でのリアルタイム解析環境の整備を進める計画である。さらに、2021年2月の航海では、3点に広帯域海底地震計(観測期間1年)も設置した。過去のM8クラスの地震時すべりとその余震、1930年以降の地震活動(M5以上)、相似地震のいずれもほとんど起きていない領域があり、ここがどのような動きをしているか(固着かすべりか)を明らかにすることも、G25観測点ならびに3つの広帯域海底地震計での観測の重要な課題と考えている。
謝辞
海洋地球研究船「みらい」による異なる目的の航海に急遽相乗りさせて頂くことを快く引き受けてくださった地球環境部門の河野健部門長・統括責任者の原田尚美センター長や、予定変更に伴う様々な準備や現場での対応などでご協力頂いた首席研究者の木元克典主任研究委員をはじめとした乗船者の皆様に感謝致します。また、大地震発生後ではない今回のようなタイミングでの緊急調査とそのための臨時の予算執行について、その意義を理解頂き、後押し頂いた海洋研究開発機構阪口秀研究担当理事・堀宗朗部門長はじめ、賛同頂いた他の部門長の方々に感謝致します。また、11/5-6の群発的な地震活動についての議論に関わって頂いた方々、特にその議論の中で、臨時観測の必要性を訴えてくださった東京大学地震研究所の中谷正生准教授、11月の群発地震活動の解釈や過去のこの地域での地震活動の議論に加わって頂いた方々に感謝致します。